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「電力は足りている」のか?

──厳冬に活躍した電力間融通と「ネガワット取引」 


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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2.4 揚水発電の限界

 そもそも冬場は、照明点灯や暖房需要によって夕方需要が急増する。太陽光発電も日中稼働していたとしても夕方にはほとんど稼働しなくなるため、太陽光発電の発電電力量が急速に減少するなかで、急増する電力需要を賄う必要がある。そうしたときこそ、反応速度の速い発電所が活躍することが期待される。しかし太陽光発電が積雪により日中稼働しない状態であったため、揚水発電を日中の電力供給の戦力として使わざるを得なくなっていた。本来揚水発電は水を下から上に揚げて使うためエネルギーの約3割はロスしてしまう。kWの価値を素早く提供することを期待される設備であり、kWhを提供するという意味では効率が悪いにもかかわらず、それに頼らざるを得なかったのである。
 また、夏場と違い冬場のピークは時間が長い。夏場の電力需要は山型、冬場はふたこぶらくだ型と言われるが、東京エリアの電力需要の推移をみると、こぶにもならず高い需要が日中かなり長い時間継続していることがわかる。上下のダムのキャパシティーや稼働のさせ方次第ではあるが、揚水発電を日中フルで活用することの限界も考慮されなければならない。

3.需給ひっ迫をどう乗り越えたか

 東日本大震災直後の計画停電と同年夏に実施された電力使用制限は、わが国の電力システムのあり方に疑問を投げかけ、今回の電力システム改革のきっかけとなった。全国的な融通を促進すること、そして、価格シグナルや市場の活用によって需要をコントロールするデマンドレスポンスの促進が模索された。今回、広域融通およびデマンドレスポンスがどのように機能したのかを振り返ってみたい。

3.1 広域融通

 2015年4月に「電気事業の広域的運営」推進を目的に設立された、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)から、他エリアの発電事業者に対して電力融通の指示が出され、結果として、図3のように北は北海道から南は九州まで、東京エリアに対する電力融通を行った。しかし、こうした電力会社間の融通は以前から電力会社の自主的な判断として行われていた。自社の発電設備に余裕があるなら、稼働させて販売したほうが良いに決まっている。


図3/融通実績
(出典:総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(第8回) 資料5「2018年1月~2月における東京エリアの電力需給状況について」)

 それを広域機関による指示によって確実に行うこととしたわけだが、制度化したがゆえの使いづらさも出ているようだ。まず、広域機関が融通の指示を出すのは、原則的には「ゲートクローズ後」とされている(広域機関「業務規程」第113条)。その時点で予備力を判断して融通の指示を出すということになるが、1月22日の降雪およびその後の低温により太陽光発電が数日間にわたり稼働が期待できないこと、揚水発電の稼働の限界などを総合的に考えれば、ゲートクローズの時点まで待たずとも融通の要否は判断できたであろう。必要があればゲートクローズ前でも指示の発出が可能とされてはいるが、市場が動いている時間帯に融通指示を出すことで価格をゆがめてしまうことを避けながら、運用面の柔軟性を高めることが可能かどうか、制度の検討も求められる。
 さらにいえば、融通の指示を出された他エリア事業者も、その瞬間のkWには余裕があったとしても、長期的な燃料確保の手当てがつかなければ融通には応じることをためらうだろう。燃料調達には月単位のリードタイムが必要であり、燃料消費が計画以上に進んでしまえば、近い将来自社が燃料制約に直面する可能性が出てくる。冬の荒天によってLNG船が接岸できない事態も多く発生するため、燃料消費の計画が大きく狂うのは避けたいところであろう。現状の広域融通は、東日本大震災後のkW不足を議論の出発点としたため、kW確保の観点に寄り過ぎていたのかもしれない。
 また、現状の予備力確保義務の在り方についても議論が未成熟であり、この点とあわせて、広域融通のあり方について議論を深めていく必要がある。

