超加工食品UPFと「完全栄養食」:その実態の解明
唐木 英明
東京大学名誉教授
1 新たな食品分類の出現
「超加工食品」(Ultra-Processed Foods、以下UPF)という概念が、公衆衛生の議論になっている。これは、単に食品に含まれる栄養素に着目するのではなく、「加工の性質、範囲、目的」を評価の主軸に据えるというパラダイムシフトだが、なぜこのような新しい分類法が必要とされたのか。
1.1 NOVAシステムの論理的根拠
食事ガイドラインは、長らく「栄養素主義」に基づいていた。これは、食品をたんぱく質、脂肪、糖質、ビタミンといった個々の栄養素の集合体として捉え、健康への影響を評価する要素還元主義的な手法である。しかし、ブラジル・サンパウロ大学のモンテイロ教授は、この手法では説明できないパラドックスに直面した。家庭における砂糖や食用油といった肥満誘発性の原材料の購入量は減少傾向にあるにもかかわらず、肥満や生活習慣病は上昇し続けているのだ。モンテイロ教授は、2011年の論文で、ブラジルの家庭において加工食品の利用度が増していることを明らかにして、「問題は栄養素だけにあるのではなく、食品が工業的に加工される『プロセス』にある」という仮説を発表した。そして、加工の性質、範囲、そして目的により食品を分類する「NOVA分類」を2009年に提唱した。NOVAはポルトガル語で「新しい」を意味する。
1.2 NOVAの4つのグループ
グループ1「未加工食品または最小限の加工食品」:生鮮または冷凍の野菜・果物、米・小麦などの穀物、豆類、生の切り身肉・魚、牛乳、プレーンヨーグルト、ハーブ、スパイス。
グループ2「加工された調理用素材」:グループ1の食品から抽出された物質、あるいは自然界から直接得られる物質で、グループ1の食品を調理し、味付けするために家庭やレストランの厨房で用いられる植物油、バター、ラード、砂糖、塩、はちみつ、でんぷんなど。
グループ3「加工食品」:主にグループ1の食品にグループ2の調理用素材を加えて作られる。加工技術は瓶詰め、缶詰、非アルコール性発酵などで、家庭での調理法に類似しており、グループ1食品の保存性を高め、風味を向上させたもの。例えば、塩水漬けの缶詰野菜、シロップ漬けの果物、塩漬けナッツ、チーズ、燻製肉、焼きたてのパン。
グループ4「超加工食品(UPF)」:単に加工された食品ではなく、複数の要素から構成される「工業的な調合品」で、大きな特徴は、多種多様な添加物を含むことである。また加工の目的は栄養価の向上ではなく、極めて口当たりが良く、利便性が高く、保存期間が長く、そして製造者にとって高い利益を生む製品を創出することである。具体的には、大量生産された包装済みのパンや菓子パン、ポテトチップスなどのスナック菓子、クッキー、ビスケット、ケーキ、キャンディー、チョコレート、加糖飲料、アイスクリーム、マーガリン、朝食用シリアル、インスタントラーメンやスープ、冷凍ピザなどの冷凍調理済み食品、ソーセージ、ハムなどの加工肉製品、そして植物性代替肉製品が含まれる。
2 UPFによる健康被害はあるのか
2024年に英国医師会雑誌に掲載された総説論文は、約1000万人の参加者を含む45件のメタアナリシスを分析し、UPFの摂取が死亡、がん、精神、呼吸器、循環器、消化器、代謝に関連する32の健康パラメータと相関があることを見出した。そしてUPFの多量摂取と心血管疾患関連死亡および2型糖尿病のリスク上昇との間には「説得力のある」エビデンスが、総死亡、心疾患関連死亡、うつ病のリスク上昇との間には「非常に示唆的な」エビデンスが存在すると結論付けた。
