再エネ賦課金の抑制は可能か?

── 改正FIT法と非化石価値市場の創設


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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「環境管理」からの転載:2017年5月号)

 再生可能エネルギー賦課金の増大が止まらない。先日公表された平成29年度の賦課金も、前年度比約2割の上昇である。1か月の電力使用量が300kWhとした場合の負担額は年額9,504円にもなる。より深刻なのは産業への影響だ。企業の電気料金はなかなかオープンにされることはないが、莫大な賦課金に驚き、自身の勤める会社の工場における電気料金を教えて下さった方がいた。その方によれば、本年1月分の電気料金約5,600万円、そのうち実に約1,600万円がFIT賦課金であったという。
 わが国の再エネ賦課金はなぜここまで膨れ上がってしまったのであろうか。こうなることは他国の経験から明らかであったし、採るべき対策もわかっていた。しかしそれを制度設計に活かすことができなかったのである。筆者が危惧するのは、特にこの制度設計をここまでゆがめたことに対する政治の反省が全くないことだ。これでは過ちを修正することはできない。
 FIT法は確かに改正され、非化石価値市場の創設による抑制なども検討されている。しかし、それが十分な抑制策になり得るとは筆者には考えづらい。2030年のエネルギーミックスが達成された場合、2030年までの累積賦課金総額は44兆円になるとの試算も出されている。エネルギーコスト抑制に向けた政府の本気度を問いたい。

企業の利益を圧迫するFIT賦課金

 2月分の電気料金の請求書が来た。
 総使用量は818kWh、請求総額は15,119円となっている。単純な割り算を行って平均単価を出せば18.48円/kWhとなる。オール電化契約をしているためそうではない家庭と比べれば総額は高いが、電気料金単価としては安めである。しかし問題は電気料金に占めるFIT賦課金である。その額1,840円。これは電気料金総額の12%を超える。
 賦課金の急増に愕然としながらも、「春になって使用量が減れば賦課金も減るし」と気持ちを立て直そうとしていたところ、さらに追い打ちをかけるニュースが飛び込んできた。経済産業省のホームページに、平成29年度のFIT買取価格と賦課金額が公表されたのである。詳細は下記のリンク先を確認していただきたい。
http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170314005/20170314005.html
 それによると、買取総額は2.7兆円(前年度は2.3兆円)、賦課金単価は2.64円/kWhとなっている。今年度の2.25円/kWhと比較すると約2割の上昇だ。来年同月、今年と同じだけ電力を使用したとすると、賦課金は2160円ということになる。なお、1か月の電力使用量を300kWhとした場合の負担額は、年額9,504円だ。
 一般家庭でこの額だ。莫大な電力を使用する企業ではどの程度の負担になるのだろう。企業の電気料金は、それぞれの事業形態や生産量によって大きく異なるため、なかなかオープンにされることはない。しかし、ある企業の方がFIT賦課金の負担比率の大きさに驚いて、業種や個社名をオープンにしないことを条件に1月の電気料金について教えてくださった。
 その方の勤める会社の、とある工場の本年1 月分の電気料金は約5,600万円、そのうち実に約1,600万円がFIT賦課金であったという。この会社は素材系の会社で、コスト削減のため徹底した夜間操業シフトをしているため、もともとの電気料金単価は平均的な産業用料金よりも安い。しかしFIT賦課金は、民生用、産業用、昼間、夜間にかかわらず一律2.25円/kWh×使用量(kWh)なので、負担比率は大きくなる。しかも4月以降、FIT賦課金は約2割増しとなるのだ。
 1,600万円の利益を確保するのに、企業がどれほどの売り上げを確保せねばならないか、とその方は嘆いていた。国際競争にさらされるなかで電気代が製造コストにどれほどの影響を与えるのかを考えなければ、日本企業の競争力は失われることとなる。


