核燃料サイクル政策のあり方についての提言(最終回)

印刷用ページ

 前回(第9回)では2018年の日米原子力協定の満期、さらに六ヶ所再処理工場の本格運転を控えて、わが国のプルトニウム利用のあり方について米国をはじめ海外諸国の懸念が顕在化しつつあることから、対応方策の考え方を提言した。今回は政策提言の最終回であり、これまで進めてきた核燃料サイクル開発の政策提言を総括する意味で、わが国の原子力開発体制の見直しに資する課題を評価し、見直しの方向性についての提言につなげることとする。

わが国の原子力開発体制を見直すべき時にある

 1F事故後4年経過し、今は過去の原子力開発の歴史的経緯をふまえて、わが国の原子力開発体制全体を見直し、今後の開発目標を如何に定着させていくかを見極める時にあると考える。
 体制見直しの基本的視点の一つは技術開発の流れ(時間軸)である。技術開発の流れと言う点では、過去に経験した貴重な事例として、わが国が米国から最初に導入した軽水型原子力発電所を挙げることができる。米国側は実証済み技術という大々的な売り込み文句を標榜していたが、営業運転開始後になってから予想外の技術課題に遭遇した。電気事業者とプラントメーカーは密接な協調により軽水炉特有の課題を国内だけで解決し、改良標準化設計を仕上げたという技術的対応の流れである。その間十数年を要したが、わが国最初の大規模な原子力施設への取組の過程における技術蓄積と技術・産業基盤構築は貴重な成果を残したといえる。一方サイクル開発のプロセスについても軽水炉技術導入とほぼ同時期にスタートした。東海再処理、高速炉「常陽」が基礎的研究成果を挙げていた1970~80年頃、寸時の時間的間隔をおくことなく、六カ所再処理、もんじゅ両プロジェクトがスタートし、さらに高速実証炉プラント実現への動きも始動していた。当時電気事業者は早期にサイクル実用化達成を期待していた経緯があった。しかし期待通りの成果は得られていない。結果論ではあるが、このような期待は現実的ではなかったといえるのではないか。六カ所再処理、もんじゅの前にわが国の原子力開発全体を見直し、開発目標の再評価、技術・産業基盤の整備、開発体制の再編成などについての基本的議論をする余裕を持つべきであったという印象が強い。何れにしても現時点は、過去の経緯をふまえてわが国の原子力開発体制の抜本的見直しを図るべき時にある。その際発電技術と核燃料サイクル技術開発を一貫した流れに乗せることが基本的条件であり、下記のような諸点について明確な条件付けを行う必要がある。

技術開発の目標とそこに到る確たる筋道の見極め
着実な前進基調を維持しうる合理的・効率的計画の策定、チェックアンドレビューの機能
計画実行を支える技術・産業基盤の整備(官から民への技術移転、技術ノウハウの継承)
開発体制のあり方と官民役割分担

具体的な発体制の見直しにあたっては、下記2点に対する検討が必要と考える。

(1)
サイクル関連の開発プロセスは、基礎的研究成果を踏まえて関連するシステムを構成する個別項目についての実証的研究開発、さらに実用化前の総括的な原型規模の研究開発(東海再処理、もんじゅが相当)を経て、最終的に実用化につなぐ開発活動の流れである。1F事故以前には既にサイクル開発は混迷状態に陥っていたのが現実であり(六ヶ所再処理、もんじゅの大幅な工程遅延)、その事実認識は1F事故発生後に顕在化し、わが国の原子力開発体制の脆弱さを露呈することとなった。歴史的過程の中では、発電とサイクル開発の整合性の不備、さらに国の研究機関によるサイクル研究開発のあり方などに混迷の主たる原因があると考えられる。当初は研究開発の段階と民間による実用化開発の間の区切りにおいて、民間側は対価を払って国の智財を受け取るという形式的な技術移転プロセス(技術移転)を想定していた。しかしこの開発の流れは連続性が強く、開発過程の途中で区切りをつけられるものではないことを実証した。六ヶ所再処理は既に実用化技術段階の位置づけにある。一方技術開発の流れという点では、今後の高速炉サイクル開発の工程が重要である。実用化までには数十年を要するが、開発の流れを本来あるべき形に定着化させる始点はあくまでももんじゅである。

(2)
適切なSNF処理・処分は国内外の原子力平和利用にとって宿命的課題であり、未だこの問題解決を達成した国はない。しかし近い将来処分方法は国際的に標準化され、サイクル事業は国際市場で展開されることが期待される。わが国もこの方向での事業展開に主体的に取り組むべき立場にある。しかし先ずは現状のサイクル開発混迷状態を収束させることが基本的要求である。サイクル開発の本流を構築し、その後数十年に亘る長期の開発期間中は、一貫した前進基調の開発プロセスを維持することを目標としなければならない。国内の開発活動を統一化し、SNF処分を安定した事業として成立させる必要がある。このことは最早電気事業者など国内企業が単独で実施できる範囲を大きく超えている。国の統轄責任の下で推進すべきである。その意味では国がSNF処分事業の実施主体であることになる。将来的には国が国際市場を相手として事業展開を経営することも十分考えられる。その場合事業としての実力を決めるのは、国としての技術・産業基盤にある。1990年代国内の軽水型原子力発電所の建設展開と核燃料サイクル開発が最盛期にある時点では、基盤整備意識はなかったに等しい。しかし2000年代国内需要減退と共に事業者の事業意識も希薄化傾向になった。混迷化した原子力開発環境にあって、再生を図るべきこの時にこそ、技術・産業基盤の重要性を思い知るべき時にある。国は事業経営者の立場に立って、技術・産業基盤の整備を含めた開発事業展開の流れのグランドデザインを示すべきである。

{提言}
 1F事故から4年弱の時間が経過し、今は原子力開発体制全体を見直すべき時にあり、見直しの視点の一つが技術開発の流れ(時間軸)である。わが国のサイクル開発は急ぎ過ぎたという印象があり、現在の開発体制はバラバラで、混迷状態にあるといっても過言ではない。節度ある開発の流れに乗っていなかったのではないか。これからの主たる課題はもんじゅを始点とする高速炉サイクルの開発である。当面の開発目標である「環境負荷をミニマムに抑えるSNFの処分」に向かって展開すべき開発の流れの筋道を確認し、着実な前進基調維持を可能とする開発体制の再編成が必要である。もう1つの開発の流れは国としてのSNF処理事業の構想実現への流れである。将来的には国際標準によるSNF処分方法が設定され、国際市場がオープン化されることが期待される。民間企業が実施できる範囲を超えるものであり、国が事業主体となるべきテーマである。技術開発の進捗に合わせて国の事業主体産業整備を進める上での基本的構造は、技術・産業基盤にある。現在の原子力開発体制の抜本的な見直しにつなぐために、国は今後の高速炉サイクル開発の技術開発の流れを固めるためのグランドデザインを示すべきである。