3.2 ネガワット取引

 今回のような寒波の頻度をどうみるかは別として、日常的に起こる事態でないことは明らかだ。こうした稀頻度の状況にもすべて供給力の増強で対応しようとすれば、稼働率の低い設備投資が行われることとなる。
 震災前も、電力各社は「需給調整契約」を用意し、3時間前あるいは1時間前など直前の電話あるいはファックス等による通告によって需要を抑制してもらう大口顧客の確保に努めてはいたが、総括原価方式によって投資回収が確保されている状況下では、設備投資の抑制にそれほど関心が向くとは考え難い。
 そこでそれまでの「供給前提」の制度を反省し、震災後注目されてきたのが、デマンドレスポンスの一つ、ネガワット取引だ。基本的な考え方としては震災前の需給調整契約と変わらないが、需要家の設備稼働をオンラインで制御するなどその技術も進化している。
 東京電力パワーグリッド(株)のネガワット取引をほぼ一手に引き受けていたのが、エナジープール・ジャパン(株)である。エナジープール(株)はフランスが発祥であり、ネガワット取引に豊富な知見を持つ。同社の資料によれば、初回(1月22日午後)の要請に対しては、約52万kWの需要抑制に成功している。特に「DRボックス」という機器を設置し、同社がオンラインで管理できる需要家については相当応答率が高く、需給調整に大きく貢献したことは確かだろう。
 しかし、今回「2週間で12回発動(特に5日連続)は需要家の許容範囲を超えていた」と同社も話しているように、25日以降は運用を見直し、できる範囲内での削減調整依頼としたため、3日目くらいから創出されるネガワットの量が急激に低下している。「10年に1回程度の猛暑や厳冬に備えて確保している調整力」がこれほど連続で発動されるとは、関係者も想定できなかったに違いない。
 今回の事象がネガワット取引への冷や水にならないようにしなければならないが、発動に対して制限を設けるのであれば、発電と同義の価値を認めることはできないはずだ。ネガワット取引の存在感が増すにつれ、その適切な評価の議論を深める必要がある。なおネガワット取引に関する詳細は「ネガワットの市場取引を現実的に考える」注5) を参照いただきたい。


図4/エナジープール・ジャパンによる電源 Ⅰ’注6)発動実績
(出典:エナジープール・ジャパン株式会社)

まとめ

 今回の需給ひっ迫は非常に多くの示唆を含んでいる。まず、再生可能エネルギーの大量導入に備えて、その予測精度を上げなければならない。さらに重要なのは、再生可能エネルギーがkW価値を提供できないという事実を前提として、それをカバーする調整電源の量と質の確保をどのように行うかだ。既存発電事業者へのフリーライドはいずれ限界を迎えることは従前から指摘されている通りである。
 広域融通やネガワット取引といった震災以降に検討が進められてきた手法が活躍して、停電などクリティカルな事態は防ぐことができたが、その課題も見つかっている。今後広域機関を中心に今後原因の究明や対策の検討が進められることに期待したいが、そもそも「原子力がなくても電気は足りている」という背景には、こうしたリスクを何とか顕在化させない努力があることも認識されることを期待したい。

注5)
http://ieei.or.jp/2013/01/special20124022/3/
注6)
電源Ⅰ(’電源イチダッシュ)とは、10年に一度程度の猛暑や厳冬などの場合に、需要の急増に対応する調整力のこと。今回東京エリア全体では、8日間、計13回発動している。
【参考資料】
 
1)
資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(第1回)配布資料「調整力公募について」平成26年10月18日
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/denryoku_gas_kihon/pdf/001_06_00.pdf
2)
電力広域的運営推進機関電力需給報告書2017年10月
https://www.occto.or.jp/houkokusho/2017/files/denryokujukyukenshohokokusho_201710.pdf
3)
国際環境経済研究所
需要側のスマート化で計画停電を防げるか
http://ieei.or.jp/2013/07/special201204035/
ネガワットの市場取引を現実的に考える
http://ieei.or.jp/2013/01/special20124022/3/
新電気事業法における供給能力確保義務を考える
http://ieei.or.jp/2014/07/special201204043/3/
日本の地域連系が弱いのは電力会社の陰謀か
http://ieei.or.jp/2012/05/special201204007/


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