進展する米国における小型モジュール炉に関する議論


環境政策アナリスト

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 3月14日から17日にかけて米国メリーランド州においてハイブリッド形式で原子力規制庁による会議Regulatory Information Conference(NRC規制情報コンファランス)が開かれた。新型炉あるいは小型モジュール炉開発に関するさまざまな論点が議論されたので、関連する情勢を含め紹介したい。

NRC規制情報コンファランス

 ハンソンNRC委員長(民主党系任期2024年まで):ハンソン委員長はその任期における主な目標として、事故耐性燃料、特に高純度低濃縮ウラン開発の前進や最初の新型炉のライセンス発給を挙げた。他の多くの新型炉についてはNRCのルールメーキングは道半ばであるが、パブリックコメントにまで加速化したいと述べている。

 バラン委員(民主党系任期2023年まで):インフレ抑制法の資金を利用して気候変動に対応するため新型炉、特に小型モジュール炉や高純度低濃縮ウランなどの技術に対しNRCは開かれてなければならないことを強調。また、特にフッ化物塩冷却高温炉のケイロス社のヘルメスの試験炉へのルールメーキング更新についても言及。

 ライト委員(共和党系任期2025年まで):国際的エネルギーセキュリティーの観点から他国へのNRCの支援について言及。具体的にはルーマニア、ポーランドがそれぞれニュースケールおよびウェスティングハウス製炉を導入しようとしており、ロシアのウクライナ侵攻が米国の国際的役割の重要性を再確認させていると述べた。また、カナダ原子力安全委員会との間でテレストリアル、X-エナジー、GE日立ニュークリアエナジー各社の新型炉などの技術的レビューを共同で行うことに合意したことを成果として挙げた。

 OECD原子力機関マグウッド事務局長:新型炉による原子力発電を成功裡に開始するためには燃料へのアクセスが重要であるとして、高純度低濃縮ウランの必要について言及した。また小型モジュール炉開発のためにサプライチェーンの安全保障上の措置を最重要課題として掲げた。小型モジュール炉の規制については、炉型ごとに国際的に適正なフレームワークを策定するべきであること、さらに信頼できるパートナーを政府においても産業においても確保することが重要であることを強調した。

 クロウェル委員(民主党系任期2027年まで)が議長となった産業界参加者によるパネルでは、テネシーバレーオーソリティー(TVA)のレイモンド・シール氏が同社クリンチリバーバレープロジェクトにおける脱炭素目標のための新型炉のライセンス申請の現状を説明をした。現在TVAはGE日立ニュークリアエナジー社のBWRX-300という小型モジュール炉の導入を検討しており、最終的な立地評価の準備中であり、2050年を目指したサプライチェーンおよび人員確保の計画を述べた。
 これら新型炉の開発についてNRCがその支援のため時間を費やしていることに一定の批判もあるが、ハンソン委員長はいまルールメーキングのプロセスのまっただなかにあり、NRCが関係者との対話を進めていることを強調した。ただし、そのためにNRCは一層の人員と予算を必要とするが、予算規模について内部の共和党系委員との意見の不一致もあって2024年度の予算審議に影響が出そうだ。

小型モジュール炉に関するレポート

 ワシントンに本拠を置くバイパルティザン・ポリシー・センター(BPC)が小型モジュール炉の将来に関するレポート「新型炉は石炭地域をリパワーできるか」を上記NRCの会議の直後に発表した。そこでは2029年には米国では約四分の一の石炭火力発電が寿命に達し、廃止されるが、石炭火力の電気設備や他のコンポーネントを使い、既存の送電線に接続させて小型モジュール炉を活用することができる、そしてそれによって建設コストも17%から35%削減できるという趣旨が述べられている。本レポートによれば今後廃止される石炭火力の80%はリパワーされうる基本的な要件を備えている。本レポートではもちろん脱炭素のための再生可能エネルギーの重要性は認めるものの、ディパッチャブルな電源という観点から、再生可能エネルギーの変動性は信頼度が維持される電源の建設によって埋め合わせられるべきであると主張されている。また小型モジュール炉は、出力レベルを廃止される石炭火力のそれに合わせることができる点を挙げている。
 さらに廃止される石炭火力のサイトに残る労働力の77%をライセンスに必要な労働力へと移行することもできると述べている。また小型モジュール炉は廃止される石炭火力の既存の送電線インフラ、電気機器、タービン/サービス建屋などを利用することにより小型モジュール炉の建設費を17~35%の削減できるとの試算を示している。
 いずれにしても現政権が掲げる2050年脱炭素目標のためにはコールトゥニュークリアが肝要であると原子力推進側は語る。一方、小型モジュール炉反対派は、建設費の想定額の超過および建設の遅延の可能性の問題点を指摘する。また新型炉特定財源はそのまま再生可能エネルギー用の財源に回したほうがいいと主張する。
 バイパルティザン・ポリシー・センターは、NRCのライセンスの遅れ、揺籃期技術の不確実性、石炭火力から原子力への人材の転用には再訓練が必要であり、簡単ではないことが課題であるとも言及している。

 ここに触れられているように、さまざまな課題が指摘されながら、また久しぶりのNRCの対面を含む会議において小型モジュラー炉に注目が集まったことも、ニュースケール小型モジュール炉の設計認証が今年1月NRCによって発給されたことにより、小型モジュール炉に勢いがついたことを示しているようだ。

出典:
国際技術貿易アソシエイツ
3月27日付ユーティリティーダイブ