「クリーンパワープラン」正式発表後のオバマ政権vs.石炭業界


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 先日、8月3日にオバマ大統領とEPA(環境保護局)が正式発表した「クリーンパワープラン」最終版は、ワシントンD.C.のもっともホットな話題だと言っていいだろう。米国では発電所から排出される炭素量が国全体の排出量の約3分の1を占めているが、これまで気候変動対策として、国による炭素排出規制は設けられていなかった。

 今回発表されたクリーンパワープラン最終版では、2030年までに発電所からの炭素排出量を8億7千万トン、2005年比で32%削減するという計画が掲げられている。クリーンパワープランは、予想を上回るスピードで進んでいる風力発電などクリーンエネルギーへのシフトをさらに加速させる狙いがある。MATS(大気汚染物質規制)とクリーンパワープランにより、2030年までに発電所からの炭素排出規制の他、二酸化硫黄の排出量を90%、窒素酸化物の排出量を72%削減する方針である。

 厳しい石炭火力への規制は、オバマ大統領が「石炭への戦争」を仕掛けているとメディアに揶揄されてきた。

石炭業界のネガティブキャンペーン

 クリーンパワープランの正式発表直後から、石炭生産州や共和党は法的なアクションも含め、反撃の構えを見せている。石炭業界のロビー活動団体、American Coalition for Clean Coal Electricity(ACCCE)は、石炭火力への規制は、オバマ大統領が「貧困への戦争(War on Poverty)」をしかけたものだとして、プロモーションビデオでネガティブキャンペーンを展開中だ。「炭鉱夫の失業」「エネルギーコストの上昇」「安定供給のリスク」をもたらすものだと強く批判し、「オバマに米国のエネルギーの未来を守るように言おう」と国民に呼びかける。

Tell President Obama to Protect American’s Energy Future

 さらにACCCEは、8月24日に次のようなプレスリリースを発表した。

 「発電所の排出規制は、米国の家庭に電気料金の上昇をもたらし、気候変動にまったく影響を与えることはない」、「オバマ大統領は、持論を見せびらかすのではなく、米国のすべての家庭が経済的に賄え、日々安定的なエネルギーを供給することに注力すべきだ」

 「National Energy Assistance Directors Associationの調査によると、家庭のエネルギーコスト(電気代やガス代、ガソリン代等)を支払うために、米国の低所得世帯の24%が丸一日食事をとることを控えなくてはならず、37%が必要な医療ケアを受けることができない。オバマ大統領の炭素削減計画にかかる実際のコストが判明するには時間がかかる。我々の試算では、年間4000億ドル以上のコストがかり、43州で電気料金が上昇するだろう。現実の問題として炭素排出削減の気候変動への影響は皆無(ゼロ)だ」と訴える。

オバマ政権によるプロモーション

 一方、ホワイトハウスとEPA(環境保護局)も、ウェブサイトやビデオメッセージを通して、クリーンパワープランのプロモーション(理解啓蒙活動)に力を入れている。異常気象をもたらす気候変動は、石炭火力によるCO2排出が最大の要因であるとして、石炭火力へのCO2排出規制を電力会社や各州に課すことが、子どもたちの未来を守るために不可欠だと国民に呼びかける。有害化学物質規制とクリーンパワープランの環境規制が、究極的に米国民の健康を守り、米国の経済や雇用の増加につながることをアピールしている。

President Obama on America’s Clean Power Plan
オバマ政権のクリーンパワープランのプロモーションビデオ

 また、ホワイトハウスとEPAのウェブサイトでは、「クリーンパワープラン」が「石炭火力への戦争」と呼ばれることを世間に広がる誤解だとして、多くの「誤解」と「事実」について解説している。