工藤智司氏・日本基幹産業労働組合事務局長に聞く[後編]

仲間とスクラムを組んでこの難局を闘いたい


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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今回ご登場いただくのは、日本基幹産業労働組合事務局長の工藤智司氏。日本基幹産業労働組合は、主要な基幹産業である金属産業のうち、鉄鋼、造船、非鉄鉱山、航空、宇宙、産業機械、製錬、金属加工などの他、関連業種で働く25万人(748組合)を有する労働組合である。前編に続き、基幹労連の震災直後の対応、今後の環境・エネルギー政策の考え方などについて聞いた。

原子力発電は短期的には必要。中長期的には原子力に依存しない社会を

――今後のエネルギー政策についてどのような見通しをお持ちですか。

工藤智司氏(以下敬称略):再生可能エネルギーは増えるでしょう。脱原発の方向にも動くと思います。しかし、経済効率性を考えてもらいたい。この国から産業がなくなるような事態だけは避けてもらいたい。我々の産業は、自動車産業も電気産業も利益ぎりぎりのところでやっていて、海外に出たほうがビジネスしやすいということになるかもしれません。

工藤智司(くどうさとし)氏。1990年に三菱重工に入社。同社労組長船支部執行委員、労組中央執行委員長を経て、2010年に日本基幹産業労働組合事務局長に就任、現在に至る。

――原子力の機器の製造に携わる組合員の方が多数いらっしゃるかと思いますが、基幹労連として原子力発電所の今の状況についてどう思われますか。

工藤:原子力を造っている、造っていないは別にして、製造業の立場の労働組合の事務局長として言わせていただきますと、短期、中長期でものを考えるべきだと思います。短期的な視点では、やはり原発を動かすべきでしょう。中長期的には、脱原発社会、連合の言っている原子力に依存しない社会を創るべきではないか。これについては、昨年8月時点で事務局長の談話として発信しています。

――具体的にどういうことでしょうか。

工藤:短期的な視点としては安定供給と安定確保が重要だということ。原発事故前は、原子力発電が全体の発電量の33パーセントを占めていて、現段階で電力の安定供給に不可欠な方法だということです。きちっと明確に安全基準を示して稼働すべきだと思います。

 一方で中長期的には、安全確保と安全供給に加えて、環境の話と経済効率性を考えなければいけない。火力発電をどんどん稼働させ、CO2を出していくと地球環境にも問題がある。経済効率性を考えると、電力料金がどんどん高くなっていくと我々もどうやっても太刀打ちできない。ここを考えていかなくてはなりません。

――経済と環境のバランスをとった政策をということですね。

工藤:脱原発であるとか、稼働すべき、稼働すべきでないという視点でなくて、時間軸で考える。短期的には足りないのだから、原子力発電を動かすべきです。中長期的視点に立ったら脱原発、原発依存の社会を脱していくべきだと思います。

――原子力産業に携わる人達も時間の猶予が与えられれば、別の業種に携わることができるかもしれません。

工藤:世界全体で見た時にまだ、原子力は必要だと思います。きちっと制御しながら安全基準を示していきさえすれば、安定供給できる電源だと思います。原子力についてやや感情的になっているところがありますので、そこはクリアしていかなくてはいけませんが、短期的には動かさないと経済がもたないと思います。