病院のエネルギー消費


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 入院ベッド数が多い病院は、ホテルと同じように24時間稼働している。空調は病室だけでなく、廊下も含めてのものとなるし、給湯も手洗いだけでなく、手術室なども含めて24時間機能している。患者に点滴をしたり、身体の状態をモニターする機器も常時作動している。これらを総合すると、床面積当たりのエネルギー消費量は非常に大きく、逆に言えば、エネルギー消費を効率化する施策の効果は極めて高いと言える。そして、もっとも有効な手段は建物全体を断熱構造にすることだ。それに加えて、絶えず循環している温水や冷水を送る配管の高断熱化と圧送損失の低減、常時作動している循環ポンプや吸排気ファンの高効率化がある。中でも、外気と接触する壁面の大きな面積を占める窓のガラスに断熱効果の高い複層ガラスを使うことの有効性は高い。このような効率化をするのは設備コストの増加になるが、エネルギー消費量の削減によって、投資は3~4年以内で回収できるとされる。

 自分のことを例にして恐縮だが、毎月1回奈良県立総合医療センターへ検査を受けに行っている。5年前にここへ1か月ほど入院していたことがあったが、その時に24時間機能している病院のエネルギー消費の大きさを実感すると同時に、ここでエネルギー消費を削減するにはどのようにすれば良いかを考える機会となった。現在の医療センターは40年以上前の昭和52年(1975年)に開設された古い施設だから、エネルギー効率が悪いことは仕方がないだろう。ちょうどその頃、新医療センター建設計画が発表されていたこともあって、ベッドの中でどのような対応策があるかを考えたりしていた。

 入院時の病室の空調は、窓下に吹き出し口のあるものだったが、窓ガラスが単層であるため、外気温が伝わってきて快適性は失われがちだった。さらに、一階の患者受付ホールが中庭に面していて、視覚的にはよく考えられていたが、ここの大きなガラスも単層であるために、その側にある椅子に座ると、夏は暑く、冬は寒く感じる。ここからの熱ロスは大きい筈だ。西向きのリハビリセンターは、西日を受ける時にはカーテンを閉めても暑い。もう一つ気づいたのは、病院にはパソコンが非常に多く使われているということだ。定期検診の時には、医師はパソコンで過去の検査結果や経過を一覧で見ることができるようになっているように、パソコンは重要な役割を果たしている。だが、パソコンとそれがネットワークで接続されるコンピュータシステムが消費する電力は意外に大きいだろう。検査機器などに消費される電力に匹敵するかもしれない。

 違った場所に新設される医療センターは7階建てで来年度中には完成することになっているから、既に建物の骨組みも済んで内装の段階に入っている。現在の430床から540床に増えた病室が全て南向きという斬新なものだ。さらに内部の吹き抜け空間は天井部から自然光を取り入れるようになっているが、この空間部分からの熱損失は小さいだろう。たまたま知り合いを介してここのエネルギー関係設備について知る機会があったが、窓は複層ガラスになっていて、基本的に断熱効果の高い建物となっているようだ。また照明は殆どがLEDで、電力供給の安定性を確保するために二つの変電所から送電線が接続されている。ガスコージェネレーションと非常用ディーゼル発電機が設置されるが、大容量蓄電池の設置はされないことになっていた。だが、いま建築事業者から設置を勧められ、検討中だそうだ。蓄電池が設置されるとすれば、病院全体を、いまデータセンターで行われ始めている効率の高い直流供給を基本にすることを考えても良いのではと思える。屋上には50キロワット弱の太陽光発電設備があるし、LEDもパソコンや医療機器も直流を基本としているからだ。

 建物の設計時にあまり考慮されないことが多い空調、給湯、給水用配管が気になる。材料費を抑えるために直径の細い配管を使い、分岐部に伝統的なT字型の接続がされているかもしれない。配管を流れる流体の摩擦抵抗は直径の5乗で効くから、少し直径を太くするだけで圧送ポンプ用モーターの定格電力が大幅に下がり、電力消費量を大きく削減することができる。さらに、配管の接続部を曲線にすると圧損が大きく下がる。また、ポンプとモーター自体の効率も電力消費に影響する。この配管全体に関連する効率は、初期コスト優先で犠牲にされることが多いらしい。これについては、以前にも紹介したことのあるエイモリー・ロビンス著「新しい火の創造」(拙訳、ダイヤモンド社)に詳しく述べられている。改修時期が来たときに検討してほしい項目だ。

 ともあれ、新病院が開院して1年ほどしたら、床面積当たりエネルギー消費が新旧でどのように変化したかを調べてみたいと思っている。

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