最終話(3の2)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その3)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

印刷用ページ

2.日本の取り組み(1):東アジア低炭素成長パートナーシップ

 これまで本連載において触れたとおり、これは、東アジア首脳会議(East Asia Summit)の枠組みを活用して、温暖化対策の実際的な地域協力を進めていくべきとして日本が提案したものである。
 背景には、世界と日本にとってのこの地域の重要性があげられる。EASメンバー国18カ国は世界の成長センターであるとともに、最大の温室効果ガス排出地域でもある。2009年時点で、18カ国全体のCO2排出は世界全体の排出の約63%を占め、これは1990年時点の約56%から7%ポイント増になっている(図表8-2)。様々な将来予測によれば、2050年には、世界のGDP上位10カ国のうち6カ国がEAS参加国(中国、米国、インド、日本、ロシア、インドネシア)となり、CO2排出における比重も同様になると思われる。今後もGDPとCO2排出の両面で、EAS参加国の存在感は高まるであろう。日本にとっても、政治経済面で結びつきが深いこの地域の重要性は言うまでもない。

図表 8-2 EAS参加国のCO2排出量シェアの推移(1990年~2009年)
出典:外務省資料

 現行の「リオ・京都体制」では、これらの国々は元々排出削減義務を負っていないか(中国、米国、インド、インドネシア、韓国等)、2013年以降は京都議定書の下での排出削減義務を負わない旨表明している(日本、ロシア)国々が大半である。これら主要排出国が入らない将来枠組みはいくら精緻なものであっても世界規模の対策にはつながらない。将来枠組みは、この地域での実質的な温暖化対策、低炭素成長を後押しするものとなるべきである。
 このような問題意識の下、2011年の東アジア首脳会議での日本からの提案を受けて、本年4月に東京で閣僚級対話が開催された。日本の玄葉光一郎外務大臣と、インドネシアのラフマト・ウィトラール大統領特使兼国家気候変動評議会執行議長が共同議長を務め、EAS参加18カ国の閣僚級と、オブザーバー9機関の代表が参加し、活発な議論が行われた。議論の結果まとめられた共同議長サマリーのポイントは以下のとおりである。

 ○各国がそれぞれの低炭素成長戦略を策定,実施することが重要であり,特に発展途上国による低炭素成長に向けた努力を支援するために,地域内で資金,人的,知的資源を動員すべき。
 ○低炭素成長実現の上では,技術の役割が重要。先進国は技術革新を主導し,発展途上国における低炭素技術の発展を促進していく必要がある。また,優れた低炭素技術と製品の普及には,市場の活用も効果的な方法の一つ。
 ○政府,地方自治体,国際機関,大学,研究機関,民間企業,NGOといった様々なステークホルダーが協働することが重要。低炭素成長と適応に関連した知見,経験を共有し,政策形成過程にインプットする,開放的,多層的で柔軟なネットワークとして,「東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム」を構築。

 同会合では、多くの国々から、この東アジア低炭素成長パートナーシップが継続的な取り組みとして発展する事への期待が寄せられた。次回会合は明年、日本とカンボジアの共同議長により開催予定である。将来枠組みを構築する国連交渉を横目で見つつ、このパートナーシップが国連交渉に積極的なインプットを行っていくことが期待される。

 日本は元々この地域で豊富な支援実績を有するが、今後特に注目すべき分野として、都市化(urbanization)の問題への対応があげられる。アジア各国の都市化の傾向は著しい。北京、ジャカルタ、バンコク、ハノイ、プノンペン、ウランバートルなど、過去10数年間に自分自身が幾度か訪れた都市の変わりようを見ても、それは実感できる。昭和30年代~40年代に日本が経験したことが各地で同時並行的に起きているようなものである。電力、交通、建造物、水、廃棄物処理、リサイクル、防災など、都市機能を支えるソフト・ハード両面のインフラを如何に効率的なものにし、スマートシティを構築していくかは、この地域の低炭素成長の実現にとってカギとなるのではないか。日本の官民が連携して、この問題への対応を日本のビジネス・チャンスに変えていくか。これが東アジア低炭素成長パートナーシップの重要な役割になると思われる。

