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G7エルマウサミットとエネルギー温暖化問題(その1)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 G7エルマウサミットではウクライナ問題、エネルギー・食糧品価格高騰等が主要なアジェンダになり、6月28日に首脳声明注1) を採択して閉幕した。エネルギー・温暖化問題については5月26-27日のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で共同声明注2) が合意のベースとなった。首脳声明のエネルギー温暖化部分について気づきの点をいくつか述べてみたい。

ロシアの石油輸入価格上限

 G7気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明に盛り込まれておらず、今回の首脳声明に盛り込まれたのがロシアの石油輸入価格上限設定構想である。共同声明では「石油に関し、国際的なパートナーと協議の上で合意される価格又はそれを下回る価格で石油が購入されない限り、ロシアから海上輸送される原油及び石油製品の世界的な輸送を可能にする全てのサービスを包括的に禁止するというあり得べき選択肢を含め、我々は様々なアプローチを検討する」とあるが、価格上限設定が本当に機能するかどうかは予断を許さない。ウオールストリートジャーナル紙は6月29日の社説で「これは、ほとんどの価格抑制策と同じ効果を発揮するだろう。つまり、恐らくうまくいかないということだ」と述べている。

 一定価格以下の輸入を認めるということになれば困難な域内調整を経てロシア産原油・石油製品の輸入禁止に動き始めたEUの制裁措置の見直しが必要になる可能性がある。加えてこの措置はG7だけでやっても意味がない。実効あらしめるためには中国、インドの協力が不可欠であるが、対ロ制裁に距離をおいてきた彼らがロシアの外貨収入削減を狙ったG7のイニシアティブに同調するであろうか。最大の不確定要素はプーチン大統領の反応である。プーチン大統領が西側によって一方的に設定された輸入価格を受け入れるよりも報復措置として輸出を削減する可能性もある。そうなれば、国際石油価格が高騰する恐れがある。ロシアの現在の石油輸出規模は世界の全生産量の8%に当たる。この比率が5%に下がれば、世界の石油価格は30%跳ね上がるとの試算もある。

 石油輸入価格上限は米国のイエレン財務長官の強い主張によって盛り込まれたが、上限価格のレベル、様々なルートに流れ込むロシア産原油のトレースの方法等、中身はまだまだ詰めねばならない点が多い。中国、インドの協力の取り付けの確約がとれているとも思われず、生煮え感が強いがそれでも米国がこれにこだわったのはガソリン価格の上昇によってバイデン政権の支持が大幅に下がっており、このままでは中間選挙を戦えないという米国の国内事情もあったのではないか。

石炭火力の取り扱い

 G7気候・エネルギー・環境大臣会合に先立ち、国内石炭火力を2030年(あるいは2030年代)にフェーズアウトするか否かをめぐって、これに反対する日本が孤立しているとの事前の新聞報道があったが、大臣会合の共同声明では「2035年までに電力セクターの大宗(predominantly)を脱炭素化する目標へコミットし、2030年の温室効果ガス排出削減目標及びネット・ゼロのコミットと整合性をとりながら、国内の排出削減対策の講じられていない石炭火力発電を最終的(eventually)にフェーズアウトさせるという目標に向けて具体的かつ適時の取組を重点的に実施する」とされた。排出削減対策のとられていない石炭火力のフェーズアウトのタイミングは「最終的に」(eventually)とされ、特定の年限は設けられていない。「2035年までに電力セクターの太宗を脱炭素化する」とあるが、「大宗(predominantly)」の解釈は各国に委ねられている。

 首脳声明においては、「2035年までに電力部門の完全又は大宗の(fully or predominantly) 脱炭素化の達成にコミットする。石炭火力発電が世界の気温上昇の唯一最大の原因であることを認識し、我々は、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組を重点的に行うことにコミットする」とされた。脱炭素シェアの表現が predominantly から fully or predominantly となり、気温上昇に対する石炭火力の「罪状」が追加され、「最終的な(eventually)フェーズアウト」から「フェーズアウトの加速(accelerate)」になり、大臣会合よりも幾分「前向きに」(つまりは非現実的な方向に)なった。エルマウのサミット会場では化石燃料フェーズアウトを求める市民団体が気勢をあげていたが、そんなことも影響しているのかもしれない。

 議長国ドイツはロシア産天然ガスへの依存を下げつつ、予定通り2022年の原発フェーズアウトを行う。そのロス分を全て再エネで賄うこと等できるはずもなく、当面、石炭火力依存が増大すると見込まれる。そのドイツが石炭フェーズアウトをプッシュすることに「おまいう」感を禁じ得ないが、当座の対策と中期目標は別だと割り切っているのであろう。

化石燃料部門への公的支援

 大臣会合では化石燃料プロジェクトへの公的融資について、「国家安全保障と地政学的利益の促進が極めて重要であることを認識した上で、各国が明確に規定する、地球温暖化に関する1.5℃目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策の講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了にコミットする」との文言が盛り込まれた。昨年11月のCOP26において、「排出削減対策の講じられていない化石燃料部門への公的支援を、限定的で1.5℃目標と整合的と定義される状況を除き、2022年末までに終了させる」との共同声明を有志国21か国が発出した注3) 。日本、中国、インド、サウジ等はこれに参加しなかったが日本を除くG7諸国が名前を連ねている。今回の合意内容はこれを踏襲するものであるが、「国家安全保障と地政学的利益の促進が重要であることを認識した上で」という枕詞が入り、1.5℃目標やパリ協定との整合性については「各国が明確に規定」とされている。COP26での共同声明に比して例外となる状況の解釈に各国の国家安全保障上の必要性が反映されるようになったと言える。

 またロシア産天然ガスからの脱却のためには液化天然ガス(LNG)転換が不可欠であることから、LNGについては「ロシアのエネルギーへの依存のフェーズアウトを加速させる目的で、我々は、LNGの供給の増加が果たすことのできる重要な役割を強調し、この部門への投資が現在の危機に対応するために必要であることを認識する。このような例外的な状況において、我々は、明確に規定される国の状況に応じて、例えば低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素の開発のための国家戦略にプロジェクトが統合されるのを確保すること等により、我々の気候目標と合致した形で、ロックイン効果を創出することなく実施されるなら、ガス部門への公的に支援された投資が一時的な対応として適当であり得ることを認識する」という文言が入った。「化石燃料への公的投資の停止」という方針を掲げつつも、LNG投資は必要ということでこのような苦心の(幾分言い訳めいた)作文になったわけだが、「一時的対応」で当座の危機を脱したら座礁資産化してしまうのでは新規投資が起きるわけがない。LNG投資を促進するためには、きちんと投資コストを回収できるような予見可能性を与えることが不可欠だろう。

 いろいろ但し書きをつけたとしても、全体として化石燃料セクターに対するG7諸国の公的融資に厳しい制約がかかることは変わりなく、ウクライナ戦争によって化石燃料の需給ひっ迫が顕在化しているにもかかわらず、G7諸国がこのような自縄自縛に陥っていることに強い違和感を感ずる。もともと環境原理主義傾向が強い欧州と左派の影響力が強くアンチ化石燃料色の強いバイデン政権が一緒になったことの影響は大きい。

注1)
英文 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100364051.pdf
仮訳 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100364219.pdf
注2)
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220530005/20220530005-4.pdf
注3)
https://ukcop26.org/statement-on-international-public-support-for-the-clean-energy-transition/

次回:「G7エルマウサミットとエネルギー温暖化問題(その2)」へ続く