瓦が太陽光発電パネルと一体化


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 屋根に太陽光パネルを取り付けてある住宅の数が増えているが、従来からの建物のイメージがかなり変わってしまう。次第に、南に面した屋根一面に発電素子を貼り付けた形のものも見られるようになっているが、それも光を反射する平たい板の集合体だから、住宅の屋根という従来からのイメージからは大きく外れてしまう。和式であれ洋式であれ、住宅の屋根には文化としての形があり、時代と共に変化するものだとは思うが、太陽光パネルは建物の伝統的文化を壊してしまっているように感じられる。

 居住空間としての存在に変わりはないとは言え、それが集積した街として見た場合に、ソーラーパネルが、街並という一種の文化を変容させている。それが新しい街の文化的素顔として、時間の経過の中で違和感がなくなるものであれば良いが、街の顔を醜いものにしているのではなかろうか。

 この違和感をなくしようとするプロジェクトがイタリアにある。イタリアの住宅の屋根には、「テラコッタ」と呼ばれる湾曲した茶色の瓦がよく使われているが、この瓦に太陽光発電素子を埋め込んで、瓦の外見を変えずに発電出来るものが実用化の域に来ている。

 このメーカーはDyaquaという家族経営の小規模事業者だが、10年ほど前からテラコッタの形をしたソーラーパネルの開発をしてきた。この家族が住むVicenzaという地域は、世界遺産になっている。テラコッタの屋根瓦が乗る住宅が拡がる街の伝統的建物の印象が、いまの時点で普及している太陽光パネルが屋根に取り付けられることによって変わること
に嫌悪感を持ったことがこの開発の基本にあるとのことだ。

 この家族が作るテラコッタは、手に取ってみても、伝統的な瓦と区別がつかないほどの仕上げが出来ている。その瓦には、太陽光を内部に取り入れることができるように、高分子化合物でできた細い通路が幾つも取り付けられていて、瓦の内部に挿入されたソーラーセルに太陽光が届くようになっている。伝統的なテラコッタと形が同じであることから、従来と全く同じ方式で、このソーラーセルを内部に収納した瓦を屋根に載せることができる。瓦職人がこれまでと代わらない手順で屋根に取り付ければ良い。

 このソーラーパネル組込をしたテラコッタが最初に作られたのは2010年だというから、イタリアで太陽光発電が普及し始めた頃にこの新テラコッタが誕生したことになる。だが、その量産化には高い壁があった。量産化に必要な資金調達が難しかったのだ。一時は,生産を諦めるか、あるいは、瓦職人の手作りで少量生産したソーラーパネル・テラコッタを市場に出すか、を検討したようだ。

 何とかその壁を乗り越え、試作を繰り返した後に量産を始めたのが2019年末。ナポリ近郊の古代遺跡のあるポンペイと、小さな街ビコフォルテ(Vicoforte)に設置されたのだった。そして間もなく規模を拡大した設置作業が、ポルトガルのエボラで始まることになっている。このプロジェクトは、歴史のある街を、その歴史を受け継ぎながら、グリーン化・スマート化し、文化遺産として承継させようとするEUの方針に沿ったものとして、補助を受けている。

 当然のことだが、この瓦の発電能力は通常のものより低い(一枚7.5W)。しかしこの方式の応用範囲は広い。石やコンクリート、木造の壁にも同じ方式が使えるからだ。日本の瓦にも組み込めるかもしれない。

【参考サイト】

1)
https://www.fastcompany.com/90836947/
2)
https://www.dyaqua.it/invisiblesolar/_en/rooftile-invisible-solar-integrated-for-heritage.php