京都議定書の「呪縛」を解き放て


国際環境経済研究所前所長


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(産経新聞「正論」からの転載:2015年5月15日付)

 今年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に臨む日本のあるべき基本姿勢とは何か。

 日本は京都議定書成功の立役者の一人である。議長国としてその成立をホストし、達成が難しいといわれた第1約束期間の削減目標(6%)をクリアした。そのことに胸を張るべきであって、日本が「諸外国に比べて取り組みが消極的で恥ずかしい」などという批判に耳を貸す必要はない。

≪日本が果たした大きな貢献≫

 米国は高い目標(7%)を掲げるパフォーマンスで喝采を浴びたにもかかわらず、批准の努力もせずに、政権が民主党から共和党に交代すると、京都議定書から撤退し二度と復帰しなかったことを忘れてはならない。

 また、欧州は1990年という特殊な年を基準年とすることに固執して、自らの削減目標(8%)の達成が圧倒的に容易になるように、外交的権謀術数を働かせてきた。東西ドイツの統合による経済効率化や、英国での天然ガスへの燃料転換という、温暖化対策とは無関係な、しかし大きな温室効果ガス排出削減効果をもった出来事を目標値達成の計算に織り込めるようにたくらんだのだ。

 一方、日本は既に高いエネルギー効率を達成し、CO2削減の余地がわずかしかなかったにもかかわらず、何とか目標を守った。それも5千億円以上の税や電気料金などを使って、官民合わせて4億トン近くの排出権を海外から購入までして、である。体脂肪率が極限まで低いアスリートがさらなる減量を成し遂げたようなものだ。

 温暖化問題解決には、経済成長と排出増加が著しい中国やインドを含めた途上国にも、削減努力をさせることが必要だ。だが、京都議定書は先進国にしか削減義務を課していない。京都議定書は既に欠陥品になっているとの認識はどの先進国も持っていた。

 ところが、欧州が途上国に対して及び腰の姿勢を続けていて、埒があかない。この状況を打開するため、COP16では日本が率先して、京都議定書の第2約束期間には参加しないことを表明した。「京都議定書は既に役割を終えた。これからは途上国も削減に参加する枠組み交渉に本格的に移行していくべきだ」と訴えたのだ。

≪行動が評価対象となる≫

 これを契機に交渉の流れはポスト京都議定書に傾く。温暖化問題への取り組み方の刷新に向けて、各国が認識を新たにする契機を日本が作ったのだ。この大きな外交的実績を忘れてはならない。

 こうした経緯から見れば、現在の削減目標(2013年比26%減)をめぐる議論は「各国と比較して低いと批判される」「国際会議で持たない」といった右顧左眄型の意見ばかりで、自虐的すぎる。いい加減に、京都議定書時代の頭の構造から抜け出すべきだ。

 数値目標などは外交上のアクセサリーのようなもので、その実行可能性は厳密に検証されていないし(例えば米国)、目標数値計算のトリックで何とでもなる(欧州は手前勝手な1990年を基準年としたままだし、これまでと違って森林吸収の数値も含めた)。

 2020年以降の枠組みは、京都議定書時代と異なり「ボトムアップ」型である。数値目標の多寡ではなく、どんな政策を実施するのか、どんな実効性のある行動をとるのかに焦点が当たる。つまり、温暖化防止のために自国の強みを生かして何を行うか、弱みをどう改善していくかを競うのだ。

 米国は、そのエネルギー多消費型のライフスタイルを改めることに注力すべきだろうし、欧州は過重な国民負担のない再生可能エネルギーの導入で、CO2削減は可能だというモデルを世界に示せばいいだろう。日本は削減目標を実現する政治的意思があるなら、その前提となっている原発再稼働にきちんと取り組むべきだ。

≪技術力での貢献が本筋だ≫

 長期的視野に立った温暖化対策はイノベーションがカギである。日本はエネルギー環境技術の世界への普及と研究技術開発に強みがある。産業界の技術力は依然、世界トップクラスだ。政府は民間主導で技術の海外普及を行っていく際、2国間クレジット制度(JCM)で後押しするのは効果的だ。

 ただし、本来は民間活動である海外技術普及で得たクレジットを削減目標に織り込むのはもっての外だ。側面支援にとどめ、民間活力を最大限に引き出すべきだ。

 2030年の中期目標では、より準備期間が長い技術開発への取り組みはカバーできない。

 安倍晋三首相は以前、50年までに世界の排出半減を提唱したクールアース構想を標榜したが、さらにそれを超えた長期を見通すとなれば、革新的技術開発に必要な基礎研究支援や国際協力による実証に重点を置くべきだ。

 日本政府には、自らの技術力を生かして温暖化問題の解決にどう貢献していくのか、そのために世界的にどのような連携を取っていけばいいのか、各国首脳の心に響く実効的な戦略をCOP21でぜひ表明してもらいたいものである。



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