これらの知見は、UPFが単一のメカニズムを通じて健康に害を及ぼすのではなく、代謝、循環器、腫瘍、精神といった領域にまたがる、複数の生理システムに同時に悪影響を及ぼしている可能性を示唆している。もしUPFの害が単に糖分の多さに起因するのであれば、関連性は主に2型糖尿病や肥満に集中するはずである。しかし、実際には総死亡率、がん、うつ病といった多岐にわたる疾患との強い関連が示されている。このことは、慢性炎症、腸内細菌叢の乱れ、食欲調節システムの破綻といった、より全身的な影響を及ぼすメカニズムが働いているとされている。
3 示唆されている健康影響のメカニズム
3.1 食品マトリックスの破壊:満腹感とカロリー摂取への影響
UPFの特徴の一つは、食品の物理的構造、すなわち「食品マトリックス」が加工によって破壊・再構築されている点にあり、エネルギー密度が高い一方で、食感が柔らかく、咀嚼の必要性が低くなる。この変化が食べる速度を速める。すると、消化管から脳へ満腹シグナルが伝達されて、満腹を感じる前に、必要以上のカロリーを摂取してしまうのだ。米国国立衛生研究所NIHの試験では、UPFを摂取した参加者は、未加工食を摂取した参加者よりも食べる速度が速く、平均508キロカロリーも多く摂取して体重が増加した。この差は栄養成分ではなく、食品の構造と加工の度合いによると結論付けられる。
3.2 おいしさ、報酬系、そして「嗜癖的」消費
UPFは、脂肪、糖分、塩分、そして人工香料などを組み合わせることで、人間の味覚に強い快感を与えるおいしい製品である。この強烈な感覚刺激は満腹感のシグナルを無効化し、過剰な食欲を掻き立てる。さらに、特に強い甘みは、脳内のドーパミン作動性の報酬経路を活性化させ、食品の摂取を適度に抑えることが困難になるとされる。
3.3 添加物の役割と腸内細菌叢
UPFは多種多様な添加物を含んでいる。これらの添加物は、個別に安全性が評価されているものの、日常的に多種類を組み合わせて長期間摂取した場合の「カクテル効果」や、腸内環境への影響が懸念されている。近年の試験管内試験により、特定の添加物、特に乳化剤や一部の人工甘味料が、腸内細菌叢のバランスと多様性を乱す可能性が示されている。これらの物質は、有益な細菌を減少させ、炎症を誘発する細菌を増加させることで、腸のバリア機能を弱める可能性がある。
腸のバリア機能が損なわれると、通常は腸内に留まるべき細菌の成分が血流に侵入する「リーキーガット症候群」が起こる。これが引き金となり、慢性的な微弱な全身性炎症が引き起こされ、心血管疾患、2型糖尿病、さらには腸脳相関を介したうつ病や不安障害といった、多くの非感染性疾患が起こると考えられる。ただし、この説については後で検証する。
4 UPFへの疑問と批判
4.1 NOVA分類の曖昧さと主観性
最も根源的なUPF批判は、その定義が科学的に厳密でないという点にあり、とくに「高い収益性」「極めて嗜好性が高い」といった客観的に測定不可能な主観的用語に依存しているという批判がある。全ての食品を明確に分類するための測定可能な項目が存在しないため、分類にばらつきが生じるのだ。
この分類法が、多国籍あるいは大規模食品企業に対するイデオロギー的な偏見に根ざしているという批判もある。特に、加工の「目的」に「利益のため」という項目を含めることは、科学的分類に非科学的な価値判断を持ち込むものと見なされている。さらに、この議論の複雑化には、UPFという概念が「人工的」「不自然」な食品への反対運動と結びつきやすいという側面がある。オーガニック食品の推奨、農薬や添加物への批判といった特定の価値観を持つグループにとって、UPFは自分たちの主張を補強し、広めるための有用なツールになっている。その結果、本来であれば科学的根拠に基づくべき議論が、自然か不自然か、伝統的か工業的かといった、よりイデオロギー的で二元論的な対立に陥る。このような主義主張の混在が混乱を招き、UPF問題の本質を見えにくくしている。
4.2 プロセスか栄養素か
