第2回 住友化学株式会社 愛媛工場、別子銅山、サンライズファーム西条


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 今から1世紀も前に公害問題に向き合い、その解決策が事業のスタートとなったことを住友化学株式会社のホームページで知り、どうしても訪れたくなったのが、創業の地である愛媛県新居浜市です。

 同市の別子(べっし)銅山の採掘権を江戸幕府から得た住友総本店は、この地で大きな発展を遂げました。しかしながら、別子銅山の銅鉱石には約40%もの硫黄分が含まれていたため、精錬の際に亜硫酸ガスが排出され、近隣の農作物や森林に深刻な被害を与えてしまったそうです。銅精錬のための木炭にされたこともあって、当時の写真を見ると、まさにはげ山。
 煙害を防ごうと、当時の別子銅山1年間の売上高に相当する費用を投じて精錬所を新居浜沖20kmの無人島に移転するなどしたものの、風による拡散効果で被害はさらに拡大してしまったそうです。
 それでも粘り強く解決策を模索し、ついに亜硫酸ガスを回収し肥料(過燐酸石灰)を製造することに成功。大正2年(1913年)、住友化学の前身である「住友肥料製造所」が誕生したそうです。煙害防止と農家への安価な肥料の提供という一石二鳥の解決策、そして「環境問題の克服」を図りつつ「農業の発展に貢献」するという住友化学の事業理念がここに確立されたのです。当時はげ山だった形跡すら伺うことが難しいほどに豊かな木々に覆われた山からは、先人たちの本気が伝わってくるような気がしました。

【明治23年頃の山根精錬所周辺】 【現在のエントツ山周辺】現在のエントツ山。煙突が見えなくなるほど、うっそうとした緑に覆われており、以前はげ山だったことが想像できないほど。

 別子銅山は、昭和48年(1973年)に閉鉱となり、今はその一部が「マイントピア別子」という観光施設になっています。全山、目にまぶしいほどの青葉で、以前はげ山になっていたことなど想像もつかないほど。そこここに点在する近代産業遺産を見て歩きながら、当時の経営者の言葉を伺うとその先進性と普遍性が強く胸に迫ります。なかでも「別子全山を旧のあおあおとした姿にして、之を大自然にかえさねばならない」と、植林事業に尽力した伊庭貞剛氏の言葉は、今も多くの社員の方が最も誇りにしているそうです。記録の残る限りですがこの地での植林は明治21年に始まり、明治30年代には年間200~250万本を植林されたとか。ちなみにここでの植林事業が、現在の住友林業の発祥だそうです!

【旧端出場所水力発電所】別子銅山に電気を供給する目的で明治45年(1912年)に建設された旧端出場水力発電所。それにしても、「はでば」水力発電所って、読めました?!

 新居浜では街の至る所で、住友が地域とともに歩んできた歴史を伺い知ることができます。例えば山根グラウンド。当時の別子銅山の最高責任者である鷲尾勘解治(わしおかげじ)氏の指揮のもと、住友各企業の社員による「作務(さむ)」(奉仕活動)で作られ、今も地域の憩いの場となっています。事業だけでなく、地域が発展することに心を砕き続けた歴代の住友経営者の思いが、地域でしっかりと受け止められていることがわかるのが、愛媛県立新居浜南高校のホームページです。住友とともに発展してきた地域の誇りにあふれていて、読み物として本当に面白いですし、地域振興の原点を見る思いがします。ちなみにこのホームページは、全国コンクールでグランプリも獲得した「本物」。ぜひ一度訪れてみてください。私のつたないレポートより、よほど住友の歴史がお分かり頂けることと思います!

