第8回 電機・電子業界は〈後編〉

電機・電子温暖化対策連絡会 議長/パナソニック株式会社 品質・環境渉外総括 名倉 誠氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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第8回 電機・電子業界は〈前編〉

ICTソリューションによる省エネ対策

――将来に向けて、業界としての議論はどこまで進んでいますか?

名倉 誠氏(以下、敬称略):現在、環境省が「長期低炭素ビジョン小委員会」を、経産省が「長期地球温暖化対策プラットフォーム」を設置し、議論いただいています。私の理解としては、社会がサステイナブルに発展し、社会基盤を変革していくために、将来に向かって検討しなければいけないという問題意識があるのだと思います。

名倉 誠氏

名倉 誠(なぐら・まこと)氏。

1982年 青山学院大学理工学部卒業
同年 松下電器産業株式会社入社 同ビデオ事業部企画部配属。
以降、ビデオ、ビデオムービー関連の商品企画、経営企画。
1995年~ 移動体通信関連の商品企画、経営企画(参事)。
2006年~ 固定網含めた通信事業の経営企画、グローバル新規事業開拓。
2009年~ AVCネットワークス社異動後ムービービジネスユニット ビジネスユニット長(理事)。
2012年~ 環境本部へ異動。
2016年4月 (現職)パナソニック株式会社 品質・環境本部 品質・環境渉外総括。電機・電子温暖化対策連絡会 議長拝命。

 しかし、議論の中で、環境というと事業とは切り離して見る方もいらっしゃいます。CO2削減だけを図ればいいのではなく、やはり事業と一体となって環境活動が促進される姿が求められるべきであり、中長期的な視点、あるいは事業視点というものを踏まえた政策にすることが課題だと思います。

 例えば、「IoT(Internet of Things)」注3)が最近注目されていますが、「IoT」や「インダストリー4.0」といった生産革新の技術は、我々の事業活動のツールです。これらの技術が事業成長のための課題を解決するツールとしてどうあるべきかを論議していただき、技術開発に向けた政策支援についても議論いただきたいと思います。

注3)
IoTとは:建物、電化製品、自動車、医療機器など、パソコンやサーバーといったコンピューター以外の多種多様な「モノ」がインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすること。

――これからはICTを活用した省エネ対策が期待されています。

名倉:電機・電子業界では、いろいろな業界が連携する主体間連携の中に、自らの技術や製品・サービスを提供していくことで地球温暖化防止に貢献しています。まずは、省エネルギーですが、インバーターや計測制御システム、部品自体など、我々が関わる面は非常に大きいです。例えば、IoTということでは、通信技術をベースに省エネ・小型化・大容量・高速化がありますが、それが社会の様々な活動を“つなげていく”ことによりCO2削減を実現できる可能性が高いことは、ある程度見えていると思います。

 また、最近言われる、ビッグデータなどの取得とその解析、それを踏まえてのAI(人口知能)などによるソリューションを提供して、気候変動の影響を抑える活動に繋げることや、適応して甚大な被害を起こさないようにするようなことはこれからも出てくると思います。大事なのは、IoTなどを活用しながら、電機・電子業界が、他業種、他分野も含めた連携・協業の中で地球温暖化防止による貢献を実現することでしょう。

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 加えて、企業としては投資を行い、そのリターンが見合うようであれば技術開発は加速すると思われますが、視点としては中期的な単位です。システムや街を作るのに1年単位で見ていたら投資は進みません。そのあたりを配慮いただき、政府には中長期的な視点で政策を打ち出してほしいと思います。リーマンショックの時に業績が大幅に下がったなど、我々の業界は景気変動の影響を非常に受けやすいのです。そうした側面を踏まえて、中長期ビジョンでの政策支援をいただきたいと思います。

――ICTソリューションによる省エネ対策の一つにテレビ会議がありますね。

名倉:ブロードバントのエリアに限られますが、かなり優れたテレビ電話システムも開発されています。弊社にもHDコムと呼ばれるテレビ会議システムもあります。非常に快適で、有効です。音声のディレイもなく、ズームもできますし、居眠りしている人もすぐわかります(笑)。音のレスポンスがいいというのが一番ですね。

――テレビ電話は、CO2排出の削減に貢献しますか?

名倉:遠隔地とのスムーズなコミュニケーションがテレビ会議を導入することで可能になるため、出張経費や移動時間、移動に伴うエネルギーも大幅に削減します。しかしながら、テレビ会議をやったからといって、飛行機自体の便数が減るわけではありません。テレビ会議の普及拡大により、実際に、CO2が具体的にどれだけ減るのかという疑問は残るかもしれません。適応やソリューションに対するCO2削減の評価基準は、まだ確立途上でもあります。これから社会の仕組みとして、我々がそういう製品・サービスを提供すると同時に、評価基準なども整備されていくことが必要かもしれません。