UPFは、単に脂肪、糖分、塩分が多く、食物繊維が少ない、質の悪い食事パターンの「代理指標」に過ぎない可能性が高い。健康への悪影響は、この劣悪な栄養プロファイルによって引き起こされているのではないかと批判されている。これへの反論は、食事の栄養的な質を調整した後でも、UPFの健康影響が見られることである。この対立への回答は、食品マトリックスの破壊による食べやすさとおいしさの向上による過食であろう。要するに、食べやすく、おいしい食品が悪いということになる。
残る議論は、添加物による腸内細菌叢の変化という仮説である。しかし、添加物は多くの研究によりその安全性が確立している。具体的には、化学物質が細胞受容体に結合するための「いき値」をはるかに下回る微量しか添加が許容されていないのだが、そのような微量を摂取した時に、腸内細菌叢に変化が起こるという仮説の科学的な証明はない。腸内細菌叢に最も重大な影響を与えるのが抗生物質であり、アルコール摂取や日常の食事もまた大きな影響をもたらすことが明らかになっている。これらの影響を無視して添加物の影響を強調することは、科学的な態度ではない。
化学物質のカクテル効果という説もまた、用量作用関係の原則を無視している。「グループ1」には植物の種子、果実、葉、茎、根などが含まれるが、それらのすべてが多数の天然の化学物質を含んでいる。添加物や残留農薬の摂取量は、天然の化学物質の摂取量の1万分の1に過ぎないという調査結果もある。カクテル効果が起こるのであれば、それは天然の化学物質ですでに起こっているはずだが、そのような現象が観察されない。天然化学物質よりはるかに少ない量の添加物がカクテル効果を起こすはずはなく、UPFの有害性の責任を添加物に負わせようとする説は、薬理学・毒性学的な観点からは、成立し得ない。
4.3 「健康的なUPF」のパラドックス:加工と栄養の衝突
NOVA分類の限界が、栄養価が高く健康に有益となる食品までもがUPFと分類されてしまう問題である。全粒粉を使用した包装済みパン、カルシウムやビタミンで強化された朝食用シリアルや豆乳など、豆腐、一部のヨーグルトなどが、その典型例として挙げられる。このような分類は消費者に混乱をもたらし、栄養価の高い食品を不必要に避ける行動につながりかねない。
「健康なUPF」というパラドックスを極限まで突き詰めた製品が、近年登場した「最適化栄養食」あるいは「完全栄養食」と呼ばれる食品である。その代表例である日清食品の「完全メシ」は、即席カレー飯やカップ麺など、典型的なUPFでありながら、「日本人の食事摂取基準」が定める33種類の栄養素を過不足なく充足するように設計されている。その市場規模は2024年時点で約144億円、2030年には500億円を超えると予測されており、その普及の背景には、過食による肥満と並んで、多忙や偏食に起因する「隠れ栄養失調」、そして高齢者のフレイルという、現代日本に特有の栄養問題がある。
この食品を「優良な食品」と見る論拠は明快である。それは、UPF批判者が問題視してきた「高脂肪・高糖・高食塩・低食物繊維」とは正反対であり、きちんとした食事をとる時間のない人々の現実的な選択肢として、より劣る食品を置き換えることで、栄養学的に望ましい変化をもたらすことである。
他方、これを「UPFの極致」と見ることもできる。決定的なのは、NOVA分類の提唱者モンテイロ自身が、ビタミンやミネラルによる強化はUPFを「健全な食品」に変えるものではないと明言している点である。これに従えば、栄養設計がいかに精緻であろうと、最適化栄養食はUPFの最も先鋭な形態ということになる。
重要なのは、この製品が「プロセスか、栄養素か」という対立を検証するうえで、格好の試金石になるという点である。もし加工というプロセスそれ自体が有害なのであれば、栄養学的に完璧なUPFですら健康を害するはずである。しかし、その結論はすでに退けた論点に帰着する。一つは、添加物が腸内細菌叢を介して害をなすという仮説であり、これは成立し得ない。もう一つは、食品マトリックスの破壊による受動的過剰摂取だが、すると最適化栄養食の問題点は「おいしすぎて、食べ過ぎになる」のかという点に集約される。
