水素社会を拓くエネルギー・キャリア(1)
「エネルギー・キャリア」とは?
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター
しかし水素エネルギーを利用する際に、「水素キャリア」から水素を取りだすことなく、そのまま燃焼させ、水素エネルギーを利用するということができれば、それも有力な方法である注6)。また、先にも述べたように、水素を高圧で圧縮、または、冷却して液体にして運ぶという方法もある。こうしたものを「水素キャリア」と呼ぶのもおかしい、ということで「エネルギー・キャリア」という名称が使われるようになった。
こういった背景もあって、「エネルギー・キャリア」は、「水素キャリア」を包含する概念という理解で使われている。なお、SIP「エネルギー・キャリア」では、「エネルギー・キャリア技術」を、「水素の製造・輸送・貯蔵・利用技術(液化水素・有機ハイドライド・アンモニア等へ変換する技術を含む)」と説明している。お気づきのように、ここでは、研究開発の対象となる技術を水素製造、利用技術にまで広げている。これは「エネルギー・キャリア」の社会実装を進めるためには、安価に水素を製造することや、従来の燃料に代えて水素、または、エネルギー・キャリアを燃料として利用するための技術開発を一体となって実施することが重要だからである。
実は、私はこのエネルギー・キャリアに関連する話題について、これまでに5回ほど、このサイトで拙稿を掲載していただいている注7)。それらはいずれも、日本が直面しているエネルギー・環境制約を考えると、原子力エネルギーへの依存を一定程度続けるとしても、将来的には海外から水素エネルギーの形で再生可能エネルギーを大量に導入することが必要という問題意識で書いたものだ。そして、そのためには水素エネルギーを大量に運搬・貯蔵する手段を手にすること、すなわちエネルギー・キャリアの研究開発、導入普及を図ることが重要という主旨のことを述べてきた。
この思いが嵩じたためでもないのだろうが(笑)、私はこの7月からSIP「エネルギー・キャリア」のサブ・プログラム・ディレクターを務めることになった。こうした機会に、エネルギー・キャリアについてこれまでやや虫食い的に書いてきたことをまとめてみたいと思い、国際環境経済研究所の事務局にご相談したところ、お許しをいただいたので、これから何回かに分けてエネルギー・キャリアに関連する問題について、できるだけ問題の全体像が分かる形で書いていきたいと考えている。なお、その過程でこれまでに書いたいくつかの原稿と内容が重複する可能性があるが、その節はどうぞご容赦いただきたい。
なお、今後の連載において記す見解や意見にわたる部分は、SIP「エネルギー・キャリア」のサブ・プログラム・ディレクターという役割とはかかわりのない、個人的なものであることをあらかじめお断りしておきたい。
- 注6)
- 連載の中で追って説明するが、アンモニア(NH3)などがそうした物質の例である。なお、アンモニアは水素キャリアとしても、エネルギー・キャリアとしても利用することが可能である。
- 注7)
- 「2030年に向けたエネルギー政策への期待」 (2012/12/13) (オピニオン)
「海外の太陽、風力エネルギー資源の利用拡大を図ろう(その1)(その2)」(2013/7/16、7/24) (オピニオン)
「水素社会の構築に向けて持つべきスケール感」(2013/11/25) (コラム)
「私たちが目指す『水素社会』とは?」(2014/4/15) (コラム)
「燃料電池自動車の販売開始が拓く道」(2014/7/30) (コラム)