提言 2050年までに30基程度の原発新設が必要だ!
印刷用ページ執筆者:石井正則(取り纏め)・針山日出夫・松永健一
(「エネルギー問題に発言する会 提言 2026年7月11日」より転載)
1.背景と狙い
第7次エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)では2050年カーボンニュートラル実現に向け、原子力を最大限活用する方向に舵が切られたが、発電量は2040年の2割程度とされた。先の原子力小委員会(今年6月5日)に提案された「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)について」によると2040年と50年までの原子力発電量はいずれも2割程度とされているi。
一方、現下の国際情勢(ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・米国とイランの紛争)をみると、国家安全保障にとってエネルギー資源の安定確保と安定供給の重要性が一層高まっている。今般の中東発エネルギー危機から学ぶ我が国にとっての重要な教訓は、
① エネルギー自給率の大幅改善(中長期的に50~60%)
② エネルギー資源調達の多角化/安定化構造の構築
③ 発電セクターに於ける脱炭素安定電源の基盤化(原子力+再エネで60%程度)
である。この観点からも、原子力は脱炭素電源として欠かすことができない安定資源である。世界でも原子力増強の機運が高まっており、資源小国の我が国にとっては、国内に保有している原発で一定規模の電力を安定供給できるものの、エネルギー安全保障のさらなる強靱化のために一層の活用拡大が望まれる。
2.提言 「2050年までに30基程度の新規原発の建設・投入が必要!」
四方海に囲まれ資源調達を海上輸送に依存する我が国の地政学的リスクを考えると、強い経済と国民生活向上のためには国家安全保障機能にすぐれた一定規模の原子力発電が不可欠である。2030年時点で稼働が期待される既設炉33基は2040年代以降急速に運転期間(60年運転期間)を終了し、原子力発電の供給力が大幅に低減する。運転終了炉の代替と新規増強を併せて2050年以降に向け原子力の規模を3割から4割程度とすることが望まれ、このために以下を提言する。
- ◇
- 2050年以降の原子力発電の供給量を総発電量の3~4割とする。
- ◇
- 2050年までに30基程度の新設炉を建設、投入する。(120万kW/基)
- ◇
- 2050年以降も原子力発電の供給量を維持するため、継続的に新設原子力発電炉を補充してゆく。
- ◇
- 原子力の開発・建設には20年程度の長期のリードタイムが必要なので、早期に建設に着手する。
3.今後のエネルギー政策の在り方の検討
1)エネルギー安全保障無くして国政なし
“血の一滴”と言われた石油は第一次世界大戦では勝敗を決する資源であった。第二次世界大戦において我が国が参戦した太平洋戦争の敗因には石油の途絶があったと言われるii。近年のロシア・ウクライナ戦争をみてもエネルギー資源の戦略的重要性は明らかである。本年突発したアメリカ・イスラエルとイランとの紛争では、タンカーのペルシャ湾内閉じこめにより、世界規模のエネルギー供給危機が発生した。エネルギー安全保障の重要性がますます高まっているのが現下の国際情勢であり、国家の総力を結集した強靱なエネルギー安全保障体制の構築が必要である。
2)地政学リスクに強い原子力の最大限活用
資源に恵まれない島国である我が国は、資源供給途絶リスク、近隣諸国の紛争波及リスク(台湾リスクなど)、防衛を米国の傘に依存していることによるリスクなど枚挙にいとまがないリスクを持つ。我が国はこれらの地政学的リスクに常にさらされていることを念頭に、エネルギー安定供給政策では、原子力の最大限活用を念頭に、平時はもとより国家の非常時においても必要量を持続的に供給可能な体制の整備、強化が求められる。
3)脱炭素最優先を脱却しエネルギー安定供給最優先へ舵を!