図表 8-3 東アジア低炭素成長パートナーシップのイメージ図
出典:外務省資料
図表 8-4 東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム・イメージ
出典:外務省資料
図表 8-5 東アジアにおける日本の支援実績
出典:外務省資料

3.日本の取り組み(2):アフリカにおける低炭素成長・気候変動に強靱な開発戦略

 地球温暖化対策において、アジアと並ぶ重要地域がアフリカである。
 国際政治における多数の国々を抱えるアフリカの重要性はもとより言うまでもない。アフリカ大陸には54カ国、EU(27カ国)の2倍、EAS(18カ国)の3倍の国々があり、国連交渉における発言力は大きい。しかし、ここでは環境面に直結する点に焦点をあてたい。
 まず、今後40年間で予想される世界の人口増約20億人の半分がアフリカで見込まれるということである。アフリカの人口は、現在の約10億人から約20億人に倍増すると見込まれている。現在の世界人口は約70億人から約90億人になる見通しであることから、「世界全体の7人に1人がアフリカ人」から「5人に1人強がアフリカ人」になるわけである。
 次に、この地域の開発ニーズが極めて高いということである。アジアに比べても経済発展段階が低い国々が多いことから、「伸びしろ」がある。保健、水、防災、食料、インフラ整備などあらゆる分野での開発ニーズは高い。過去数十年にアジアで起きた奇跡が、これからの数十年にアフリカで起きる可能性がある。それは基本的には好ましい、後押しすべき流れであろう。
 問題は、人口が倍増し、開発ニーズが満たされ発展するアフリカでは、エネルギー利用の増大とCO2の排出増も起きるということである。開発面で望ましい動きが、環境保全・気候変動対策上も望ましいとは限らない。また、経済規模、CO2排出規模におけるアフリカの比重が未だ小さいからといって将来もそうであるとは限らないのは、中国、インドを含むアジア各国の過去数十年の軌跡をみれば明らかであろう。経済発展と環境保全を如何に調和させるかは今は脆弱国が多数を占めるアフリカにとっても他人事ではないのである。
 かかる問題意識から、日本はアフリカ開発会議(TICAD)プロセスにおいて、低炭素成長・気候変動に強靱な開発戦略を策定していこうという提案を2011年の第3回TICAD閣僚級会合で行った。人間の安全保障の理念に基づき、インフラ整備等による経済発展から、ミレニアム開発目標(MDG)達成など、幅広くアフリカ諸国への支援を行ってきた日本ならではの提案である。アフリカ諸国や世銀、国連開発計画(UNDP)などとの協議を重ね、COP17で戦略骨子を発表、本年5月の第4回TICAD閣僚級会合で中間報告を紹介した。その主なポイントは以下のとおりである。
○アフリカ諸国は,国際社会の支援を活用しつつ,「気候変動に強靱な(climate resilient)」経済成長を目指すとともに,再生可能エネルギー分野を含むグリーン成長により,成長を加速することが重要。
○アフリカでのグリーン成長推進においては、適応と緩和の統合、オーナーシップの強化、官民連携、開発パートナー間の調整の観点が重要。
○エネルギー、農業、森林、水、防災、運輸など個別セクターでの取り組み(グッドプラクティスの紹介など)
○分野横断的課題(キャパビル、資金調達、市場メカニズム活用、広報強化など)

 本年10月の東京での世銀IMF年次総会や、COP18では、このグリーン成長戦略関連のサイドイベントが開催された。明年6月の第5回アフリカ開発会議(TICADV)に向けて、この戦略を完成させていくことになる。COP18でソウルに事務局を置くことが決まった緑の気候基金など、国際支援のリソースがアフリカに流れる際の重要な指針となることが期待される。この戦略づくりを主導する日本としても、環境と開発を両立させた形でのアフリカ支援策を打ち出していく必要がある。

(つづく)

記事全文(PDF)