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中国の停電は温暖化対策が原因か?(その1)


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


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※ 本記事はキヤノングローバル戦略研究所における対談動画を基に加筆修正したものです。

堀井 伸浩:九州大学大学院経済学研究院 准教授

杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

杉山:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志です。本日は堀井伸浩九州大学准教授をお招きして、「中国の停電は温暖化対策が原因か?」というお題でお話を伺おうと思います。

 まずこの資料、「中国で電力の供給制限広がる 景気も減速傾向 現状や見通しは」というNHKの記事です。

 停電は20あまりの省で起きているということですから、ほぼ中国全土ということだと思います。

 原因は何かというのはNHKの方では断定はしていません。次の、日経エネルギーNextの記事では、「中国で続く計画停電、原因は電力不足ではなく“中国流”の脱炭素推進だ」、としています。

 停電が起きていることはどうやら確からしいが、その原因は何か。本当に温暖化対策か。今日、堀井先生に詳しく教えていただこうと思います。

 まず、中国全土で停電が起きており、かなり深刻な状態だということ、これは間違いないでしょうか。

堀井:そうですね。中国は香港とかマカオなどを除くと31省あります。31の省あるいは直轄市のなかで20あまりですから、あの広い中国の2/3ぐらいで停電が起こっている。かつて1980年代以前は停電が常態化していましたが、近年はもう遠い昔の話という感じで、今回は不測の事態と言えると思います。

杉山:原因ですが、温暖化対策で停電になった、という報道がありました。堀井先生は停電の最も大事な原因は何とお考えでしょうか。

堀井:さっきの記事は、因果関係を全く逆転しています。勘違いしていると言わざるを得ないと思います。

 最近の報道を見ると、まずそもそもわかってないなと思うのが、この電力不足、そしてその企業の電力供給制限は、別にこの8月から始まったわけではない、ということです。

 実際には去年の年末あたりから、湖南省、江西省、浙江省などでは、すでに企業への節電要請、供給制限というのは起こっていました。

 それに加えてこの8月に地方政府の温暖化対策で、大々的に工場の電力使用量を抑制する措置が入ってきた。これに報道が飛びついて、停電と温暖化対策が関係しているという議論をしているんですけど、全く間違いです。むしろ温暖化対策で製造業のエネルギー消費量を抑制するっていうのは、電力需要を下げることであり、停電の被害を軽減するものであった、というのが事実ですね。

 去年の年末から、製造業への電力供給制限が湖南、江西、浙江で発生し、それが8月からは広東、雲南、そして東北地域へと広がってきた。これはやはり、電力自体が足りないわけです。
   
 電力が足りないのに、さきほどの日経エネルギーNextでは「電力不足は起こってない」などと言っている。それが意味していることは、たぶん、「発電設備は十分にあって、稼働率も100%近くまで運転しているわけではない」ということを指しているのかもしれません。

 しかしながら、電力が不足しており、停電が起こっているのに、それにもかかわらず稼働率が上がらず、発電量が増えてこないのは何故なのか、というその理由をやっぱり考えないといけない。

 その理由とは、今まで中国の電力供給の根幹を担っていた石炭火力の発電量が上がってこないからです。そして石炭火力の発電量が上がってこない原因は燃料である石炭の価格です。石炭火力はそのコストの6割以上を燃料費が占めます。ですから石炭の価格が発電所の経営にとって非常に重要です。

 ところが、その石炭の価格が上がっています。国際的にも上がっていますが、それも主に中国の影響です。中国国内においても3,4倍に高騰しています。

 日本だと一応、発電部門は供給の責任があります。去年の1月に太陽光が雪で全然発電してくれなくて需給が非常に厳しくなった時に、高いLNG(液化天然ガス)を買ってきたり、石油火力まで動かして、何とか供給の責任を果たしました。

 ところが中国は供給義務がないんです。正確に言うと、一定量は供給する義務があります。毎年その年間の契約供給量が決まっていて、これは各発電所に義務があります。ところがそれを超える分に関しては義務がない。

 コストの6割を占める石炭の価格が3倍4倍に高騰してしまうと、もう赤字です。中国の石炭火力の赤字はもう過去3年ぐらい続いています。

杉山:石炭の値段が上がると石炭火力発電所が赤字になってしまうと、そういうことですか。

堀井:そうです。ただし、過去2、3年の赤字は石炭の価格上昇による赤字ではないです。石炭は安くはなかったですけど、そこまで高くもなかった。過去2、3年の赤字の大きな原因は稼働率の低下です。再エネがバンバン入ってきてるんで、十年前と比べて稼働率が12%も落ちた。稼働率が下がると、運転効率も落ちるし、設備費はかかりますから、赤字になる、ということですね。

 もうひとつ重要な点は電力の卸売価格を全然上げてもらえないっていうことです。石炭価格がこれだけ急上昇して発電コストが高騰しているのに、発電所の収入を決める卸売価格は大して上がらない、これが赤字の最大要因です。卸売価格が発電コストの上昇をカバーするように調整されれば、赤字に陥ることは当然ありません。

