「電力は足りている」のか?

──厳冬に活躍した電力間融通と「ネガワット取引」 


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「環境管理」からの転載:2018年4月号)

 本年1月下旬から2月上旬にかけて、日本は強烈な寒波に襲われた。北陸地方を中心に影響を受けられた方には心からのお見舞いを申し上げたい。しかし豪雪の被害や車の立ち往生などに報道が集中した一方で、その時期関東地方の電力供給は大きな危機に瀕していたことはほとんど認識されていない。2月2日には前日時点予備力見込みは、他社からの融通を受けられないとすると0.6%まで低下するとされ、肝を冷やした関係者も多かっただろう。
 今回の需給ひっ迫の際はなぜ発生し、どうやって乗り切ることができたのだろうか。電力の安定供給確保は国民生活に欠かすことができないものであり、この冬の経験から今後への教訓を読み取ることが重要だ。これから関係機関の詳細な分析が行われることになろうが、本稿では、「電力は足りている」のかを検証する意味も含めて今の時点でできる整理を行っておきたい。

1.電力供給の基本
──電気の安定供給に必要な需要予測と供給力確保

 本誌の読者の皆様には釈迦に説法で恐縮だが、電気は貯めておくことができない。他の商品のように余力があるときに生産して在庫を貯めておくということができないので、必要とされるときに必要な量を発電できる設備を確保することが求められる。これが「同時同量」といわれる電力供給の基本である。
 この同時同量を確保するためには、まず、①将来的に見込まれる最も大きな電力需要(最大電力)の予測に関する精度を上げること、そして、②想定される最大電力を賄う供給力を確保することが基本となる。
 最大電力の予測は景気動向や気象情報などの要素を踏まえて行われ、数年前から直前までタイミングに応じて都度見直されていく。また、工場など大口のユーザーとの間で、一定時間前の通告で電気の使用を停止してもらう契約を確保できていれば、最大電力の見通しから差し引くことができる。 
 供給力の確保には、自社の発電設備だけではなく、他の電力会社からの電力融通を受けるための整備も含まれる。もちろん猛暑や厳冬などによる電力需要の増大は、特定のエリアだけでなく全国的である場合も多いが、例えば東日本大震災の際の東京電力、東北電力のように、発電所が自然災害などで被害を受け供給力がダウンした場合には特に、他社からの融通に期待するところが大きくなる。

2.需給ひっ迫はなぜ起きたか

2017年度冬季の東京電力管内の需給見通し

表1/2017年度冬季の東京電力管内の需給見通し
(送電端、万kW、%)(出典:「電力需給検証報告書( 電力広域的運営推進機関 2017年10月)」注2)より筆者作成)

 上記に述べた基本を踏まえた上で、今回の需給ひっ迫の原因について考えてみたい。夏・冬の電力供給に問題がないかどうかを確認する需給検証においては、「過去10年の中で最も厳寒だった年度並みの気象を前提に需要を想定する」こととされており、東京エリアは2013年度の厳冬を参照して需要想定が行われていた。記憶が薄れている方も多いかもしれないが、2014年2月7~8日と14~15日に関東地方を記録的な豪雪が襲い、山間地の集落が長期にわたって孤立するなど大きな混乱をもたらした。全国では死者26人、重傷者118人を数えている注1)
 この2013年度に必要とされた最大電力を参照して設定された東京エリアの需給見通しは、表1の通りとなっていた。
 しかし需要の増大と供給力の低下が重なり、昨年10月には想定されなかった需給ひっ迫に陥ったのである。

2.1 厳冬による最大電力需要見通し外れ

 表1に示した通り、今冬の最大電力需要の見通しは4,960万kW、そこから大口需要家との契約により確保された「ネガワット」約50万kWを差し引いた4,910万kWが東京エリアの最大電力需要だと考えられていた。しかし、稀にみる強烈な寒波で暖房の電力需要が急増した。最大は2月2日(金)の5,266万kWであり、1月22日の週には月、木、金と3日5,100万kWを超えた日が存在した。


図1/需要の状況について
(出典:総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(第8回)資料5「2018年1月~2月における東京エリアの電力需給状況について」注3)

2.2 火力発電所トラブルによる供給力低下

 この時期に火力発電所のトラブルが重なった(図2)。夏冬の需要増大に対応できるよう、春秋に点検や補修を徹底するのが常であり、この時期に複数発電所が脱落した原因はしっかりと究明されなければならない。地方エリアであれば、100万kW級の発電所1基が脱落しただけで供給力に深刻な影響を与えるところだ注4)
 しかし一方で、設備にトラブルはつきものであるし、自然条件の厳しいときには需要も増えるが設備のトラブルも増える。例えば震災直後の2012年2月、九州電力の新大分火力発電所の全13基が停止する事態に陥り、全国の電力会社からの融通により乗り切るという出来事があったが、これは急な寒波の襲来で配管が凍結したことで起きた。
 今後さらに再生可能エネルギーの導入が拡大すると、従来型電源である火力発電所は再生可能エネルギーの調整役としてしか稼働できず、固定費の回収も十分にできなくなる「ミッシングマネー問題」に直面する。修繕費も限られる中、従来型発電所の維持を発電事業者や現場の努力任せにすることは制度設計の無責任ともいえる。
 設備トラブルは防ぎきれないことを前提に、いかに系統全体でリスク低減に向けた取り組みを進めるかであろう。


図2/東京エリアの供給力見込みと主な電源脱落について
(出典:総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(第8回)資料5「2018年1月~2 月における東京エリアの電力需給状況について」)

2.3 積雪による太陽光発電の不稼働

 1月22日(月)に関東地方を豪雪が襲った。しかもその後も気温の低い状態が続き、太陽光パネルの上に積もった雪が解けず、太陽光発電がほとんど稼働しない状況が数日間続いた。
 東京エリアの2017年9月末時点の太陽光発電接続済み設備量は1,100万kWにもなっている。メディア等では単純なkW換算により「大型の原子力発電10基分」と書くところであろうが、晴天であっても定格出力が期待できることはほとんどないし、夜あるいはこのように積雪があれば、その発電は期待できない。今回特に、降雪のあった22日当日に発電が見込めないことは想定できたが、関東地方でここまで積雪が長期間解けないことは想定しづらかったのかもしれない。今後大雪のあとの晴天時には、融雪見込みを加味するなど再生可能エネルギーの稼働予測の精度を高めていく必要があるが、今回の場合は、予測できたとしても稼働させられる火力発電はすべて稼働させており、追加でできる対処は限られたであろう。
 なお、写真1は先日青森県で筆者が撮影したメガソーラー発電所である。パネルの上に雪が積もり、タクシーの運転手さん曰く、数週間は全く発電していないだろうとのことであった。


写真1/青森県内のメガソーラー
(筆者撮影)

注1)
Wikipedia平成26年豪雪
https://ja.wikipedia.org/wiki/平成26年豪雪
注2)
https://www.occto.or.jp/houkokusho/2017/files/denryokujukyukenshohokokusho_201710.pdf
注3)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/denryoku_gas_kihon/pdf/008_05_00.pdf
注4)
規模の小さな需要エリアにおける予備力の確保は、パーセンテージだけでなく、系統における最大の電源が脱落したとしても供給が維持できることを前提とするよう求められている。
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