図1

図1/2017年1月の検針票


図2

図2/FIT賦課金単価の変遷

FIT賦課金はなぜここまで膨らんだか

 ドイツやスペインなどでも賦課金の負担が膨らみすぎて政治問題化しているが、筆者がみる限り、わが国のFITは国民負担の抑制という観点からは最も制度設計に失敗した国の一つであることは間違いない。なぜここまでFIT賦課金は膨らんでしまったのか。その最大の理由は太陽光バブルの発生を防げなかったことだといえるだろう。
 FIT制度を導入した場合、太陽光バブルという現象が生じやすいことは、わが国のFIT導入前からも指摘されていた。IEA(国際エネルギー機関)がその理由を「Deploying Renewables 2011 Bestand Future Policy Practice」注1)に端的に整理している。スペイン、イタリア、フランス、ドイツなどFIT先進各国では、①PVは導入が容易でありリードタイムが短いこと、②年に一度程度の価格改定という硬直的な制度では市場におけるパネル価格下落や技術の進展を適正に買取価格に反映させることができず、③その結果太陽光が魅力的な投資商品になったことなどにより、太陽光バブルと呼ばれる現象に苦しむこととなった。わが国でも一部研究者からはそうした指摘と、対策として年間導入量の上限の設定や、買取価格を頻繁に切り下げることなどが提案されていたのであり(朝野「我が国の固定価格買取制度に関する費用見通しとその抑制策の検討」注2)など)、これは後知恵の批判ではない。わが国は他国の失敗を生かすことはできなかった。
 そもそも本来は、全再エネを対象に入札を行えば、導入目標を達成するコストは最小化される。それぞれの電源ごとに原価を算定する現在の方式では、再エネの中での競争は起こらない。消費者の側に立って考えれば、低炭素であり国産エネルギーである再エネの電気が欲しいのであって、それが太陽光でつくられたか風力でつくられたかは関係ないが、それぞれの電源について必要なコストを積み上げ一定の利益率を確保した上で買取単価を決めるという、「査定なき総括原価方式」となったのである。
 しかしわが国での議論を振り返れば、かなり初期の段階から太陽光を特別扱いすることで議論が進められていたことがわかる。民主党(当時)主導による「再エネ全量買取制度PT」では2010年7月、太陽光買取価格とそれ以外とで区分することを決定していたし、2011年3月11日午前中、まさに東日本大震災の直前の閣議決定の時点まで、その区分けは残っていた。これが、太陽光バブルを防ぐために戦略的に運用されれば問題はなかったが、逆に世界的な太陽光パネル価格下落の流れから考えれば説明がつかないほどの高い買取価格が設定されたのである。メディアの前では「利益は1円もいらない」と発言されながら、買取価格決定に向けた事業者ヒアリングの場では、「仮に40円で20年だという試算をしたときに、(全国の候補地:筆者補)二百数十か所のうちの200か所ほどは採算が合わないということで見送らざるを得ない」としたソフトバンク孫社長の発言を、私は整合的に理解することができない。
 さらに、買取価格を決定する事業の認定時期などが再エネ事業者にとって極めて有利に設定された。制度導入当初は、その電源の買取条件は書類申請による設備認定が通った時点(年度)で決定されていた。土地の取得などプロジェクトに必要最低限の条件も整わないうちに申請書類を出して高い買取価格を確保しておき、後はパネルの値下がりを待ってゆっくりとプロジェクトを進めていけばより利幅が大きくなる。すでに認定制度については見直しが行われ、現在は電力会社との接続契約を確認したうえで認定することとなったが、制度開始当初に高い価格で買い取ってもらえる権利を確保した事業者たちの「儲け過ぎ」については、これを制度として認めてしまった政治・政府の責任を問うべき問題であろう。

注1)
https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/Deploying_Renewables2011.pdf
注2)
http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/Y13031.html

