自動車だけではない欧州と中国の“電動”問題

欧州から締め出されたら東南アジアを席巻か


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年12月号からの転載)

 中国政府は、中国市場での電気自動車(EV)など新エネルギー車(新エネ車)の割合を2025年までに20%にする目標を立て、メーカーへの規制を導入する。自動車メーカー各社に中国市場での年間販売台数の一定割合をNEVにすることを義務づけるものだ。
 大気汚染対策の側面もあるが、経験の浅い中国の自動車メーカーが、日欧などのメーカーとガソリン車などで競争することが難しいことから、対等に戦える電動化で一挙に世界市場に打って出る戦略だ。中国の2017年第1四半期(1~3月)の乗用車登録台数は570万台(日本の4.2倍)。世界最大市場の中国がEVなどの販売を義務づければ、中国メーカーが主導権を握れると踏んでのことだ。
 当初案では2018年から規制を導入する予定だったが、欧州自動車工業会や日本自動車工業会などから早すぎて対応できないとの声が挙がり、中国政府は1年遅らせ2019年から10%(正確には、各社のEV、プラグインハイブリッド車の性能により割合を算出)の新エネ車の販売を義務づけると9月28日に発表した。割合は2020年に12%に引き上げられる。
 未達成のメーカーは、規制をクリアしたメーカーから“クレジット”を購入して穴埋めするか、罰金が課せられることになる予定だ。世界のメーカーが今後、中国市場でEVをめぐり熾烈な競争を繰り広げることになる。
 中国が世界市場で覇権を狙っているのは、EVだけではない。中国には巨大な二輪車市場もある。電動(アシスト)自転車ではすでに世界最大市場になっており、輸出も行っている。しかし、太陽光パネルと同様、過剰生産に陥って低価格での輸出志向が高まり、欧州(EU)ではダンピングの疑いにより、貿易摩擦を引き起こしている。
 太陽光パネルがダンピング認定された際、中国の中央政府と地方政府による補助金が安売りを可能にしていると欧州委員会(EC)は指摘した。電動自転車にも中国の中央、地方政府から補助金が出され、ダンピングが行われているとして、欧州の自転車業界団体が中国メーカーをECに訴える事態になった。

電動自転車の世界

 原動機で自走する二輪車は、日本では原動機付自転車(原付)となり、ウィンカー、バックミラーを備え、ナンバープレートの交付を受ける必要がある。免許も必要で、運転の際はヘルメット着用の義務がある。原付に適用される道路交通法の規制の対象外の乗り物として日本で開発され、1993年に1号機が発売されたのが、電動アシスト自転車だった。
 道交法では、人の力を補うため原動機を用いる「自転車」と規定され、自走せず、ペダルによる力が加わった時だけ、加えた力の2倍までモーターがアシストして走るようになっている。自転車なので、アシストする力は時速24㎞を超えるとゼロにならなければいけない。免許もヘルメット着用も必要ない。
 電動アシスト自動車は日本から他国にも広がったが、規制が異なるため、さまざまな製品を生み出した。欧州ではペダル付電動アシスト自転車の最高速度は時速25㎞、モーターの最高出力は250Wと定められている。中国では、最高速度が時速20㎞、車両重量40㎏以下、ペダルが装着される必要があるとされ、自転車専用道を走行することになっている。
 中国のインターネット通販で販売されている電動自転車を見ると、ペダルがなく原付に近いものも多く販売されているが、扱いは自転車となり、自転車専用道を通行しているようだ。なお、販売価格は、最も廉価なもので200ドルを切り、日本円にして2万円程度で購入できる。
 電動自転車の2016年の世界販売台数は3500万台弱()。欧州自転車製造者協会によると、1990年代後半から生産を始めた中国の2016年の生産台数は5100万台に達しているといい、大幅な供給過剰状態になっている。この状態がEUとの間で摩擦を生むことになった。


表 世界の電動自転車市場(2016年)
出所:Statista

欧州にあふれる中国製の電動自転車

 欧州28カ国における自転車販売台数は、2016年に1960万台だった。国別では、ドイツ405万台、英国305万台、フランス304万台、イタリア168万台、ポーランド120万台と続く。自転車の販売台数は2000年(1895万台)からほとんど変化していないのに対し、欧州の電動自転車の販売台数は急増している()。販売が多い国は、ドイツ61万台、オランダ27万台、ベルギー17万台、フランス13万台、イタリア12万台となっている。


図 EUの電動自転車市場の推移
出所:欧州自転車産業連盟

 一方、2016年の欧州の電動自転車生産台数は116万台で、前年(103万台)から13%増えた。販売数量の伸びと比較すると、その伸びは大きくない。生産台数が大きい国は、ドイツ35万台、オランダ20万台、ハンガリー17万台、フランス10万台、オーストリア9万台だ。これに対し、輸入台数は急増しており、2015年の67万台が、2016年には108万台となった。大半を占めるのが中国からの輸入で、2015年55万台が、2016年には91万台になった。
 電動自転車の販売は大きな伸びを示しているが、その大半を中国製が占めていることに、欧州自転車製造者協会が怒った。同協会は9月8日、中国がEUに輸出しているペダル付電動自転車が不当に廉売されているとECに訴えた。「WTO(世界貿易機関)ルールに反し、政府からの補助金により廉売されており、欧州の自転車とその部品関連の800の中小企業と9万人の雇用を脅かす中国メーカーによるルール無視は直ちに是正されるべき」と主張している。
 ECは10月20日、訴えに基づき調査を開始すると発表した。中国での出荷価格とEUへの輸入価格との間に差があることから、廉売が行われていると、ECが判断。中国製電動自転車は、数量、シェアともに大きく伸ばし、その結果、欧州の業界の生産と財務面に大きな悪影響を与えているとした。調査対象は2016年10月1日から2017年9月30日まで。
 調査の実施期間は15カ月間で、2019年1月20日までに調査を終える予定だ。ただ、不当廉売に対して暫定的に課税することも可能で、2018年7月までの調査結果に基づき課税される可能性もある。
 電動自転車の電池は現在、鉛酸蓄電池が主流だが、今後、リチウムイオン電池の価格が下がってくるに連れ、同電池が使われるようになるとみられている。電動自転車の市場規模は2016年に157億ドル(約1兆7000億円)だったものが2025年には243億ドル(約2兆7000億円)に拡大するとの予測もある。
 電動自転車の市場はEVと比べると小さな市場だが、中国製がEU市場から締め出された場合、どこに向かうのだろうか。日本市場では、アシストに関する高度な制御が必要とされるので、中国製の販売は難しい。中国製の電動自転車は東南アジアを席巻することになりそうだ。