北海道札幌G7 環境・エネルギー大臣会合
― 驚きの化石燃料利用廃止 ―
桝本 晃章
国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長
4月15,16日の両日、北海道札幌で、G7環境・エネルギー大臣会合が開かれ、共同声明:コミュニケが出された。
2050年までに化石燃料生産廃止
この宣言の大きな特徴の一つは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻という背景もあり、現在のエネルギー情勢を“エネルギー危機”と位置付けたことだろう。
一方、これまでの石油石炭に加えて天然ガスの利用について、2050年までに対策が取られていない限り段階的に廃止とするとした。宣言文の表現は次の通りだ。
我々は、2050年までに化石燃料の掘削・生産工程全体でネット・ゼロ排出を達成するというG7のコミットメントを再確認する。
一部メデイアが“天然ガスも段階的に廃止の対象”と伝えたところだ。
脱原発国以外5か国で原子力発電を書く…原子力発電を評価
また、原子力発電については、脱原発国:ドイツとイタリアを除いた原子力開発を進める5か国(米加日英仏)が書いた。
宣言では、原子力発電の特徴を次のとおりの言葉で説明している。
化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候危機に対処し、ベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギー安全保障確保する原子力エネルギーの潜在力を認識する。
加えて、宣言では安全面の特徴についても強調されている。
福島の汚染土壌や処理水にも触れる
また、事故を起こした福島原子力の廃炉作業、汚染土壌の扱いや処理水の放出についても触れている。これらについては、IAEAのコミット・主導性を評価して記述されている。
事故を起こした福島原子力の処理水の放出に懸念を表明する国々もあることなので、宣言文では、“オープンで透明性をもって、国際社会と緊密なコミュニケーションを”取り続けるよう慫慂している。当然ではなかろうか。
驚きの化石燃料段階的廃止
冒頭に触れた、宣言にかかれた化石燃料の段階的廃止について考えてみたい。
この点は、米加英日のみならず、脱原発のドイツとイタリアにとっても大変なことだろう。
まず、ドイツとイタリア脱原発両国を見ると、現在両国は天然ガスに大きく依存している。ドイツは、ロシアからの天然ガスを他地域からのガス(LNG)に切り替えるため大西洋側にLNG浮き気化装置を建設したばかりだ。イタリアは、南に位置するアルジェリアから天然ガスを輸入している。そんな状況なのに、2050年までにとはいえ、石油・石炭に加えて天然ガスの利用も止めようというのだ。
ヨーロッパ諸国には、大西洋の“貿易風”が
ただ、忘れてはいけないことがある。
それは、大西洋に吹く貿易風だ。
この風は15,16世紀に大航海時代を開いた風である。コロンブス、バスコダ・ガマやマゼランも恩恵を被った。
この貿易風が今では風力発電の羽根を回している。あるいはヨーロッパ勢は、この風に改めて頼ろうというのかもしれない。
化石燃料にどっぷり依存する米加日
一方、アメリカ、カナダ、そして日本をみると、言うまでもないのだが、石油・石炭・天然ガスへの依存が極めて大きい。現在、アメリカはエネルギー総供給の81%、カナダは64%、日本に至っては、87%を化石燃料に頼っている(BP統計)。
“漸減的に”かつ“対策が取られていない限り”とはいえ、この化石燃料の使用をやめるというのだから、驚くしかない。
ところで、これほど熱心に排出削減に取り組むG7だが、世界全体でのCO2排出量は一向に減らず増え続けている。その状況をこれまたBP統計で見てみる。
G7諸国合計のエネルギー起源CO2排出量は、年間22~23億トンで、世界全体の排出量338.8億トンの22~23%である。
排出量が増え続ける中印など途上国
一方、世界最大人口国のインドの年間排出量は7.5~8億トン。人口世界第二の中国は、31億トン強で、両国合わせると38~39億トン。世界の40%弱を占める。
この中印二大大国のCO2排出量は、おそらくこれからも増え続けると思われる。ついでに見れば、非OECD諸国の排出量は、226億トンと、世界総排出量の66~67%を占めていて、この排出量は中印がけん引して、これからも増え続けよう。
G7諸国が懸命にGHG排出削減に取り組もうとしているわけだが、地球全体の排出量の増えるのを少しでも抑制しようと考えるのであれば、現実的には、G7諸国で排出削減に要する資金などの諸資源を中印など非OECD諸国の排出増加抑制のために活用するほうが、はるかに効果があるに違いない。
何といっても、大気中に国境はなく世界はつながっているのだから。
【参考資料】
- 1)
- 「G7気候・エネルギー・環境大臣会合について」有馬 純