まさに神風──燃料費調整制度

 再エネの賦課金の急増と原子力発電の停止による化石燃料負担が相まって、震災前(2010年)と比べて電気料金は現在、家庭用で約2割、産業用で約3割上昇している。最も上昇した2014年は家庭用で約25%、産業用で約40%の値上がりだった。
 電気料金は口座引き落としあるいはクレジットカード払いにしている方が多いせいか、あるいは通信費などに気をとられているせいか、今のところ電気料金の上昇に対し日本人は不気味なほど寛容である。寛容というより、気が付いていないのかもしれない。しかし、そう呑気に構えていられるのはいま原油価格の下落という「神風」が吹いているからだ。今月の検針票でも「燃料費調整制度」として、3,558円30銭のマイナスが記載されている。FITの賦課金を大きく上回る燃料費調整額があるから全体として不満が出づらくなっているのだろう。
 ここで燃料費調整制度について簡単に整理しておこう。平成8年1月に導入された制度で、燃料価格や為替レートなど事業者の努力では「どうにもならない」要素の影響を適正かつ迅速に料金に反映させることを目的としている。
 この制度ではまず、平成24年1~3月の原油・石炭・石油の貿易統計価格から基準燃料価格として44,200円(原油換算1kLあたり)を設定している。


図3

図3/基準燃料価格の設定
(出典:東京電力エナジーパートナー注3)

 その上で原油・LNG・石炭それぞれの3か月間の貿易統計価格にもとづき、3か月ごとの平均燃料価格を算出。基準燃料価格との比較を行い、その差が2か月のタイムラグのあと、毎月の電気料金で調整が行われることとなっている(図4参照)。


図4

図4/燃料価格の算定期間と電気料金への反映期間
(出典:東京電力エナジーパートナー注4)

 平成24年初頭のころは、燃料価格が現在と比較して相当高かったので現在調整額は大きくマイナスになっているが、これがいつまで続くかはまさに「神のみぞ知る」なのである。東京電力管内の燃料費調整額の推移注5)を確認すると、昨年10月分をピークに徐々にマイナス額が減少してきている。ここ数か月「来月から電気料金値上げ」というニュースが続いている理由はここにある(正確に表現すれば「値上げ」ではなく「値上がり」である)。
 ちなみに、この制度では燃料消費量の増減については調整することができない。あくまでも燃料価格の変動を電気料金に反映させる制度であり、燃料消費量は料金改定時のものを前提とするため、原子力発電所の停止により火力発電所を炊き増しするため燃料消費量が増えた分についてはこの制度ではカバーできない。震災以降電気料金の多くの電力会社から値上げ申請がなされたのは、この制度では燃料消費量の変動はみられないことによる。

賦課金の抑制は可能か

 賦課金急増については、制度導入から2年程度で既に認識されていた。平成26年9月30日に開催された第4回新エネルギー小委員会に示された資料注6)では、FIT開始後2年間の案件が運転開始した場合、単年度の賦課金が2.7兆円に上るという試算が示されている。
 賦課金急増に慌てた政府は第190国会でFIT法の改正を行い、

大規模事業用太陽光を対象とした入札制度の導入
中長期的な買取価格の目標設定(住宅用太陽光や風力は価格低減のスケジュール提示)
国際競争力強化の制度趣旨に照らして減免対象を絞り込むとともに、省エネの取り組み状況等に応じた減免率の設定を行う

