原子力発電


元東京電力副社長

印刷用ページ

 一昨年、昨年と夏は記録的な暑さだった。
 気象庁はこの2年続きの酷暑について、
 「地球温暖化や春まで続いたエルニーニョ現象の影響で地球の大気全体の気温がかなり高くなっていることに加え~~」と言っている。
 “地球温暖化”を酷暑の原因の第一に挙げているのだ。
 一昨年だが、国際エネルギー機関:IEAのファテイ・ビロル事務局長は英国の有力経済紙に寄稿して、2023年夏の暑さについて、
 「我々は“化石燃料利用時代の終わりの始まり=The beginning of the end of the fossil fuel eraにいる」(2023年9月12日)と言っている。
 地球温暖化の原因が“化石燃料利用”にあると言っている。
 地球温暖化の進み過ぎは空気中のCO2濃度の高まりによる。
 空気中のCO2濃度が濃くなると地球温室効果が高まる。
 このことは日本の気象学者:眞鍋淑郎博士が分析・解明されていて、博士はこの研究でノーベル物理学賞を2021年に受賞された。
 人間は産業革命以降、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を大量に利用して豊かになってきた。化石燃料利用は地球温暖化ガスCO2の排出をともなう。
 人間はCO2を長い間大量に排出し続けて来て豊かになってきたわけで、空気中のCO2濃度の高まりによって生じていることは豊かさのコストと言える。

巨額な経済損失

 ところで、気候変動は巨額な経済的損失をもたらしている。その額は2050年までに年間38兆ドルに及ぶという。
 これはドイツのポツダム気候影響研究所が昨年4月17日に公表した推計額だ(ロイター通信)。日本のGDPが4.23兆ドル(2023年、総理府)だから、気候変動の影響による損失額は巨額だ。

減らない電力需要

 話は変るが、日本では少子高齢化が進んでいるので、電力需要は減り、電源の増強は要らないだろうと思っていた。しかし現実は違っていた。電力需要は減らない見通しだ 。背景は、現在一人一台と言ってもよいほどに普及しているスマホにある。スマホとPCでの生成AIの利用増によりAIを支えるデーター・センターの電力需要が堅調なのだ。
 目を世界に転ずるとアフリカ、中南米、アジアなどの発展途上地域では、まだまだ電力を必要としていて、需要は減るどころか、増加傾向にある。当然、電力供給力の増強が欠かせない。
 要は21世紀のこれからも電力供給力は増やさなくてはいけない。
 それも、地球温暖化を抑制しながら進めなくてはいけない。

頼りは原子力発電

 こうなると、新規の発電源としては、地球温暖化ガス:CO2を出さない電源が必要になる。
 水力発電は勿論、太陽光発電や風力発電など自然エネルギー発電は発電段階でCO2を出さない。日本では、水力発電は開発され尽くしている。太陽光や風力は、ほとんどが小型、分散型なので設置場所や発生した電気の輸送などを的確に行うのは現実的には難しい。
 頼りは原子力発電ということになろう。
 ただ、日本では、2011年3月の東日本大震災の際の巨大津波によって引き起こされた福島原子力事故の傷跡が10年以上経過した今も大きい。それだけに、関係者は福島事故を始めとして、これまでのトラブルに学び、安全性に万全を期してもらわなくてはならない。
 何事にも光と影がある。
 原子力技術も同様で、その影は小さくない。
 何とか、人間の叡智と経験を踏まえて、この技術に謙虚に接し、技術の長所を的確に生かしてもらいたいと期待する。