ドイツの電力事情⑨ ―供給力維持の「お値段」―


国際環境経済研究所理事・主席研究員


 これらの理由によりドイツでは供給力不足が深刻化。そのため2012年末にはエネルギー事業法第3次改定法を制定注2)(2012年12月28日施行)し、供給力の維持を図ることとした。主要改正点は、以下の3点である。

10MW以上の発電所の事業者は、稼働を停止するときには、12ヶ月以上前のできるだけ早い時期に送電系統運用者及び連邦ネットワーク庁に届け出ることを義務付け。送電系統運用者は、その申し出により、電力供給システムが大きな影響を受けるか否かを審査する。
出力 50MW 以上の発電所については、①の審査で影響が大きいと認められる場合には、送電系統運用者は、連邦ネットワーク庁にこれを証明しなければならない。連邦ネットワーク庁がその証明を承認する場合には、当該発電所の稼働停止は禁じられる。
発電所の稼働停止を禁じられた事業者は、発電所を少なくとも待機状態に維持しなければならないが、送電系統運用者に対して、適切な範囲で補償を請求する権利を有する。

 この「適切な範囲での補償」がいったいいくらなのか、詳細は省令に任されていたが、この運用が非常に困難であることは容易に想像がつく。アルトマイヤー環境大臣も、補償の水準が低ければ発電事業者が政府を提訴することも考えられ、高ければ閉鎖を届け出て予備力としての運用で補償費を得たほうが得策と考える事業者が出る恐れを指摘している。18日付Reutersが報じるところによれば、Irsching5号機(84.6万kW)についてE.ONは年間に1億ユーロ(約130億円)の支払いを求めているといい(4号機については報道なし)、この交渉が妥結すれば、Irsching4号機、5号機は予備力としての運用、すなわち、常時発電できる体制を維持し、電力系統の安定性に支障が生ずる可能性がある場合のみ発電することとなる。
 この予備力調達の補償費用は最終的に消費者が負担せざるを得ず、再生可能エネルギー導入促進に関わる費用の増大による電力料金の高騰に直面するドイツ国民に、また一つ負担の種が加わることとなる。
 振り返って我が国の状況を見るに、現在50基ある原子力発電で動いているのはたった2基、発電の9割を火力に頼っている。ドイツでは17基のうちの9基がまだ稼働していることを考えれば、安定的電源の不足という点では我が国のほうが圧倒的に深刻である。そして、昨年7月の全量固定価格買取制度を導入し、これを契機に、再生可能エネルギーの導入が加速している。その中で先月12日に政府は電力システム改革の推進を柱とする電気事業法の一部を改正する法律案を閣議決定した。再生可能エネルギーの導入が拡大するにしたがって、調整電源としての重要性が高まる火力電源はしかし、自由化された市場においては誰も持ちたがらない「いざというときの設備」、すなわち普段の稼働率は低い設備ともいえる。これをどうやって維持するのか、あるいはそのコスト負担をどうするのか。隣国と送電線の連系がない日本においてはより慎重に制度設計を進めなければならない。悪魔は制度の細部に宿るものだ。

 なお、天然ガスや風力・太陽光といったエネルギー資源に恵まれる米国テキサス州で実は電力不足に陥りつつある構造について、当サイトでも以前紹介させていただいた「風力とシェールガスが電力危機の引き金を引くテキサスのアイロニー」(神戸大学非常勤講師西村陽氏)をぜひ参照いただきたい。

 *この原稿執筆後の4月26日、交渉の妥結が報じられた。同発電所の運営を送電事業者TenneTが引き継ぎ、3年間の運営が確保されたことのことであるが、契約の金額等は明らかにされておらず、「the owners of Irsching would receive a double-digit million euro amount per block per year.」とのみ報じられている。
http://au.news.yahoo.com/world/a/-/world/16898198/e-on-says-reaches-deal-to-keep-irsching-plant-open/

注2) 国立国会図書館 外国の立法(2011年12月)
   http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/pdf/02500006.pdf

<参考資料>
・Reuters 2013.04.18
 http://www.reuters.com/article/2013/04/18/germany-eon-regulator-idUSL5N0D52F320130418
・Reuters 2013.04.26
 http://www.reuters.com/article/2013/04/26/eon-irsching-idUSL6N0DD1MB20130426
・一般財団法人高度情報科学技術研究機構ホームページ 
 http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/14/14050303/01.gif
・国立国会図書館 外国の立法2011年5月  
 http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/pdf/02470209.pdf
・電気新聞 2013.04.11「海外潮流」
・日経ビジネスオンライン
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110516/219996/?P=2

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