核燃料サイクル政策のあり方についての提言(第1回)

- 使用済燃料(SNF)処分方策について -


印刷用ページ

 本研究会はわが国の原子力開発の当初からこの分野の様々な部門で業務経験を果たし、現役を離れた有志が集まって編成されたものである。福島第一原子力発電所(1F)事故から早くも4年が経過しようとしているが、国内の原子力施設は停止したままである。本研究会は

1)
何故福島事故を起こしてしまったのか
2)
何故核燃料サイクルをこのような混迷状態にしてしまったのか

につき、自らも責任ありとの認識に立って、過去の行動を振り返り、反省し、そこから引き出した教訓を基に、核燃料サイクル開発の現状を評価し、政策面であるべき方向性について提言するものである。

 今回(第1回)は1F事故後の現在、わが国の原子力開発が抱える課題を以下のように総括した。

1.1F事故の反省を踏まえた安全基盤改善強化

 原子力発電利用を継続する以上、核燃料物質を取り扱うすべての原子力施設にあっては、1F事故の反省に基づく安全性改善強化は最優先に措置すべき基本的条件である。1F事故は結果として、わが国の原子力開発体制、特に安全対策面における脆弱性を顕在化させることとなった。事故後4年が経過したが、事故結果の規模からして国民感情にはまだ多くの不信感を残しており、今後の原子力利用継続に対しては反論、批判など厳しい環境が当分続くものと認識しなければならない。しかし、国がエネルギー安全保障政策上重要な位置づけにあると認めた原子力発電を安全かつ着実に進めるためには、厳しい世論への対応について官民総力を挙げて取り組む必要がある。特に原子力施設を運営する事業者は、「国が定めた安全基準は、必要最低限の要求を示すもの」であることを認識し、「トップと施設現場の意思疎通を図り、常に安全意識高揚の理念を共有する」ことにより、「原子力安全確保体制」「原子力安全文化」の基盤を確立することが基本的要件であり、このことを自らの姿勢で世論に訴えていくべきものと考える。

2.原子力安全規制のあり方

 1F事故後制定された新安全基準に従って原子力規制委員会が最初に審査した事例である川内発電所1、2号機は審査合格し、現在変更工事認可手続きが行われている。しかし新規制基準では、過酷事故発生時の住民退避手段が自治体任せになっていることから、世論による国の対応不備が厳しく指摘されており、今後の国による地元支援への取組が注目される。ところで原子力規制は原子力安全基盤改善強化の最重要項目の一つではあるが、「原子力施設は稼働状態にあってこそ運転保守管理に緊張感が維持され、安全意識の高揚が図られる」という基本的視点がある。全ての原子力関連施設が4年間も稼働できていない状況にあることは、直接施設運営に当たる原子力事業者の体制・組織、そして個人に到るまで「安全意識」の後退につながることに重大な懸念を覚える。米国の事例を引くまでもなく、原子力規制には「国策である原子力利用を適切な方向に積極的に進める」責任もある筈である。原子力規制側に全ての責任があるとは云えないが、客観的に見て再稼働の行方はほぼ規制当局の掌中にあると見て間違いないだろう。稼働停止期間の可能な限りの縮小をはかる必要性に理解を持つべきである。そのためには規制当局と事業者相互の信頼性確立が不可欠の要件であることを再確認し、必要な場合規制当局の体制強化、さらに両者間の調整機能等を含め最善の措置を講ずべきである。

3.エネルギー安全保障における原子力発電の位置づけ

 エネルギー安全保障の基本条件の1つは、安定電源の確保である。国を挙げて積極的に推進を図ろうとしている再生可能エネルギーは、現状では供給安定性については不安定性が大きく、ベースロード電源としての信頼性に不透明性が大きい。21世紀半ばの電力需要が現状にほぼ近い水準にあると想定すれば、原子力発電の発生電力比率は少なくとも25~30%程度の水準を確保すべきであろう。この比率は今後のわが国のエネルギー安全保障のあり方および原子力開発のあらゆる面に係わる最重要ファクターであり、国は一日も早く目標比率を提示すべきである。さらに地球温暖化ガス排出低減という課題がある。今年11月2日、IPCCが発表した第5次統合報告書では、産業革命前より地球気温上昇を2℃未満に抑える国際目標について、2050年に温暖化ガス排出を2010年比40~70%減、今世紀末にはほぼゼロにする必要があると分析した。特に日本を含む先進国にはより大幅な排出削減が要求されている。化石燃料使用削減は必至であり、現状で火力発電が賄っているベースロード電源の必要削減分を代替できるのは原子力発電以外には考えられない。

4.電気事業を取り巻く経営環境の変化

 過去半世紀に及ぶわが国の原子力発電開発(核燃料サイクル開発を含む)は、電気事業の地域独占と総括原価方式料金制度によって支えられてきた。しかし総括原価方式料金制度は全面廃止となり、さらに電力システム改革という条件の下で電力市場完全自由化となれば、2016年には電気事業者は法的には電力供給責任はなくなる。従来のような電気事業連合会による政策統合された電気事業は最早存在しない。しかし現今の日本にとって、エネルギー安全保障体制の確立は喫緊の課題である。ベースロード電源としてある一定の比率で原子力発電を維持確保するとなれば、1970~80年代に運転開始した軽水炉の廃炉が現実化してきた以上、新増設の本格的議論を進めざるを得ない状況にある。しかし市場完全自由化ともなれば、現電力事業者は既設炉の廃炉を済ませばそれ以上に新増設を計画する責任はなく、当然のことながら原子力比率は低下するだけである。ましてや核燃料サイクル開発から完全に手を引くという選択肢もありうる。過去の経緯からすれば、その結果は想像を絶する大混乱以外には考えられない。SNF処理処分の責任主体は消滅し完全な責任者不在の状態になる。
 現実には六ヶ所再処理、もんじゅ両プロジェクトとも大幅な工程遅延により核燃料サイクル開発環境は大変な混迷状態にあり、本来であれば官民総力を結集して混迷状態の収束を図るべき時にあるが、実体は殆ど停滞状態にある。電力システム改革に伴い原子力開発体制を如何に変革するかの全体像(グランドデザイン)が明示されないため、混迷をさらに加速しているとしかいえない。電気事業経営自体が財務的に逼迫した状況において電気事業者を中心とする民間企業がやれることは、既設発電所の再稼働、あるいは運転期間が40年を超える発電所の廃炉準備に限定されている。エネルギー安全保障体制確立を急ぐ時にあっては、異常状態にあるといわざるをえない。誰がこの混迷状態を収束して新たな核燃料サイクル開発の制度設計を行うのか、さらに誰が最終的な責任をとることになるのか。

記事全文(PDF)