などコスト効率的な導入に向けた修正を行った。2017年4月から改正FIT法が施行されている。
 しかし、そもそも入札制度の対象となる大規模事業用太陽光は2メガワット以上のものであり、それより小さい太陽光には入札制度は適用されない。それ以前に、必要な設備容量としては2030年で太陽光は事業用・住宅用をあわせて約6,400万kWとされているなかで、2016年9月末時点での既認定容量は約8,061万kWにもなっている(住宅:507万、非住宅:7,554万)注7)。新認定制度という「ふるい」にかけることで認定済みの未稼働案件がどれだけ退出するかはわからず、コスト効率的な導入の枠をどの程度確保できるかはいまだ不透明である。実際、2016年6月末時点で既に電力会社と接続契約済みの設備は4,747万kWとされ、これに接続契約待ちの設備を含めると6,753万kWに達する。このすべてが運転開始するわけではないが、エネルギーミックスではPVを2030年度に6,400万kWと見込んでいたため、既にほぼ達成したことになる。
 さらに政府は、電力システム改革の下で2030年のエネルギーミックスを達成するため、複数の市場の創設を議論しており、そのうちの一つである「非化石価値取引市場」によって、賦課金を抑制することを検討している。日本が掲げた温暖化目標「2030年には2013年と比べて▲26%の温室効果ガス削減」を達成するため、2030年度に販売される電力の内44%は再生可能エネルギーもしくは原子力という非化石電源にするのが、政府の描くエネルギーミックスである。そのため小売電気事業者には、2030年度に調達する電気の非化石電源比率を44%以上にすることが求められている。この目標達成を後押しし、FITの賦課金を低減することなどを目的として導入が検討されているのが非化石電源市場だ。
 この市場を創設するとなぜ賦課金の増大を抑制することになるかを簡単に整理しておきたい。再エネ事業者の発電した電気(FIT電気)は、火力発電など他の電気と一緒に卸電力市場で取り引きされる。CO2を排出しないという環境価値は、消費者が負担する賦課金によって対価を得られるので、現在、卸電力市場では再エネの電気であろうと火力の電気であろうと何ら区別されていない。しかしせっかく自由化したのであるから「再エネ100%の電気」を売りたいという小売事業者に向け、再エネの環境価値を取引する市場を立ち上げて環境価値を顕在化させれば、応援したい人がより応援できるようになる。買いたい人が余計に買ってくれるようになる分、全消費者が選択の自由なく負担する賦課金を減らすことに役立つと期待されているのである。
 しかし、そもそもこの小売り事業者の非化石電源比率の義務は2030年度という断面における義務である。消費者の自由化に対する期待の多くが料金の低廉化であることを考えれば、2030年までの間小売り事業者は価格競争を繰り広げることとなり、環境価値を売りにしたメニューが多く売れるようになることは考え難いだろう。冒頭書いた通り、産業界・消費者にはもう十分賦課金を負担しているという意識のほうが強いだろう。再エネ導入支援のために追加的にコストを負担するメニューを選択する消費者の比率が多いことを期待したい気持ちはやまやまだが、期待しすぎてはいけないというのが、これまで「グリーン電力基金」などの状況を見てきた筆者の意見である。「架空の財布」で議論しているうちは良いが、実際の財布のひもは固い。
 非化石価値市場の創設が賦課金を抑制する切り札となることは想像しづらい。


図5

図5/非化石価値市場のイメージ
(出典:経済産業省資料より)

エネルギーコスト抑制に向けた本格的な議論を

 電力使用量に比例する形で課される賦課金は、消費者や企業にとっては税そのものである。税金の場合これだけ急激に税率が上昇することがあれば国会で大きな議論が行われるはずだ。電気料金とあわせて負担する賦課金であるがゆえにその負担についての議論がなおざりにされている現状を、これ以上放置することは許されない。
 先日深夜の討論番組で、民進党福山哲郎議員が当時を振り返り「多少高い(買取)価格をつけちゃいましたが、初期に市場をつくるためには仕方なかった」と発言したが、導入前からバブル状態になるのはわかっていたし、対応策もわかっていた。現政権もそれをここまで放置した。先述した通り、世界に例を見ないスピードで太陽光の導入量が拡大したにもかかわらず、いまだに日本の太陽光のコストは諸外国の2倍である。残ったのは世界最大規模の賦課金であり、エネルギーミックスで定めた再エネ比率が現実となった場合、2030年までの累積賦課金総額は44兆円になるとの試算も出されている注8)。いまは下落している燃料価格も長期的には上昇が見込まれるうえ、東電福島事故のコストも膨らんでいる。エネルギーコスト抑制に向けた政府の本気度が、いま試されている。

注3)
http://www.tepco.co.jp/ep/corporate/adjust2/index-j.html#anchor_3
注4)
http://www.tepco.co.jp/ep/corporate/adjust2/index-j.html#anchor_3
注5)
http://www.tepco.co.jp/ep/corporate/adjust2/pdf/list_2904.pdf
注6)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/004_08_00.pdf
注7)
固定価格買取制度情報公開用ウェブサイト
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/statistics/index.html
注8)
電力中央研究所社会経済研究所朝野賢司主任研究員 固定価格買取制度(FIT)による買取総額・賦課金総額の見通し(2017年版)
http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/source/pdf/Y16507.pdf