断熱の常識を超えた省エネ塗料“ガイナ”とは

環境技術事例&インタビュー


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 これから梅雨を迎え、梅雨を過ぎるとぐっと気温が上がって暑くなります。天候や気温に関係なく、できれば室内で一年中快適に過ごせれば心も体も軽くなりそうですね。そんな思いを実現させてくれるすごい塗料があると聞きつけました。外装に塗っただけで、夏の暑さや冬の寒さ、騒音、臭いなどのストレスを軽減し、快適な住環境を実現してくれ、一度塗れば10年経っても効果が持続するというのです。その名は、“ガイナ“。開発製造を行う日進産業(東京・板橋区蓮根)にさっそく伺いました。

事例紹介

 社内の一室に案内されると、日進産業代表取締役の石子達次郎氏が「ガイナの効果を実感してもらうため目の前で実験して見せましょう」と、ガイナと一般アクリル塗料を塗布した2枚の鉄板を使ったデモンストレーションをしてくれました。屋根にガイナを塗った場合とそうでない場合、夏の日射を想定して、鉄板に100Wの電球を当て、屋根の裏にどれだけ熱が通るか実験します。5分も経たないうちにガイナを塗布した裏面は18℃、一般塗料を塗布した裏面は26℃になり、8℃の差が出ました。「2枚の温度差はこれからもっと広がります」時間の経過とともにガイナの裏面は23.8℃から46℃、50℃に、そして一般塗料の鉄板の裏面は33.7℃、65℃、80℃と上昇し、その温度差は20℃から30℃に広がりました。

 続いて、約100℃に温めたガイナを塗布した鉄板と一般塗料を塗布した鉄板の上に氷を乗せます。一般塗料ではみるみるうちに氷が溶けていきますが、ガイナでは氷が溶け始めたのは約1分が経過した頃に少しだけです。これには驚きました。なぜ氷が溶けないのでしょうか?「それは溶けないメカニズムがあるからです。ガイナは熱の強さはありますが、量はない。ガイナを塗った鉄板を温度計で測って100℃でもエネルギー量が少ないため氷は溶けません。つまり遠赤外線として電磁波が空気中に放射され、ガイナ自身は(エネルギーの)抜け殻なのです」

写真左の鉄板はガイナ、右の鉄板は一般塗料を塗布したもの。氷を乗せて実験

 ガイナが抜け殻の証拠として別の実験をしましょうと、−10℃に冷やした鉄板の片面にガイナ、もう片面に一般塗料を塗布したものを両手で挟んでみました。あれ?右手はひやっとした冷たさが手の平にストレートに伝わってきますが、左手はまったく冷たくありません。

 ガイナを塗布した面に触れても手の平とほぼ同じ温度のまま変わらないことをサーモグラフィが示します。「ガイナは人体に冷たい、熱いといった不快感を与えません。最近、インドからガイナ1コンテナ(500缶入り)の注文があり、一ヶ月も経たないうちに追加で2コンテナの注文が来た。用途は寺院の床に塗るためです。インドの寺院では直射が当たる床は熱くて足の裏を火傷しかねませんが、ガイナを塗るとまったく熱くない。床の表面温度が60度になっても足で踏んだとたんに足と同じ温度になり快適なのです」

 デモンストレーションした部屋の内装と天井には10年前にガイナが塗られ、年間を通して暖房も冷房もほとんど使わずに快適に過ごしてきたそうです。この部屋は社員の喫煙ルームとしても使っていますが、たばこの臭いや黄ばみなどの変色も見られません。ガイナに含まれる特殊セラミックは、熱や光エネルギーを受けると、その遠赤外線放射性能により、遠赤外線を放出します。遠赤外線は室内空気の水分子に作用し、マイナスイオン化します。マイナスイオン化された空気中の水分は、ほこりなどの汚濁物質を無害化し、空気を浄化する働きがあるからです。
 「この他にも結露の発生を抑える効果もあります。またガイナの塗膜面は大量のセラミックで隙間なく覆われているため効率よく音を反射して、制振効果によって音を軽減します」と石子氏は解説しながら、カーテンで閉められていた窓を開けました。電車の線路がすぐ目の前に!実験中に何度も電車が通ったことにまったく気がつかなかった・・。なんとも不思議な塗料、ガイナについてもっと知りたくなりました。

お話を伺った方:
株式会社日進産業 代表取締役 石子達次郎氏

ガイナの特性について

――ガイナの特徴と、従来の塗料との違いは何でしょうか?