 実は同様の事態が2010年頃にも起こってます。当時は停電まではならなかったが、非常に電力需給は逼迫した。それで中国は、石炭価格が上がった分、卸売価格がある程度連動して上がる、という制度を入れたのですが、それを去年廃止してしまっています。

 この石炭価格と電力卸売価格を連動させる制度の撤廃は石炭火力をある意味冷遇する動きとして出てきたもので、温暖化対策といえなくもない。ただ、一般の報道でこの制度の撤廃について言及している記事はほとんどないのではないかと思います。

 そこに今回の石炭価格の高騰が一気にやって来た。それで発電所としては「義務もないのにそんな大損してまで発電していられない」ということで発電を控える動きが広がったわけです。石炭価格が高騰を続ける中、発電所の石炭在庫は非常に少なくなり、通常の1/4とか1/5になった。これが電力不足の根本的な原因となっています。

杉山:仕入れる石炭の値段が高い一方で、売れる電力の値段は安くなっているから、発電所としては発電すればするほど損をしてしまう構造になっていて、それで電力不足が生じてしまっている、そういう理解ですね。

堀井:そうです。まったく逆ザヤです。貿易紛争で豪州からの石炭輸入が無くなったというのは、原因として影響ゼロではないが、非常に軽微なものです。そもそも中国で使われる石炭の輸入依存度は10%以下しかない。加えて、豪州の石炭は非常に良質の石炭で、多くは冶金用であり、鉄鋼のコークスの原料として輸入していたもの。発電燃料用の輸入としてはインドネシアなどが中心になってます。

杉山:風力発電の急拡大で東北地方で停電が起きたという話もありますが、これはいかがでしょうか。

堀井:実際に電力不足が深刻だというのは、東北地方を見ればよくわかります。さきほどの記事はじめ、一般メディアの人はわかってないようですが、中国では電力の安定供給は非常に重視されます(供給義務を発電所にかけてはいないのですが)。かつてレーニンは、「電化が共産主義の成功度を示す」と言った。当初から中国共産党も、「安定的で停電しない電気の供給」を政権の存在理由(レーゾンデートル)としている。しかも重要なのが安定かつ「安価」なことです。

 中国は「停電も辞さず温暖化対策を進めている」ということを言う人がいる、というのを、杉山さんに教えていただきました。

 けれども、それはためにする議論にすぎない。中国は、最近の電力不足対応の改革・改善措置を見ても、やはり庶民に対して安価で安定した電気を供給することを、非常に重要視しています。

 いま東北で起きていることは何かというと、工場に電力供給制限をするだけに留まらず、一般家庭でも電気が来なくて、冷蔵庫のものも腐るし、蠟燭で夜暮らす、といった状態になっています。

杉山:街が真っ暗になっている写真がありますね。

堀井:あれは中国共産党にとっては相当面目を失うことで、非常に気にしていると思います。温暖化対策を優先して、わざと庶民の家庭の電力供給を蔑ろにするなんて、中国共産党が考えることは絶対あり得ないです。

 そもそも、石炭価格が上がった分だけ卸売電力価格を上げれば、発電所もちゃんと発電するはずですが、それをしてこなかった理由は何か。それは庶民の歓心を買うために、あるいは産業の国際競争力を維持するために、電力の小売り価格をずっと安く抑えてきたためでした。

 送電会社の立場からすると、小売価格が安く抑えられている一方で、石炭価格の上昇で仕入れ値である卸売価格が高騰することも受け入れがたいものです。赤字になりますからね。結局小売料金を低く抑えているがゆえに生じる赤字を発電側と送電側で負担を押し付け合っているということです。2020年には送電会社の立場が勝り、石炭価格と卸売り価格を連動させる制度を廃止したということです。

 東北地方の話に戻ると、一般家庭にあのような停電が起こっているというのは、電力不足がコントロールできない形で起こっているという証拠です。

 東北地方で停電が起こった直接のきっかけとなったのは、実は風力発電の電力系統からの脱落です。理由はまだ調べ切れていませんが、8月の末あたりから東北地方で風力の発電量が通常の1/10ぐらいに突然落ちたらしい。東北地方の発電設備は石炭火力が全体の60%以上と多いけれども、実は風力も多くて18%くらい。あと太陽光もあります。結構風力が大きな位置を占めているところに、突然その脱落が起こった。それをバックアップできなくて、無計画停電になった。停電事故が一気に広がって、一般家庭が蝋燭で生活するという経緯だったようです。

 推測するに、雲南省も水力などの再エネが多くて、石炭火力はそこそこあるけど少ない。広東省や湖南省もそうです。そうした地域で電力不足が深刻になったようです。このあたりを考えると、石炭火力の役割が縮小された結果、問題が起きている可能性がある。まだ実証的には調べられていないが、仮説として調べる価値はあると思います。

次回:「中国の停電は温暖化対策が原因か?(その2)」へ続く



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