石炭融資を続けるしたたかな民間金融機関


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「エネルギーレビュー」からの転載:2020年1月号)

 事業投資検討の際に問題になるのは、事業に関わる不確実性、リスクだ。資源開発事業だと、将来の需要量、採掘量、価格、採掘コストなどが変動すれば、事業採算にどのような影響が生じるのか解析が必要になる。資金を融資する金融機関も当然同様の分析を行うが、事業者、金融機関にとり最も重要なことは事業が継続されることだ。何らかの原因により事業が中断する蓋然性が高いならば、事業投資・融資はできない。

 事業中断の原因には様々なことがあるが、一つのおおきな要因は政府による政策、規制の変更だ。事業の中断までには至らなかったが、具体例はある。2013年、スペイン政府は再エネの固定価格買取制度の負担額が大きくなりすぎたため、突然買取価格を変更した。事業開始時に遡及し約束されていた価格が引き下げられたので、事業者の当初の収益見通しは実現しないことになった。その後スペインでは再エネ投資を行う事業者が消えてしまった。政策により約束されていた価格が突然変えられるリスクを取れる事業者はいないからだ。

 政策が事業に大きな影響を与えるケースとしては、気候変動対策のため化石燃料への規制強化が考えられる。先進国では、石炭火力を新設した場合、プラント寿命にもかかわらず政策により操業の停止を要求されることがあるかもしれない。金融機関も政策による事業環境の変化を考えると融資を躊躇することになる。

 世界銀行などの国際金融機関は、気候変動対策として2013年から石炭火力など石炭関連事業への融資を停止した。多くの民間金融機関も追従したが、規制が強まり事業中断の可能性があるとすれば、民間企業としては当然の判断だろう。

 しかし、民間金融機関は額面通りには石炭への融資を見合わせていないようだ。フランスの環境NGOは、欧州の金融機関、保険会社は依然石炭関連への融資を行い、保険を付保していると非難する報告書を2019年11月に出した。

 NGOによると、BNPパリバは2019年のみで22億ユーロ(2600億円)以上を石炭火力の新設計画を持つ企業に融資している。石炭火力事業に直接融資は行っていないものの、例えば、インドネシアにおいて石炭火力増設を図っている国営電力企業PLNに対する融資を行っていると非難している。

 国営企業が石炭火力を増設する限り政策変更による事業への影響は極めて小さいと判断される。金融機関としてリスクが小さいのであれば、融資するのは当然の営業行為だろう。しかも、人口が急増し経済が大きく成長している新興国では、競争力があり安定供給に寄与する電源開発は急務だ。この融資は非難されるのだろうか。融資の判断は気候変動問題だけにより行われるわけではない。NGOの主張は気候変動問題を重視する先進国の論理を途上国にも押し付けているように思える。

 NGOは石炭関連事業に係わる417の企業をリストアップし、融質を拒絶するように金融機関に要請している。欧州では天然ガス関連事業への融資も行わない方針が出されたことから、このリストは、さらに膨らむことになりそうだが、民間金融機関は従うのだろうか。

 欧州投資銀行は天然ガスを含め化石燃料関連への融資を2021年までに止める方針を11月14日に決定した。棄権するとみられていたドイツは最終的には賛成に回り、主要国は全てこの方針を支持した。石炭に加え天然ガスヘの融資を国際金融機関が見合わせるとなると、その影響は途上国だけではなく中東欧諸国にも広がることとなる。

 気候変動問題だけを重要とする欧州主要国の考え方は、世界で受け入れられるのだろうか。電気がない生活をしている人がまだ多くいる世界では、安定的な電力供給は金融機関にとっても第一の優先事項ではないのだろうか。