石子 達次郎氏(日進産業)
石子:まずひとつ、「省エネ塗料ガイナ」と話がスタートしておりますが、私はガイナを塗料だとは思っておりません。残念ながら世の中になかった発明ですので、従来あるものにあてはめるとなると、やはり塗料という範囲になると思います。私はセラミックを液体化することに成功したのがこの技術だと考えています。それが施工においても仕上がった姿においても人間の肉眼で見ると、全く塗料で施工したものと同じであるのがガイナなのです。

 一般塗料はいわゆる樹脂が固まったものであり、有機物のかたまりです。ガイナはセラミックで無機物のかたまりですので、この点が全く違います。また一般塗料の寿命が短い特性があるのは、有機物なので紫外線や熱などの外的な変化に非常に弱いからです。しかしガイナは無機で耐久性があり、さらに無機にしかできない特殊な結果が表れます。

――ガイナの耐久性は何年でしょうか?

石子:社内、および共同研究で耐久性テストを行ってまいりました。紫外線を強制的に照射し、特殊な加速度的な環境を作った耐久性試験において、30年の耐久性があるという結果が出ています。全くというほど経年劣化をしない結果が出ています。しかし、商品カタログには、開発してからの時間しか正確なことを言えませんので、一般的な塗料の2~3倍と表現しております。ただ10年程度経つと変色が起きるなどの変化はありますが、ガイナそのものが持っている熱に対して反応する性能は30年以上の耐久性があります。

ガイナ開発秘話

――開発の背景について伺います。どういう思いで商品開発されたのでしょうか?

石子:25年前に私は、工場倉庫のオートメーション化といった無人搬送の機械の設計を主にやっておりました。その頃お客様から「工場内が暑くてたまらないので断熱してほしい」と要求があったことがきっかけでガイナを開発しました。その時は工場のグレーの外壁を白のペンキに塗り替え、温度が3度下がりました。でも、「なぜ白くペンキを塗ったら温度が下がったのだろう」と考えたのです。これをきっかけに数年かけてガイナを開発しましたが、実を申しますとまったく売れなかったですね。

――いつから売れるようになったのでしょうか?

石子:開発スタートから10年目くらいです。日本はどこに行っても「実績は?」と聞かれます。これまでになかった技術に対して、自分がリスクを背負ってでも一緒にやろうという人は非常に少ない。実績作りのために無償でやったところは何件かありますが、開発からの数年間はビジネスにもならないような状態が続きました。

 売れなくてもやってきたのには理由があります。二男が昭和最後の年、長女が平成元年に生まれ、このガイナの開発をしたのと同時期です。いつの間にかガイナが我が子のような感覚に変わっていきました。親にしか知らない我が子の能力があるじゃないですか。周りの人は認めてくれなくても、こんな素晴らしい才能があるのだから、いつかは受け入れてもらえるはずだと信じてずっとやってきたわけです。

――途中で諦めようとは思いませんでしたか?

石子:最初の10年間は、売りに行った所では詐欺師が来たような扱いをされました。「建築は伝導率の低いものを厚くすることによってコントロールしている。全世界あらゆる国の政府も認めているから有り得ない」と。「今さら厚みのないものを持って来てどうする、誰もそれで困っていない」、「わが社は建物全部断熱材を使っている、ペンキも塗っていて使い道がない」と相手にしてもらえませんでした。

 10年間一生懸命頑張っても1缶たりとも売れないのは受け入れてもらえないからだとついに諦めて、お客さんやお世話になった方にこの事業を辞めると挨拶回りを始めました。その時に偶然「どうしても断熱材を使えない案件があって、あなたのものを使ってあげる」と注文を受けたのが最初です。

 フランスに本店があるブティックと同じ建築を代官山に作れと依頼を受けた設計士の方でした。その建築は、床から屋根まで見える構造になっていたため、一般の断熱材は使うことができず、ガイナを20缶使ってくれたのです。そうしたら彼が、「世の中におもしろいものがある」と周りの設計士に伝えてくれ、建築の雑誌に小論文も出してくれました。フランス政府公認の建築士の資格を持っている優秀な方でしたので、影響力があったのでしょう。20缶売れた翌年には100缶前後売れました。その次の年は口コミで210缶売れました。その次は450缶売れました。使った人が口コミで広げてくれて、出荷量がどんどん増えていき、今に至ります。

断熱塗料“ガイナ”一斗缶(左)と1ℓパック

――お客様の口コミにはどのような声がありますか?