現在我が国が自国で調達できるエネルギー資源は20%に満たない。発電用については、再生可能エネルギーと原子力のみである。
再エネ、とりわけ太陽光と風力は、日中変動や気象変動、さらには季節変動に対し出力変動を補償する蓄電設備や火力によるバックアップを必要とするが、週をこえるような出力変動に対しては、その導入割合が増加するのに伴い、設備投資の回収が困難で、蓄電池が統合コストを増大させる。変動再エネの割合が4割になった場合には、太陽光発電設備単体のコスト(8.4円/kWh)の1.8倍(15.2円/kWh)になると試算されているiii。
今後データセンターなどによる昼夜一定の電力需要が見込まれているが、再エネで給電する場合は出力制御により太陽光の導入量を増やしながら、系統用蓄電池を併設して昼夜の需要差に対応することが考えられる(図1)ivが、太陽光を主力電源化することには、不安定性や慣性力の観点からも課題が大きい。 一方、化石燃料は日本にとって命綱的役割があり、化石燃料との早期決別は国益に反する。日本は脱炭素最優先の看板を取り払って火力発電を温存し、自国での活用と併せてアジア/アフリカ諸国ヘのエネルギー安定供給に貢献すべきである。
4. 2050年代から21世紀後半における原子力発電の規模
1)2050年以降のエネルギーミックスでは再エネは4割が限界、原子力3~4割が柱
2050年以降については、前述のエネルギー供給途絶リスクに加え、国民経済・国民生活の向上はもとより、AI等の革新技術の更なる深化などにより電力化の進展が見込まれる。増大する電力需要への対応に向けて考慮すべき事項を以下に示す。
- ①
- 安定供給機能に優れた脱炭素電源である原子力発電比率を3~4割に高める。
- ②
- 太陽光、風力はバックアップを必要とする不安定電源なので平時用電源として3割程度、水力も新たな開発は期待できないので今後の需要増を考えると再エネ全体として4割が限界であろう。域内連携線で相互調整が可能な欧州主要国の多くは日射の低い北半球の高緯度地帯であり、電源はそれぞれの事情で様々であるが、原子力発電導入国における発電電力量に占める太陽光と風力の比率は2割~3割程度である。
- ③
- LNG、石炭は調達先の多様化などによる安定的確保と、石油備蓄の補給、拡大により、火力は発電量の3割程度を非常時対応力として確保しておくことによりエネルギー安全保障の柱の一つとすることができよう。
3)2050年以降の原子力発電のありかた
再稼働対象33基、建設中3基、計36基は2030年代から60年の運転期間を終了、急速に供給量が低下する。2050年代以降の原子力発電比率20、30、40%に対する必要発電容量、残存発電容量から算出した新規建設を必要とする発電容量と基数を 表1に示した。表の検討ケースは2050年以降の年間総電力供給量はAIデータの処理などによる電力需要が増加する可能性があるが、ここでは1.2兆kWhのままとし、対応する原発の設備容量は最近の実績を踏まえ設備利用率を85%として算出した。
この結果、2050年に必要となる原発の基数(120万kW/基)は以下のようになる。
① 原子力発電比率を30%とするには約21基程度を追加新設
② 原子力発電比率を40%とするには約35基程度を追加新設
尚、2070年までには再稼働の33基が退役する。また2030年に運転を開始するとした3基は2090年に運転を終了する。これらを踏まえると、2060年に必要となる建設基数は33基(発電比率3割)から46基(発電比率4割)、2070年には37基(発電比率3割)から51基(発電比率4割)が必要となる。2070年までに50基程度の新規建設は、1970年代から2010年代までの40年間に57基を建設した実績を考えると可能な規模と考える(図2)。
原子力の開発・建設には20年程度の長期のリードタイムが必要なので、早期に建設に着手する必要がある。尚、今般の提言では原発新設の目標設定に焦点を当てたが、実現のための方法論等の在り方については今後の提言での検討課題としたい。 以上
参考文献
- i
- 今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)について(原子力小委員会配布資料)、資源エネルギー庁、2026年6月5日
- ii
- 石油技術者たちの太平洋戦争(戦争は石油で始まり石油で終わった、新装解説版)、石井正紀、光人社NF文庫、2025年6月20日
- iii
- 各電源を電力システムに受け入れるコスト(統合コスト)、資源エネルギー庁、令和6年11月29日、3頁の(2021年)検証の振り返り(統合コストの一部を考慮した発電コスト(仮称)
- iv
- 日本における再エネ出力制御実施状況、電気事業連合会、2025年5月16日












