震災を機に評価高まる都市ガスの可能性[後編]

安定的な供給体制構築へ求められる国の役割


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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東日本大震災では、地震と津波によりガスや水道、電気の供給が途絶え、大きな影響が出た。この未曾有の震災にガス業界はどのように対応したのか、また、今後のエネルギー政策に業界としてどのように取り組んでいくのかについて、日本ガス協会常務理事の池島賢治氏に話を聞いた。

――温暖化対策で化石燃料から代替エネルギーへのシフトが進んでいましたが、震災以降は化石燃料が再評価されています。天然ガスはどのような優位性があるのでしょうか。

池島:天然ガスの主成分であるメタンの化学式はCH4で、熱量で比較すると二酸化炭素(CO2)の排出が一番少ない化石燃料で、環境対策の観点からも最も優れた化石燃料です。世界的に見ると、シェールガスやコールベッドメタンなど非在来型の天然ガスが利用できるようになり、ガス全体の賦存量(算出しうる潜在的な資源量)が非常に増えています。最近のレポートでは、非在来型を含めて、天然ガスの可採年数は250年と推測されると報告されました。これまで、ざっくり言って、石油の可採年数が30年、天然ガスが60年、石炭が180年といわれていましたが、天然ガスの埋蔵量がそれだけあれば、人類のこれからのエネルギーに対して、ある程度時間が稼げます。現在、LNG(液化天然ガス)の値段が上がっていますが、中長期的に見れば安定した資源として確保できると思います。

――天然ガス価格は、石油のように高騰しないのでしょうか。

池島:これはなんとも言えません。少なくとも最近のIEA(国際エネルギー機関)のレポートでは、中長期的には確実に下がってくるという数字が出ています。ただ、世界のエネルギー需給関係のなかでは下がると思いますが、そのベネフィットを日本が享受できるかは別問題です。私ども、それぞれのエネルギー会社も努力しなければなりませんが、日本の国策としてどうするかということが重要です。

 例えば、同じ天然ガスでも、世界では大部分がパイプラインで輸送されています。LNG利用は主流ではなく全体の約3割にとどまります。日本は、国内から産出されるガスが1~2%で、それ以外はLNGに依存し、他国ともパイプラインがつながっていません。このような状況である限り、調達交渉が厳しいのは事実です。こうした事情を勘案し、国がエネルギーの骨格として資源確保をどう位置付けるかは重要な議論です。もちろんガス業界としての努力も必要で、産出されたガスを買ってくるだけではなく、できるだけ資源開発から参加することで、自分たちのLNGを確保し、価格を引き下げる努力をしています。

――天然ガスを安定的に供給するために、国としても社会インフラの整備に努力してほしいということですね。

池島:ガス業界としての自助努力も必要ですが、国内のインフラ整備、海外とのネットワークなども含めて考えていく必要があると思います。いつまでも「アジア・プレミアム」「ジャパン・プレミアム」と言われる割高な価格でしか交渉できないようではいけない。他に代替措置がなければ、必ずビジネスはそうなります。地勢的に、日本は仕方ない面もありますが、そこを解決するような方法があるのではないかと考えます。

 例えば欧州は、多様な天然ガスソースを確保しています。1970年代に、ブラント首相(旧西ドイツ)の英断でロシアからの天然ガスの導入を開始する一方で、トルコ、バルカン半島からのルートや、モロッコ、チュニジア、アルジェリアというアフリカからのパイプラインも整備するというように、多重系の天然ガスパイプラインネットワークを構築しました。そのうえで、さらにそのネットワークにLNG基地を組み込んだエネルギー・インフラをつくりあげ、セキュリティーを確保しています。このように、長い時間をかけ、大きな構想のなかで、エネルギーがどうあるべきかを考えることが必要だと思います。東アジアは、政治的にはきわめて難しい状況にあると思います。北朝鮮、中国、ロシアなどの隣国との関係など、配慮すべきことも多いですが、そういうことを乗り越えて、真剣に、日本のエネルギーセキュリティを考えなければならない時期に来ているのではないでしょうか。

池島 賢治(いけじま けんじ)
1981年に京都大学大学院工学研究科修士課程(土木工学専攻)修了後、同年大阪ガス入社。都市圏営業部マネジャーを経て、2003年エネルギー事業部計画部長就任。兵庫エネルギー営業部長、エンジニアリング部長を歴任し、2010年6月、執行役員就任とともに現職。