COP19 参戦記①
-日本の新たな温暖化目標に関する評価-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
今年もまた国連気候変動枠組み条約の交渉がスタートした。例年よりも若干早く、11月11日から2週間、ポーランドのワルシャワにおいて開催され、私は後半の1週間位参加すべく、この原稿を彼の地に向かう飛行機の中で書いている。
今回のCOPは、京都議定書第二約束期間が終了する2020年以降の新たな温暖化対策の枠組みについて内容を具体化させ、少しでも前進させることが議題の中心となる。今回のCOP直前、フィリピンを歴史上例のないほどの巨大台風が襲い甚大な被害をもたらした。会期冒頭各国政府交渉団のステートメントが行われ、フィリピン政府代表は、途上国が温暖化による被害拡大を防ぐ適応策(例えば防潮堤の建設など)に使用できるファンドの創設や、2010年のCOP16 でその設立が合意されたGreen Climate Fundに先進国が必要な資金を拠出すること、各国の削減目標が深化すること、などの成果をワルシャワで見るまでは自主的に断食を続けると述べた。台風被害によって食べるものもない故郷の人々や亡くなった方たちの代わりにここにいると涙ながらに訴え、人々を共感の渦に巻き込んだ。
実はその直前に発表されたIPCCの第5次報告書WG1によれば、台風やハリケーンがここ100年の間に巨大化したと断言できるほど科学的な根拠は見いだせていないとされている。しかし、この台風被害は地球温暖化による悲劇であるとの「雰囲気」が既に醸成されていた中で、日本が決定した「2020年までに2005年比3.8%の削減」は国際社会から相当厳しい評価を受けている。電力の9割を火力発電に頼っている日本にとっては、この目標の達成もそう簡単なものではなく、達成のために必要なコスト等をよく検証する必要があるが、民主党政権によって掲げられた「1990年比25%削減」という目標値と比べれば(その目標の実現可能性の低さは当時から指摘されていたが)後退の感が否めず、予想されたことではある。原子力発電の稼働ゼロを前提とした暫定的目標であるとはいえ、日本のエネルギー政策の混迷は海外からなかなか理解を得られる状況にない。
政府は同時に3年間で1兆6000億円という巨額の資金を拠出する方針も発表したが、残念ながら評価する声は全くと言ってよいほど聞こえてきていない。実は日本はこれまでも「鳩山イニシアチブ」というかたちで相当の資金拠出を行っているが、その内訳が明らかでないこと等もあってか、途上国から感謝の声が全く聞かれず、昨年のCOPで日本政府代表が「これでは日本国民に対する説明責任が果たせない」と憤慨を顕にしたステートメントを行っている。(昨年の「COP18参戦記 最終日」を参照ください)国際貢献は当然のことであるが、国民の血税を拠出するからにはそれが正当な評価に結びつく「カードの切り方」が必要だ。
来年9月にNYで開催される予定の各国首脳を集めての「リーダーズサミット」をはじめ、2020年に新たな枠組みを発効させる最終期限とされる2015年までまだ交渉の猶予が残されているため、今回のCOPに対する期待値は正直それほど高くなかった。どういったカードをどのタイミングで切るのか、こうした「何も起こらないであろう」と言われる時ほど、各国の交渉戦術立案能力が試されるのかもしれない。日本政府が今回のCOPで新たな目標値について表明するという判断が、吉と出るか凶と出るか。今週水曜日午前中に行われるという石原環境大臣の演説が会場でどのような反応をもって受け止められるか期待と不安とともにワルシャワに向かっている。