クリントン民主党候補のエネルギー・環境政策


環境政策アナリスト


「一般社団法人 日本原子力産業協会」からの転載:2016年7月6日付)

 前回はドナルド・トランプ共和党候補の予想されるエネルギー・環境政策およびそのアドバイザーに触れた。クリントン民主党候補については2008年大統領予備選の際に分析がなされていると考えるが、改めて同候補政策を取り巻く最新の状況を報告する。

エネルギー・環境政策策定を進めるアドバイザー

「アメリカ進歩センター」: クリントン民主党候補のエネルギー・環境政策はアメリカ進歩センターの影響なしに考えることはできない。同シンクタンクは2002年ブッシュ(子)大統領の一期目の任期途中に行われた中間選挙で民主党が敗北したことを踏まえて設立された、政策提言を行うシンクタンクである。もともとリベラル思想の理論的強化と草の根活動を結びつける機能を持っている。2008年の大統領予備選では当初ヒラリー・クリントン候補を支持していたが、同候補の敗北宣言に伴い、オバマ候補(当時)を勝手連的に支援したという経緯がある。現在はダシュル元上院民主党院内総務が代表を務める。
 アメリカ進歩センターは今回の予備選においてもクリントン候補と緊密な関係を維持している。創始者のジョン・ポデスタ氏はビル・クリントン元大統領の首席補佐官でオバマ大統領のための政権移行チーム共同議長を務め、オバマ政権の当初の政策支柱となった。その後ポデスタ氏は政権から離れたが、再びクリントン候補のための首席選挙参謀を務めており、ワシントンでは民主党の代表的「声」となっている。また、オバマ大統領のもとで気候変動特使を努めたトッド・スターン氏もアメリカ進歩センターに所属していた。
エネルギー政策アドバイザー トレバー・ハウザー氏: また、エネルギー・環境面でクリントン候補を支えるのがロディアム・グループで中国問題とエネルギー・地球環境問題を担当するトレバー・ハウザー氏である。ハウザー氏は一度ロディアム・グループを離れ、クリントン候補が国務長官だったとき国務省でアドバイザーとしてクリントン長官を支えていた。ハウザー氏は現在、クリントン候補のエネルギーアドバイザーのひとりとしてさまざまな場所で発言をしている。またロディアム・グループにおいては、シカゴ大学のエネルギー政策研究所のマイケル・グリーストン教授とともに、気候影響研究(Climate Impact Lab)という気候、経済、科学の領域をカバーする気候変動リスクを定量化するプロジェクトを進めている。中国問題、石油、石炭、気候変動などの論文を多数発表している。

「世界のクリーンエネルギースーパーパワー」を目指す

 クリントン陣営は「アメリカを世界のクリーンエネルギースーパーパワーにし気候変動の課題に応える」という目標を発表している。クリントン候補はその目標について下記のように述べる。

米国を21世紀世界のクリーンエネルギースーパーパワーにすることにより、高報酬の雇用を創造する
5億の太陽光パネルを設置する目標を掲げ、各家庭に再生可能エネルギーによる電力を送り、家庭、学校、病院でエネルギーの消費を3割カットし、米国の石油消費を3割削減する
次の10年間で2005年に比して30%の温室効果ガスを削減し、気候変動との戦いにおいて世界をリードする

 上記のエネルギーセキュリティー確保の重要性、環境産業振興による新たな雇用確保、地球温暖化対策を基本とする政策はオバマ大統領が就任当初掲げた政策に酷似している。当時それはグリーン・ニューディールと呼ばれ、産業界からも期待された。ただ、2008年の選挙はオバマ候補(当時)もマッケイン候補(現在も上院議員として在籍)も気候変動に対しての基本的認識は変わらなかったのに対し、今回は共和党候補のトランプ氏の温暖化懐疑論とは両極をなしている。この間の温暖化懐疑派のキャンペーンの成功と国民の世論の変化の大きさを感じざるを得ない。クリントン候補はトランプ候補の親化石燃料政策の視点からの批判に対して「わたしはだれにもわれわれを後戻りさせない。未来のクリーンエネルギーを利用する経済的便益を否定させない、歯止めの利かない気候変動から生ずる大災害に子供たちをさらすようなことはさせない」と述べている。こうしてオバマ大統領の政策を引き継ぐ路線を明確にしているクリントン候補であるが、環境政策にはより前のめりである。具体的には、