結局のところ、最適化栄養食は、「優良な食品か、UPFの極致か」という二者択一そのものが誤った問いであることを示している。それは、減塩・減糖という製品改良の論理的到達点であると同時に、加工度という一次元の物差しだけで食品の良し悪しを裁断しようとするNOVA分類の限界を、最も鮮やかに可視化する存在なのである。
5 世界的な対応
UPFに関する科学的エビデンスの蓄積は、世界中の政府や国際保健機関に行動を促している。特に、UPFの消費が急速に拡大したラテンアメリカでは、その健康への影響を抑制するための政策が導入されている。
5.1 ラテンアメリカの規制
肥満率が急上昇したラテンアメリカ諸国は、UPF規制の最前線となっている。ブラジルは2014年、UPFを避けるよう勧告する食事ガイドラインを発表した。チリは2016年、砂糖、塩分、飽和脂肪、またはカロリーが過剰に含まれる製品に対し、黒い八角形の「ストップサイン」型の、パッケージ前面警告表示を義務付けた。この視覚的に分かりやすいモデルは、メキシコ、ペルー、アルゼンチンなど多くの国で採用または法制化されている。メキシコは2014年に加糖飲料と高カロリーの非必須食品に対する税を導入。さらに、コロンビアは最近、世界で初めてUPFそのものを対象とした広範な税を導入した。
ただし、これらの政策は「加工度」を問題にしているのではなく、糖分と脂肪分と塩分の過剰の問題であるという考え方に基づくものであり、ましてや添加物の規制ではないことから、「UPFの規制」とは言えないことは注意すべきである。
5.2 米国と欧州の動向
米国食品医薬品局(FDA)と米国農務省(USDA)は、統一されたUPFの定義を確立する動きを始めた。これは、将来的な規制や表示義務化に向けた重要な第一歩と見なされている。
欧州では、ニュートリスコアのような栄養プロファイリングシステムが主流であるが、フランスなどの国の機関もUPFの評価を実施しており、公式な関心が高まっている。
5.3 世界保健機関(WHO)の動き
WHOはUPFがもたらす公衆衛生上の脅威を重視し、2025年5月には「超加工食品の消費に関するWHOガイドライン」を策定するための専門家を公募すると発表した。これはUPFという概念が世界的な公衆衛生の課題になることを意味するのだが、その際、添加物の取り扱いをどうするのかが注目される。
おわりに
UPFは、単なる食品の一カテゴリーではなく、現代の食料システム、食生活、そして健康をめぐる複雑な問題を象徴する概念である。食品加工技術の発展は、おいしく、食べやすく、栄養が十分で、日持ちをし、安価な加工食品の全盛時代をもたらした。ところが、そのような加工技術が過食、肥満、そして生活習慣病につながるというのが、UPF問題の最も大きな問題提起といえる。
こうした中、日本ではUPF問題に対する一つの賢明な解決策が広がりつつある。消費者の健康志向の高まりを受け、食品業界では「甘味控えめ」「塩分控えめ」「糖質カット」などを謳った製品改良が活発化している。このアプローチは、UPFを否定するのではなく、その利便性や手頃さといった現代社会のニーズに応える側面を維持しつつ、栄養プロファイルを改善することで健康への悪影響を低減しようとする、現実的かつ漸進的な解決策と言えるだろう。その究極の形が「最適化栄養食」である。それは「UPFの極致」と映るが、栄養プロファイルと食行動という実質に即して見れば、製品改良の一つの到達点と評価しうる。問われるべきは加工度というラベルではなく、その食品が実際に何をもたらすかである。最適化栄養食の登場は、UPFという概念を加工度の一元論から解き放ち、栄養と食行動という二つの軸で論じ直すことの必要性を、私たちに突きつけているのである。












