混迷する英国のエネルギー政策(2)

-連立与党内の対立、そして妥協の成立へ-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 英国のエネルギー政策をめぐる政府部内の対立は、オズボーン財務大臣対デイビー・エネルギー気候変動大臣の対立のみならず、連立与党である保守党対自民党の対立でもあった。9月の内閣改造で保守党からエネルギー担当閣外大臣に就任したジョン・ヘイズ議員が風力に懐疑的な発言を繰り返し、上司であり、自民党出身のデイビー・エネルギー気候変動大臣を激怒させたのは前回紹介した通りだ。業を煮やしたデイビー大臣は、キャメロン首相に対してレターを送り、ヘイズ閣外大臣を異動するか、再生可能エネルギー関連の権限を剥奪するよう求めた。しかし、キャメロン首相はこの要請を拒絶し、連立与党内の対立の根深さを印象付けた。

デイビーエネルギー気候変動大臣 ヘイズ・エネルギー担当閣外大臣

 キャメロン首相は野党党首時代の2006年にWWFのイニシアティブにより北極を訪問し、気候変動問題へのコミットを内外に印象付けた。また政権奪取後は、「これまでで最もグリーンな政府(greenest government ever) になると高らかに宣言した。WWFは数日前の新聞に2006年の北極訪問時のキャメロン首相の写真を掲げた全面広告を出し、「気候変動に冷淡でないことを証明せよ」と迫ったが、2006年当時の英国はバブル経済の真っ只中で、今の混迷する英国経済とは全く様相を異にしていたということを考慮すべきであろう。

2006年、WWFのイニシアティブで北極を訪問した
キャメロン保守党党首(当時)

 この連立与党内の激しい対立は、11月23日にようやく妥協を見た。この間のキャメロン首相、クレッグ副首相、オズボーン蔵相、デイビー・エネルギー気候変動相の間のやり取りは、側近が”It has been awful, just awful” と漏らすほど、激しいものだったようだ。詳細は電力改革法案の中身を見る必要があるが、23日に発表された合意内容は以下の通り。

1)2030年の電力セクターの脱炭素化(decarbonization)目標の設定を2016年以降に延期する(エネルギー法案には2030年目標は書き込まない)。
2)再生可能エネルギーや原子力等の非化石電源に対する間接補助額を現在の23.5億ポンドから2020年までに76.5億ポンドに引き上げる。
3)間欠性の高い再生可能エネルギー導入拡大に対応したバックアップ電源(ガス火力)確保のためのキャパシティ・マーケットを2014年に開始する。
4)12月5日の予算演説と併せ、「ガス火力戦略」を発表する。