(当然のことではあるが)昨年12月のパリ協定を支持する
(これも当然であるが)オバマ政権のクリーンパワープランおよび自動車、トラック、電気機器の効率化策を支持する
既存のエネルギーインフラをよりクリーンにより安全にするための包括プランを策定する
温暖化ガス削減、北米のクリーンエネルギー開発を促進するためにカナダ、メキシコとの間に北米気候協定を策定する
炭素汚染対策およびクリーンエネルギー促進のために州、都市、地方コミュニティーとパートナーとなり600億ドルの「クリーンエネルギーチャレンジ」を開始する

 「クリーンエネルギーチャレンジ」の実現のためにクリントン候補は下記を提案している。

気候行動の競争:補助金を包括的に提供し、他の市場メカニズムによるインセンティブを利用することにより州に対して連邦の炭素汚染基準を上回るように誘導し、クリーンエネルギー利用を促進する
太陽光報奨金:屋上太陽光パネルの設置を遅延させ、経済性を損なわせる規制上の障害を排除した地域自治体に報奨金を支給
送電線強化:州、都市、地方コミュニティーと協働し、送電線の信頼性および堅牢度を向上させ、電力需要家の選択を広げ、需要家価値を高める
地方のリーダーシップ:既存の地方電力サービスプログラムを拡大させる

トランプ候補とサンダース候補のはざまの中の化石燃料政策

 化石燃料についてはトランプ共和党候補が開発の強化を主張する一方、クリントン候補と候補指名を争ったサンダース民主党候補が水圧破砕技術に敵対的な主張をしている中で、クリントン候補は現在の化石燃料生産は安全で責任ある中で行われるべきであるとし、同時に北極野生生物国家保護区(ANWR)のような機微な土地での開発は対象からはずすことを強調している。そして連邦などの所有する土地のリースにより生産の拡大を見込むと言っているが、この点オバマ大統領が当選直後に盛り込んだが、ほとんど実績がないのが現状である。他方で化石燃料に対する税金による補助は廃止すると公言している。

慎重な原子力への支援

 今回予備選では大きな話題になっていない原子力について、クリントン候補に対比させるためにトランプ候補の立場を整理すると、原子力について同候補は福島第一原子力発電所事故の直後の2011年のフォックスニュースで「世界が原子力を脇に追いやるのはいいことではない。わたしは原子力を支持する。とても強く原子力を支持する」とコメントし、原子力支持を表明している。ただし、今回選挙戦ではどのような支持をするのかを明確な形で示しているわけではない。トランプ候補はそもそも電力セクターについて言及がない。化石燃料への強い支持から考えると原子力を支持するとしてもあくまで化石燃料に対する二義的なものと考えられる。原子力(再生可能エネルギーとともに)を支持するとしても、それは米国のエネルギーの自主性確立のためのもので化石燃料を犠牲にする前提にたったものではないことは明らかである。
 クリントン候補の立場も複雑である。民主党左派は原子力に反対であるためクリントン候補はキャンペーン期間中の原子力への物言いは慎重にならざるをえない。前述したハウザー氏は2月、クリントン陣営のアドバイザーとしてニュークリアーマターズという原子力推進派団体の会議(サウスキャロライナ州チャールストン)で、土地柄であることをも踏まえて考えるべきであるが、「現在の原子力の米国への貢献を認識することは大変重要である」と述べている。クリントン候補は既存原子力発電所の運転継続はむしろどっちつかずで言質を与えるのは避けており、2008年の予備選のときもユッカマウンテン廃棄物処分場計画には反対をしている。そういう意味でもオバマ大統領の原子力政策と近いはずである。したがって新型炉に対する研究開発などは支援し、地球環境の観点から原子力は一定の支持をすると見られている。

 民主党党大会は7月25日から28日にかけてペンシルバニア州フィラデルフィアで開かれる。エネルギー・環境問題は他のイシューに比べると注目度は低いようであるが、依然影響力のあるサンダース支持者とのかけひきの中でどのように語られるかに注目したい。

<出典>
 
国際技術貿易アソシエイツ
ロディアム・グループホームページ http://rhg.com/
Nuclear Matters with POLITICO in South Carolina
米国オバマ政権の環境・エネルギー政策 前田一郎

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