私たちが目指す「水素社会」とは?
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター
言葉の定義について云々するつもりはないのですが、「水素社会」についてイメージされていることが、最近、人によって大きく異なるような気がしてなりません。
「水素社会」における水素エネルギー利用の代表例のように言われるのは燃料電池でしょう。実際、燃料電池自動車(FCV)は、2015年からの市場投入が始まろうとしています。2025年には200万台との目標が掲げられています。これに向けて4大都市圏中心に100か所の水素ステーションを整備するための取組みが進んでいることは、ニュースなどでご覧になったこともあるでしょう。また、家庭用燃料電池コジェネレーション・システム(エネファーム)についても、2030年で530万台を普及させるとの目標が「日本再興戦略」(2013年6月閣議決定)により掲げられました。
この目標を達成するために必要となる水素量をはじいて見ると、2025年時点では200万台のFCV向けの水素供給に必要となる約20億Nm3ということになります。エネファーム向けの水素は、家庭に供給される都市ガスや天然ガスからエネファームに付属する改質器において作られるので必要ありません。一方、国内にある水素の供給余力は、最大で160億Nm3程度と推定されており注1)、2025~30年においても数字的には十分に足りているように見えます。
つまり、国内の水素を利用して必要な水素量を賄う。このような姿が、イメージされている「水素社会」の一つの姿として存在しているように感じます。こうした社会を構築するために必要となる技術は、既にほぼ実用化の域に達し、水素需給の面でも実現の目処がついているように見えます。そして、このような「水素社会」は、それなりにエネルギー供給源の多様化、エネルギーの効率的利用及び環境負荷の低減等にも資するものではあります。
- 注1)
- 「貯蔵技術が変える水素戦略-課題はコストとCO2回収」、日経エコロジー、2013年10月号、PP 12~13 。