「原発再稼働の申請」と規制のあり方


国際環境経済研究所前所長

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「再稼働の申請」?

 新規制基準の施行に伴って、電力各社から「再稼働の申請」が行われたと報じられた。しかし、実際には「再稼働の申請」という法的手続きはない。今回の手続きは、新規制基準に各原発が適合しているかどうかについて、各社が炉規制法上の設置変更許可・工事計画認可・保安規定認可を求めるものであり、その点は誤解がないようにしたい。というのも、「再稼働の申請」というと、今回再稼働し始める原発が、今後定期検査ごとに再稼働する際にいちいち原子力規制委員会(以下「規制委員会」)の許認可を必要とするかのように誤解されてしまうからだ。新規制基準に新たな知見による変更が加えられなければ、定期検査後の再稼働に際して今回のような手続きは不要なのである。
 新規制基準施行よりも前から動いていた大飯原発3、4号機については「新規制施行前から稼働中のプラント」として、事業者が「新規制基準をどの程度満たしているのか把握するための確認作業を、新規制基準の内容が固まった段階で速やかに開始することとし」(原子力規制委員会年次報告)、問題がないと判断されたことから特例的に運転継続が認められている。
 しかし、そうだとするならば他のプラントでも既に新規制基準施行前に再稼働させておけば、規制委員会による確認作業を経て問題がないと判断されれば、運転継続が認められたのだということになる。すると、大飯原発の審査方法を特例ではなく、他のプラントにも適用できる一般原則にすることがなぜ不可能なのか判然としない。

明確な手続き制定の必要性

 この特例的なプロセスで稼働中のプラントの安全確認はできるということなのだから、今後新たなバックフィット事項が生じても、こうした基準適合審査プロセスを基本とし、設置変更許可などの許認可については不要又は最小限にとどめることが可能だということになる。炉規制法(第43条の3の23)には「基準に適合していないと認めるとき」、規制委員会は「必要な措置を命じることができる」と規定しているのみであり、設置変更許可等の許認可手続きに入る前に、規制委員会が基準に適合しているかどうかの実態を確認することが前提とされているとも言え、大飯原発の例を特例ではなく、基本原則とすることは法的にも可能だということだ。その点を明確にするため、炉規制法を改正し、手続きを正式な政省令委ねた上で、当該政省令を制定することが望ましい。

合理的規制活動とは

 規制委員会は、安全性の確保だけが自分たちの任務であり、電力需給や経済的な問題については関知しないとの立場を取ってきた。しかし、事業者は電力の供給責任という法的義務を満たすべく原発を運転しているのであり、また規制基準の変更があるたびに資金流出を伴う設備投資を行って対応するわけだから、規制委員会は可能な限り体制を整備し、スピード感と合理性を伴った審査を行う努力をすることは行政機関として当然だ。
 「安全性はすべてに優先する」ということと、「だからその他の事情は何も考慮しない」ということとは同義ではない。そもそも行政機関である限り、所管法律の施行に当たっては、許認可事業者(ライセンシー)や国民の負担を最小限にとどめることもその任務の一つだという認識がなければならない。そもそも規制委員会は学会ではないのだ。