中国鉄鋼業淘汰の抜け道-地条鋼
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
今や中国は、8億トンの鉄鋼生産国であり、世界全体16億トンの半分を占める鉄鋼大国である。
(出典:日本鉄鋼連盟)
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ところが生産能力は11億トンと公表されており、生産量の8億トンをはるかに上回っている。(一説によると14~15億トンもあるともいわれる)
しかも、環境面でも問題のある中小設備が多いことから、中国の過剰設備の淘汰が世界的な課題となっている。G20でも取り上げられ、2016年12月に「鉄鋼過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム」が設立され、解決に向けた国際的検討が進んでいる。
中国政府も、重い腰をあげて、環境対策が遅れた非効率な設備を中心に、2016年に5,000万トンの設備淘汰を行ったと発表している。
こうした中で、中国鉄鋼協会の鉄鋼統計に含まれない「地条鋼」という存在が明らかになっており、1億トン以上の設備があるという。
鉄鋼生産には、高炉法と電炉法があり、前者は鉄鉱石を高炉[4]で還元するのに対して、後者はスクラップを電気炉[7]で溶かして鋼を生産する。
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これに対して、「地条鋼」は、電炉と同じくスクラップを溶解するのであるが、電気炉のように高電圧の電気を使用するのではなく、「るつぼ型中周波誘電加熱炉」という簡単な設備でスクラップを溶かす。鉄を溶かすにはかなりの温度が必要であるが、融点を下げるために、炭素などを添加しているようである。いわば「たたら」製鉄のようなものである。
電気炉製錬は、脱炭、脱リン、脱硫を行い不純物はスラグとして除去し、鋼材の品質を保証するプロセスであるが、「地条鋼」は単に溶解するだけで鋼として販売するには問題がある。
溶けた鉄は、ひしゃくで掬って砂場等に作った1メートルほどの長さの鋳型に流し込む。
出来た鉄は、たたらで言う「玉鋼」のようなものであり、このままでは不純物がいっぱい含まれた半製品である。日本の刀鍛冶は、「玉鋼」を金槌で叩くことで不純物を飛ばして良質な鋼を作るのであるが、中国の企業は、この鋳鉄を「地条鋼」として、このまま、鉄筋棒などの製品として販売する。
「地条鋼」は、一見すると鉄鋼製品に見えるが、鋼にするための成分調整や品質管理は行われていないので、高い処から落とすと折れてしまうような紛い物である。これが建築物や橋などの鉄筋としてコンクリートに混ぜてしまわれると、時間とともに劣化し倒壊の危険性がある。中国政府も、捨て置けない事態になってきた。
「悪貨が良貨を駆逐する」
年間8億トンの鉄鋼生産の統計外に、悪貨である「地条鋼」が存在する。
彼らは人里離れた田舎に小さな工場を作り、夜になると操業する。環境対策設備は当然、存在しないし、役所の環境監査チームがやってくると設備を止めてしまう。
地元政府も税収が入ることもあり、見て見ぬふりをしているところもある。
今年3月の全人代政府工作報告において、李克強首相は、6月30日までに違法零細ミル「地条鋼」の一掃を目指して取締りを強化することを宣言した。
「上に政策あれば、下に対策あり」のせめぎ合いである。