環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その4)
法制化10年経過後の課題①
光成 美紀
株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役
≪土地の利用方法に関わらず一律基準を適用することに伴う経済的負担≫
さらに日本の土壌汚染対策法の根本的な課題として、国際的な規制動向と乖離し、土地利用に関わらず一律基準が適用されていることが挙げられます。
土壌汚染の健康被害は、土地固有の土質、地勢、土地利用、天候、汚染物質の性質、汚染濃度等多数の要因によるものです。また、長期間にわたり、人が直接土壌を摂取したという事例は少なく、特に地下水汚染を伴わない土壌汚染と健康被害の因果関係は、国際的な研究においても明確に解明されていません。
欧州委員会の最新の研究では『リスクを評価するために、土壌の個別環境要因と人的活動を踏まえて、サイト別のアプローチをとる必要がなぜ重要かなのかを理解することが重要』(2013年) としています。サイト別のアプローチとは、土地固有の要素や土地利用方法を考慮した規制を行うアプローチで、日本の一律基準とは異なります。
また、欧州委員会では、『(一律基準の)スクリーニングによるリスク評価は、保守的な見方をするため、通常リスクを過大に見積もる。土壌のタイプや特性、天候、土地利用、人の行動パターンやバックグランド受容などを総合的に判断すると、サイト別のリスク評価は、スクリーニングによるリスク評価の保守的な側面が緩和され、一律の基準よりも緩和された結果となる。この意味は、同じレベルの保護を行おうとする場合、一律のリスク基準よりも、サイト別のリスク評価のほうが緩和基準になることを意味している。』(2007年) と明記しています。
すなわち、日本のような一律の基準は、リスク評価に基づく基準よりも、保守的でリスクを過大に評価しているといえるのです。
こうしたサイト別、あるいは土地の利用方法別に土壌汚染の環境基準を設定する考え方は欧州だけでなく、北米やオセアニア、アジア各国等、多くの国で採用されています。
最も一般的には、住居用の土地と、産業・商業用の土地における土壌汚染基準を分類し、住居用地に比べて産業・商業用地に緩和基準が設定されます。香港のように、日本の都市部と同様に高層住宅が多い地域では、住居用基準にも戸建てと高層住宅を分類している地域もあります。表層が舗装している都市部の高層住宅では、土壌汚染から健康被害が生じることはほとんどないためです。
≪他の環境面等の負荷を考慮した浄化手法≫
軽微な汚染や健康被害の無い自然由来の土壌汚染について、土壌を掘削・搬出し、オフサイトの処理場に処分することは、その運搬に係るエネルギーや工事に伴う騒音、振動等、他の環境配慮を踏まえたライフサイクルでの環境負荷を高めることにもつながります。
アメリカや欧州では、土壌・地下水浄化対策においてもエネルギー消費や温室効果ガス、生態系や地域社会への影響を配慮したサステナブル浄化、グリーン浄化という考え方が推奨されており、その中で掘削除去は最も環境負荷が高い方法であることが多くなっています。
深刻な汚染については、掘削除去が必要な場合もありますが、軽微な汚染に対して掘削除去を多用することは環境全体への配慮の点からも配慮が必要になっていると考えられます。