原発訴訟に思う-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(15)


国際環境経済研究所前所長


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 少し前になりますが、原発関連訴訟について、二つの対照的な仮処分決定が出ました。高浜原発3、4号機差し止め仮処分申請と、川内原発のそれです。前者は福井地裁、後者は鹿児島地裁であり、前者は原告勝訴、後者は原告敗訴でした。
 
 主に新聞社から、それぞれについてのコメントを求められたため、少しずつ違う論点についてお話ししてきました。ここでまとめておきたいと思います。

 後者の仮処分決定についてのコメントで一番長いものは南日本新聞に掲載されたものですが、鹿児島の地元紙なのであまり目に触れられた方はいないかもしれません。最終版でどう扱われたかは確認できていませんが、私から送っておいたコメントは以下のようなものです。

 「本件却下は妥当なものだ。原子力規制委員会による新規制基準の制定プロセスは適正であり、基準内容や事業者による同基準適合申請の審査、さらに避難計画についても合理性が認められるとしており、安全規制行政に一定の信認を与えている。
 また事業者による基準適合のための取組みの十分性にも評価を与える一方、原告の主張には説得力がない旨明言している。本決定は炉規制法が国民の生命と財産を守るために原子力施設の安全な活用を目的としており、その法執行が行政上適正に行われていることを十分考慮したものと言える。
 憲法上の人格権を論拠に原子力安全規制行政の内容を吟味せず、専門家の意見も聞かずに独自の基準を提示した先日の福井地裁による高浜原発差止仮処分決定とは、明確に一線を画する決定だと評価したい。
 今後上級審においても、司法は、専門技術的な知見を要する行政のプロセスに明白な瑕疵があったかという点を中心に審議・判断を行うだろう。」

 一方、このコメントで批判した福井地裁の仮処分についての考え方は、次のようなもので、そのうち一部が朝日新聞に掲載されました。

 「原発の再稼働は電力の安定供給、電気料金などへの影響が大きい。ところが仮処分や民事裁判は当事者間の争いを解決することを射程にしており、公益との調整を十分に意識していないことがある。今回のような司法判断が続くようであれば、裁判所が公益の損害の可能性をどこまで考慮すべきなのか、司法手続きの中で行政など関係機関から事前に意見を聴くことを位置づける立法措置も必要になってくる。
 事故が起きる頻度とその被害の全体像で捉えたリスクを最小化するのが国際的な安全規制の原則だ。『万が一にも』具体的危険性があれば再稼働を認めないとする論理は、原発にゼロリスクを要求することにほかならず、その原則と矛盾する。
 今回の決定は、原発の安全規制が、司法判断と原子力規制委員会による行政判断という『二重基準』を持つことを意味する。事業者はどちらを基準に安全対策をとるべきか判断できず、住民も混乱する。安全性についての共通理解に基づく事業者と住民との信頼関係が構築を妨げるようなこうした判決や決定は、今後も続くとは考えられない。」

 また、毎日新聞に掲載されたものは次のとおりです。

 「既に原子力規制委員会の新規制基準があるなかで、今回の決定では「外部電源と主給水の双方の耐震性をSクラスにする」などと裁判所が独自の基準を示した。原子力規制に関し、裁判所と行政が二重基準を作ったことになる。これでは、事業者や国民がどちらのルールに従えば良いのか混乱する。
 行政の基準は審議会などでさまざまな意見を吸収して世に出されるが、裁判所の出す基準には正しさを検証するプロセスがない。しかも原子力という専門知識が必要な分野なのに、今回の決定では、なぜこういう基準になったのか十分な根拠が示されないまま、事業者は許認可を得るために基準を守らないといけないことになってしまう。」

 福井地裁の判断については、今回のみならず、昨年の大飯原発関連訴訟の判決についても批判を行ってきました。趣旨的には同じようなラインです。ただ、大元の問題は、現在の安全規制の根本的な哲学や方法論が、司法を含めた一般国民に対してきちんと説明されていないことにあるのではないかと思っています。リスクをどう捉え、どのようにコントロールなりマネジメントを行っていくのか、またその目標となるレベルはどの程度なのかなど、国民の関心に関係者、特に原子力規制委員会はきちんと答えるべきでしょう。
 その根本論を訴えたものが、21世紀政策研究所で去る4月に公表した「続・原子力安全規制の最適化に向けて」です。
 
 また、そうした問題意識に基づいて取材に対応したものが、5月10日産経新聞7面「日曜経済講座」(島田耕経済部長)にコメントとして掲載されています。
 原子力安全規制は、原子力規制委員会が設立されて3年が経ち、法律上見直しの時期に入ってきます。今後、原発訴訟問題とそれと表裏一体にある安全規制行政の問題を考えていくことにご関心のある方々には、ぜひご一読いただければ幸いです。



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