【山根グラウンド】収容人数3万人という大グラウンド。正面の石積みの観客席も、住友社員の皆さんの「作務」でつくられたというからすごい!ゲートボールに興じるお年寄り、ランニングする若者など、地域の憩いとして愛される場所のようです。この奥に大山積神社。 【大山積神社(おおやまづみじんじゃ)】別子銅山労働者の氏神として抗夫たちが入山する際には必ず拝礼したという大山積神社。元禄4年(1691年)の別子銅山開坑直後に建設されたという歴史ある場所です。

 そして現在の住友化学愛媛工場。東京ディズニーランドの4倍の面積があり、肥料からニワトリの飼料、繊維からIT関連製品まで幅広い製品がつくられています。特に今、世界各国から引き合いが強いのがメチオニン。アミノ酸の一種で、鶏や豚の飼料に添加することで、肉の生産性が飛躍的に向上するそうです。その上、家畜の排せつ物に含まれる窒素も低減させられるというから驚きです。日本の公害対策と食料生産向上からスタートした住友化学は今、世界の環境対策と食料問題解決に大きな役割をはたしているんですね。
 大小のパイプでつながった様々な施設・設備が、「創造的ハイブリッドケミストリー」として8つのコア事業を結ばれている図と重なります。普段の生活で意識することはなかなかありませんが、化学製品はいろいろな場面で私たちの生活を支えてくれていることを実感した愛媛工場見学でした。

【事務棟玄関前で】工場の中は、ノウハウが一杯なので、写真は遠慮して事務棟の玄関で。見学用の白衣を貸していただいてご機嫌な私の右隣が愛媛工場総務部の畑山さん、左が環境・安全部の野中さん。野中さんの排水浄化設備に賭ける思いは熱い!危うく帰りの飛行機に乗り遅れるのではないかというほど、丁寧に説明していただきました! 【密閉型排水処理設備】野中さんご自慢の密閉型排水処理設備。「通常の開放式排水処理設備だとどうしてもにおいがでます。でもお父さんの働く工場を見に来た子どもさんに『臭い』といわれたらせつない。会社にわがままを言って導入してもらいました」と語る笑顔は、まさに働くお父さん!
【世界各国に輸出されるメチオニンのプラント】

 最後にご紹介したいのが、住友化学が新たに取り組んでいるのが新居浜市のお隣西条市における「西条農業革新都市」プロジェクト。経団連「未来都市モデルプロジェクト」のひとつで、住友化学や西条市、JA西条も出資して、株式会社サンライズファーム西条を設立、レタスやキャベツ、ネギの生産をされています。
 プロジェクトの内容をご説明して下さったCSR推進室 兼 アグロ事業部の玉置さんは、半分西条市民のようで、西条の湧水が日本の名水100選に選ばれていること、多分その水のおかげで野菜もお米も美味しく育つことなどいろいろ教えてくださいました。
「住友化学が西条の地で農業行うことで、西条の農業に注目が集まれば幸せです。サンライズファーム西条はそのお手伝いがしたいのです。」とおっしゃったセリフは、まさに「自利利他公私一如」という住友理念の表れ。GPSやネットワークカメラを使った効率化や規制緩和によって、日本の農業を再生・発展させようとしておられる住友化学の本気が伝わる、サンライズファーム西条の今後がとても楽しみです!

 採れたてのキャベツを2球もプレゼントしてくれた伊藤さんは、就職して1年で8kg痩せたと言いますが、「お仕事、楽しいですか?」の問いには「もちろん!」と即答でした。頂いたキャベツは今まで食べたどんなキャベツより甘く、太陽の味がしました!

 道後温泉にもいけず、坊ちゃん団子も食べられませんでしたが、住友化学の「環境力」の原動力はその「人間力」であり、それは創業当時の経営者から、今に至るまで脈々と受け継がれていることがわかった、大満足の日帰り旅でした。
 住友化学の皆さん、ありがとうございました!

【キャベツの大将】サンライズファーム西条の伊藤さん。地元の農業高校を卒業しさらに専門学校で勉強を続けていたところで、サンライズファーム西条の社員にスカウトされたとか。ご自慢のキャベツは本当に甘くておいしかったですよ!
【レタス名人の牛丸さんと玉置さん】「主役はここで汗をかいている人達で、僕は黒子ですから」とカメラを避ける玉置さん(右)。サンライズファーム西条の主力商品であるレタス栽培の名人である牛丸さん(左)との出会いが、事業が進み始めた転機だったそうです。
【西条の名水】隣の市から水を汲みに来ていたおじいさん。「ここの水飲んだら、他には変えられん」とのこと。この水で、西条の豊かな農業が支えられているんですね。

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