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水素社会への動きが加速

福島県産CO2フリー水素を活かす!


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年4月号からの転載)

 昨年12月26日、再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議で「水素基本戦略」が決定されるなど、水素社会の実現に向けた動きが活発になってきました。そんな中、福島県が主催する「福島県水素利用シンポジウム2018inなみえ」のパネルディスカッションに参加する機会があり、同県浪江町で再生可能エネルギー由来の二酸化炭素(CO2)フリー水素プロジェクトが進められることを知りました。

「水素基本戦略」

 政府の「水素基本戦略」は、2050年を視野に入れて目指すべきビジョンと、その実現に向けた30年までの行動計画が示されています。目標として、水素の製造コストをガソリンや液化天然ガス(LNG)などと同等程度の水準まで低減することを掲げています。具体的には、現在1Nm3(Nm3=0℃、1気圧の状態でのガス量)あたり100円のコストを、2030年には30円、将来的には20円に下げることを目指します。
 水素のコスト低減を実現するための条件として、以下の3つを掲げています。①安価な原料で水素をつくる、②水素の大量製造や大量輸送を可能にするサプライチェーンを構築する、③燃料電池車(FCV)のほか、発電、産業などでも大量に水素を利用する。
 ①と②は、海外の安価な褐炭(低品位な石炭)などから水素を製造し、日本に輸送する国際水素サプライチェーンの開発プロジェクトが進められていますが、製造時にCO2が発生してしまいます。地球温暖化対策(CO2排出量削減策)として水素社会の実現を目指すには、CO2フリーの水素を製造することが重要です。CO2フリー水素の製造方法としては、太陽光発電などの再エネでつくった電気で水または塩水を電気分解するなどの方法があります。
 福島県の復興をエネルギー分野から後押しするため、政府が16年9月に策定した「福島新エネ社会構想」では、①再エネの導入拡大、②水素社会実現のモデル構築、③スマートコミュニティの構築―の3つが柱になっています。②の水素社会実現のモデル構築の中核になるのが、浪江町で行われる世界最大級の水素製造設備(1万kW、図1)の実証実験です。

図1 福島県浪江町に整備される水素製造拠点イメージ図

図1 福島県浪江町に整備される水素製造拠点イメージ図

大規模水素を調整力に再エネを普及拡大

 福島県は、復興策の大きな柱の1つとしてとして、福島県を「再生可能エネルギー先駆けの地」にする取り組みを進めています。再エネの導入拡大を図り、県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再エネで生み出す目標を掲げています。
 再エネの大量導入に伴って、年間を通じて余剰電力が発生することから、余った電力を貯蔵する技術が必要になります。短周期の変動には蓄電地が有効ですが、長周期の変動には余剰電力で水などを電気分解し、水素として貯蔵する「Power-to-gasシステム」が注目されています。
 Power-to-gasの技術実証は欧州の各地で実施されています。ドイツでは、風力など再エネ由来の電力で水を電気分解して水素を製造し貯蔵、天然ガスパイプラインに混入して利用しています。
 浪江町での大規模水素Power-to-gasシステムの実証プロジェクトでは、今年夏ごろからプラント建設を始める予定です。
 建設に先立ち、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2016年に公募した「水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発」に採択された東芝、東北電力、岩谷産業の3社が、設備の仕様・経済成立性などの検討を進めてきました。福島県内の太陽光などの再エネ発電設備を使い、年間900トンの水素を製造できるシステムを構築します。
 1日の水素製造量は、一般家庭約150世帯分の1カ月分の電力消費量または56台のFCVに水素を満充塡できるくらいです。
 実証では、水素の需要を予測する「水素需要予測システム」と、電力系統の需給バランスを監視制御する「電力系統側制御システム」からの情報をもとに、「水素エネルギー運用システム」が最適制御を行うことで、再エネの利用拡大を目指します。また、水素の販売事業モデルを確立することもこの実証の目標の1つです。

CO2フリー水素の活用先

 東京都と公益財団法人東京都環境公社、福島県、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研、AIST)は2016年5月17日、福島県産CO2フリー水素の活用などを目指して、基本協定を締結しました。計画では、2020年までに浪江町で水素製造を開始し、福島産CO2フリー水素を輸送・貯蔵して、東京五輪・パラリンピックの選手村に運ぶ計画です。福島産CO2フリー水素が選手村で使われるエネルギーや燃料電池車(FCV)の燃料として活用されることになります。
 産総研福島再生可能エネルギー研究所(福島県郡山市)では、水素の効率的な貯蔵・運搬に適した「水素キャリア」の研究を進めています。政府も、東京都と福島県の連携を支援しており、東京五輪・パラリンピックで水素社会モデルを世界に発信していくでしょう。
 福島県は、CO2フリー水素を東京都に供給するだけでなく、県内でも活用する方針です。また、県内の水素利用の機運を醸成していきたい考えで、同県は2017年度から、商用水素ステーションの導入支援として1億円を上限に補助するほか、FCVを導入する民間事業者に100万円を補助しています。
 定置式の水素ステーション設置費用が約5億円として、国の補助2.5億円と県の補助1億円を利用すれば事業者負担は1.5億円に軽減されます。また、FCVは国の補助約200万円と県の補助100万円を利用すれば事業者負担は約400万円になります。福島県の公用車としてFCV1台を導入する予定もあり、2017年度末には県内のFCV登録台数が10台程度になる見込みです。
 福島新エネ社会構想では、スマートコミュニティを浪江町はじめ県内5つの市町村に構築していきますが、再エネ・水素活用によるまちづくりがテーマとなっています。再エネから水素を「作り」、「貯め・運び」、「使う」がうまく循環し、新エネルギー社会実現へのモデル(図2)が創出できれば、エネルギー資源が少ない日本の新たなまちづくりとして注目されるでしょう。

図2 福島県が想定する再エネ・水素活用によるまちづくりの概念図

図2 福島県が想定する再エネ・水素活用によるまちづくりの概念図



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