石子:最初は「音」、次に「温度」について多いです。

――具体的にどういう声でしょうか?

石子:一般住宅を例に取りますと、一般住宅の屋根と壁を塗って、工事中にお客様に問い合わせをすると「周囲の騒音が聞こえない」とおっしゃいます。工事が終わって、ガイナ塗膜が完全に乾燥すると、夏であれば「いやー、涼しくなった」。冬であると「暖房をつけなくてもよくなった」とおっしゃるわけです。実際に去年暖房に使ったエネルギー量の比較をすると、20%削減できていて、皆さん驚かれます。

ガイナの導入コスト

――ガイナのコストについて伺えますか?

石子:1缶あたりの塗布面積は30~35㎡です。相手の材質によって、例えばコンクリート系のものは吸い込んでしまうので30㎡くらいです。金属のように吸い込まないものには35㎡くらい塗れます。

 初期コストとしては、材料費と施工費がかかります。しかし、ガイナを塗ることにより、冷暖房のランニングコストが下がっていきますから、コストは回収できます。今後日本は電気代・燃料費は上がっていくでしょう。ガイナの初期コストは、確実にリターンするスピードが速くなってきます。2010年度の電気代で計算した結果は、一般の住宅では、電気代のリターンでコスト回収に約8年かかりました。あと2年もすると、5年も経たないでペイできるようになると思います。事業用の倉庫やビルなどの大型の物件は大量のエネルギーを使います。こういう所は3~4年程度で投下した資本はペイできると思います。

 燃料費を削減することで、CO2排出量も下げることができます。30年のスパンで考えると、一般塗料では3回施工が入りますが、ガイナは耐久年数が長い。一般塗料より3割程度高いですが、3倍の耐久性があるので、長いスパンで考えるとコスト的なメリットがあります。本当に我が子はいい子に育ったと思っています。

今後の展開

――今後ガイナはどのような分野で応用されていくと期待をされていますか?この技術を応用した新たな商品開発の展望はありますか?

石子:建築分野だけではなくて産業全般に使えると思っています。最近普及が広がっているのは、老人福祉施設です。老人が元気に活発に活動できる手助けにガイナが選ばれています。

 薄膜で熱を止めることができる技術をこのガイナを通じて開発しました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)はH-Ⅱロケットの開発に際して、打ち上げ時の熱から機体などを守るためにロケット先端部に塗布する断熱技術を開発していますが、その宇宙技術を応用したのがガイナです。熱エネルギーを利用するあらゆる分野に有効ですので、ガイナの将来は無限大だと考えています。

――現在どれだけ出荷が出ていているのでしょうか?

石子:塗布している面積でお話した方がわかりやすいでしょう。20缶で屋根と壁を400㎡塗布できますが、今や年間約7万缶の出荷ですので、仮に1缶35㎡として245万㎡です。今年度はさらに50%アップの300万㎡まで拡大する見通しです。最近は世界各地から注文が来ていますので、今後さらに拡がっていくと思います。

【後記】

 塗るだけでさまざまな効果を発揮するガイナ。断熱、保温、遮熱、遮音、防音、空気質改善、防露・・とその効果は省エネ塗料という域をはるかに超えたものです。最近では筑波大学との研究で、ビニルクロス施工とガイナ塗装の空間で、安静時と運動時の代謝の計測を行い、ガイナ塗布空間での運動時の代謝がビニルクロスに比べて約25%上昇することがわかりました。ガイナ塗装の空間の方が下腿皮膚温度や直腸温度が高くなり、発汗量が多くなるためです。10年前までまったく売れなかったガイナが2012年省エネ塗料シェア16%で、3年連続のトップ。それも口コミで広がったガイナの後を、大手塗料メーカーが追随する形で省エネ塗料を開発していきました。中小企業のニッチな技術に、実はすごいものがある。ガイナの可能性は無限と石子社長が話されていましたが、常識を超えたところに意外な優れた発見が生まれるのだと驚きとともに深く感じ入りました。

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