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中古住宅について考える


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 1980年代の前半、ロンドンに仕事で4年間滞在した。その時に親しくなった人が、明日の日曜日には家の補修を自分でやるので忙しい、と言ったので、「日曜大工とは良い趣味を持っているな」と応じたところ、趣味などというものではなく、家に手を入れることによって自宅の価値を高める目的でやっているのだという。彼が話をしてくれたのは、結婚した時に小さな古い家を買ったが、家族が増えて大きな家に住み替えた時に、元の小さな家は手入れが良かったので買った時の値段よりも高く売れたのだという。そして、今の家も補修によって高く売って、もう少し広い家に移る計画なのだそうだ。素人には無理なところはプロに頼むが、殆ど自分でできるよと言う。
 それで頷けたのは、その前に訪れたDIYの店には、トイレや壁、さらには屋根の素材など、家が一軒作れるほどの構造材が全て揃っていたということだ。家族連れでやってきてそのような素材を調べている人達も多かった。DIYは単なる趣味の延長線上にあるビジネスではないということに、友人の話から気付かされたのだ。日本では、戸建て住宅は20年経つと価値はゼロになって、いわば家の価値は全て土地の価格に吸収されてしまうと聞いていたのと比較して、その大きな差に驚かされた。地震のない国であり、石造りの頑丈な家が多くて基本的に長持ちすることからそのような中古住宅市場が成立しているのだろうと思ったのである。
 ところがいま日本で、中古市場を育成する必要があるということが盛んに言われるようになっている。敗戦後応急的に建てられた住宅が、ほとんどしっかりした住宅に置き換わり、少子高齢化もあって、住宅が不足していた時代が終わったのに対応する社会制度を準備する時代に入っているのだろう。自分が住む団地は造成されてから40年以上経っているが、そこに新しい住人が移ってくる時には、古い住宅はぶっ壊されて、新築されることが多い。解体された住宅の軸組であった木材などがまだ新しいのを見る毎に、社会資源の無駄遣いだなと思うことがしばしばある。中古市場を育てるのなら、英国で聞いたような建物価値の維持が必要だろうと考えていた。
 具体的にどうすれば良いかが分からなかったのだが、つい最近これへの答えを与えてくれそうな報道記事を読む機会があった。近畿日本鉄道が住宅地の若返りに取り組むために、沿線にある3地区2900戸を対象に、老朽住宅のリフォームを促して、新たな住み手を呼び込もうとしているというものだ。対象地区は奈良県生駒市。市とも協定を結び、住民ニーズの調査やPRで協力を得るとのこと。所有者が売却や賃貸する際のリフォーム工事費の3分の一には国の補助(上限100万円)もあるそうだから、このリフォームプロジェクトは良い結果を生むのではないかと思える。
 このリフォームに当たっては、その対象となる住宅のエネルギー消費効率を高くすることを重点施策として入れ込んでほしい。新築住宅には、ゼロエミッションハウスとかエネルギー自給ハウスなどが目玉商品になりつつあるが、そこまで行かないまでも、まず家全体の壁や屋根、床の断熱性能を上げると共に、窓ガラスを単層から複層ガラスに取り換えることをリフォームの基礎に置いてほしいものだ。それにはエネルギー消費を見える化するHEMS(ホームエナジー・マネジメント・システム)を標準装備する。このような方式が評価されて多くの地域で普及すれば、上昇が止まらない家庭部門のエネルギー消費を大きく引き下げる結果を生むことは確実だろうし、中古住宅の評価基準も変わるのではないだろうか。今後の展開を注視したいと思う。

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