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混迷する英国のエネルギー政策(2)

-連立与党内の対立、そして妥協の成立へ-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 自民党のクレッグ副首相やデイビー大臣、環境団体は2030年に電力セクターを脱炭素化する目標をエネルギー法案に書き込むことを強く求めていたが、エネルギーミックスにおけるガスの役割を重視するオズボーン蔵相の強い反対によって、この目標は棚上げされることとなった。「ガス火力戦略」の中にはシェールガス開発への青信号も含まれる見込みだ。他方、間接補助金の拡大については、オズボーン大臣が譲ったことになる。見方によってはオズボーン大臣は、将来のエネルギーミックスについて自由度を残し、デイビー大臣は「脱炭素化目標」という「名」を捨てて「2020年までの補助金確保」という「実」をとったとも解釈できる。

 この合意案に対する反応は様々だ。WWF等の環境団体は電力部門の2030年の脱炭素化目標が棚上げされたことを強く批判している。一方、英国産業連盟(CBI)は「2020年までの間接補助金の枠が決まったことにより、予見可能性が高まり、低炭素電源に対する新規投資が進み、新規雇用が生まれる」とこれを歓迎している。消費者負担の上昇を懸念する声も強い。現在、年間440ポンド程度の家庭部門の平均電力料金負担が80-100ポンド、20%近くに上がることになる。その上、英国は欧州排出取引市場がトン5-7ユーロ程度で低迷している中で、炭素価格にフロアプライスを設け、2013年の16ポンド(約18ユーロ)から2030年には30ポンド(約33ユーロ)に引き上げることにしている。キャパシティメカニズムも通常のフル稼働の化石燃料火力よりも割高になるため、価格インセンティブが必要となる。これらは今回合意された間接補助金と併せて電力料金上昇要因となる。

 ともあれ、ここ数ヶ月、新聞をにぎわせてきた連立与党内のエネルギー政策をめぐる対立がひとまず決着した。ただエネルギー法案の実施段階では色々なハードルが予想される。原子力の購入価格をいくらに設定するのか、新規原発は2018年に運転開始できるのか、原子力の導入や再生可能エネルギー拡大に伴う負担額が間接補助金シーリング内に収まるのか、負担増額に対して消費者がどの程度受忍するのか、バックアップ電源のキャパシティ・マーケットは本当に機能するのか等々。

 英国は電力市場自由化発祥の地であるが、今の英国の電力政策は様々な政府介入の重畳である。1990年代半ば、IEAの国別審査の審査団の一員として英国を訪問した際、「今後のエネルギーミックスはどうなるのか」と聞いた際、「市場が決めることです。政府の預かり知るところではありません」と自信たっぷりに答えていたことが遠い昔のように思い出される。

 英国の悩みはエネルギー安全保障、脱炭素化、過度な国民負担の回避をどうバランスさせるかという、わが国が直面する悩みとも大きく共通するものだ。英国の試みが奏功するのかどうか、引き続き注視が必要だ。

※提携するGlobal Energy Policy Research(GEPR)のコラムに既出。(GEPR版

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