バイデン政権予算教書におけるエネルギー環境関係注目点


環境政策アナリスト

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 バイデン大統領が5月28日に発表した予算教書は2050年ゼロカーボン目標達成のためのエネルギー省および関係省庁の強化策が盛り込まれている。2022年会計年度(2021年10月~2022年9月)の戦後最大の6兆ドル(約660兆円)のこの予算要求は議会共和党からの強い反対に遭遇している。議会民主党からはその気候変動問題への強いコミットメントに称賛の声が上がっている。エネルギー省予算についてみると前会計年度の418億ドルから461億ドルに一気に10.4%増加させ2050年ゼロカーボン政策への本気度を感じさせるものと関係者は持ち上げている。議会共和党側は重鎮のマコーネル上院院内総務が「この予算案は電気自動車補助金を勤労意欲を殺ぐだけの福祉政策へ変えさせてしまう」と手厳しい。民主党系の進歩的政策研究所のブレッドソー氏は「これらの政策はすべてがうまくいかなければならない。民主党はクリーンエネルギー税制およびバイデン大統領の提案を実現するために一丸となっている」と述べて一部共和党の巻き込みを促している。予算要求の責任の多くはエネルギー省ジェニファー・グランホルム長官の方にかかっている。特にバイデン大統領の第二フェーズともいうべきアメリカ雇用プラン(アメリカンジョブプラン)のインフラ中心とした幅広い分野への投資2.3兆ドルがエネルギー、脱炭素政策、社会的公正の分野をカバーするすることになるからである。グランホルムエネルギー長官は女性としてはエネルギー省二人目の長官となる。ミシガン州の知事としてクリーンエネルギー活用と自動車産業救済策をまとめ、知事を降りた後は熱心な再生可能エネルギー推進者として活躍をしていた。バイデン大統領が発表した「クリーンエネルギー革命および環境正義」プランを実現するために中心的人物として期待されている。グランホルム長官も「これらの投資はアメリカを環境危機との戦い、給与の向上、国内隅々に至るコミュニティーの強化のために重要なエネルギー技術の研究開発における世界のリーダーになることを確実にしてくれるだろう」と抱負を述べている。

エネルギー省関係予算要求の注目点

 米国では大統領予算教書は議会が予算策定のための審議を進めていくうちに脇に追いやられ主役の立場を譲ってしまうことが往々にしてあるが、今回の大統領予算は各省庁のプライオリティーが明確に示されており、これまでの政権との違いを際立たせている。主要な項目をみると国家核安全保障局が最大の197億ドル、科学局74億ドル、エネルギー効率・再生可能エネルギー局47億ドル、原子力局18億ドルなどとなっている。また特徴的なところをみるとエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)である。トランプ前大統領は、このプログラムを含め多くのエネルギープログラムを一掃してしまった。これに対してバイデン政権はエネルギー高等研究計画局に7300万ドルアップの5億ドルの予算要求をしている。これによりさらにスケールアップした広範かつ健全なプロジェクトポートフォリオを継続実施していくこととしている。同会計年度には15の新しいファンディングの機会があるだろうと述べている。また新しい組織として気候高等研究局(ARPA-C)(後述)という新しい組織を立ち上げるために2億ドルを要求している。同時に農務省、商業省、国土安全保障省、住宅都市開発省、内務省、運輸省、環境保護庁などに対して3億ドルの予算で省庁間横断型のプロジェクトを気候高等研究局とともに実施をすることを求めている。以下個別にみる。

国家核安全保障局
 国家核安全保障局については引き続きエネルギー省の最大の予算要求となっている。トランプ政権時代は大きな増加を見せたが、バイデン政権では伸び率は低下している。核エネルギー施設の除染は20%アップであるが、内容はアイダホ国立研究所、オークリッジ国立研究所がともに減少、ハンフォードサイトおよびサバンナリバーサイトは多少の増加要求となっている。

エネルギー効率・再生可能エネルギー局
 エネルギー効率・再生可能エネルギー局については65%アップの47億ドルの予算要求となっている。バイデン政権の核となる分野である。内容をみると自動車技術49%アップで5億9500万ドル、バイオエネルギーが33%アップで3億4000万ドル、水素・燃料電池技術が32%アップで1億9800万ドル、太陽光技術が32%アップで3億8700万ドル、風力が86%アップで2億500万ドル、水力が31%アップで1億9700万ドル、地熱が55%アップで1億3200万ドルなどとなっている。

原子力局
 原子力局については20%の増額要求となっており、バイデン政権の脱炭素政策における重要な位置づけを原子力に与えていることが分かる。エネルギー省は、特別に原子力は「米国を2050年温室効果ガス排出ネットゼロ政策までの道筋に乗せるためにエネルギー省における鍵となる要素」であると表現している。最大の予算が高度原子力実用化プログラム48%アップの3億7000万ドル、さらにバーサティルテストリアクター(多目的試験炉)が222%アップの1憶4500万ドルなどの大きな項目となっている。廃棄物処分場についてはオバマ元大統領の時にネバダ州ユッカマウンテンが候補から外され、代替サイトを設ける必要があるが、昨会計年度は議会は予算を認めず、今回もバイデン政権は750万ドルを要求するにとどめ、いわゆる「統合型」の中間貯蔵施設の立地の活動をすることにしている。

化石エネルギー局
 化石エネルギー局は化石エネルギー/炭素管理局に改組して炭素管理の重要性に着目をしている。炭素管理の分野では二酸化炭素回収貯蔵(CCS)がもっとも注目されている技術である。昨年から比して19%アップの8900万ドルの予算要求となっている。増加分は今回特に二酸化炭素除去技術が入ったためである。緊急を要する研究開発という観点ではメタン排出の削減である。長期的な研究開発と位置付けられるのは天然ガスによる水素製造技術整備、CO2リサイクルによる新たな付加価値創造などであり、2035年の電力からの排出ゼロ目標の観点から重要なものと位置付けられている。また、戦略石油備蓄の運営を同局からサイバーセキュリティー・エネルギーセキュリティー・緊急時対応室への移行を検討している。エネルギー省から離れてサイバーセキュリティーについてはコロニアルパイプラインへのランサムウェアの攻撃などを受けて98億ドルの予算で連邦組織の防衛強化、国家としての重要インフラ防御をする考えである。またソーラーウィンズ社のサプライチェーン攻撃から得られた教訓に対処するため7億5000万ドルを支出することとしているが、サイバー空間における諜報活動キャンペーンもエネルギー省を含む複数の省庁をまたいた活動が計画されている。これらは1500万ドル予算化され、昨年の国防権限法により設立された国家サイバー局長室が対応することとされている。

気候高等研究局
 気候高等研究局(ARPA-C)が2億ドルの予算で新たに設立される。これは複数の既存のプログラムを拡大して「ブレークスルー技術による革命的進歩、科学的発見と先端的発明を技術的イノベーションへ転換させる」としており、同時に財務的リスクおよび不確実性により民間の支援が困難な分野における技術発展を加速することを目的としている。また各省庁をまたいで実施省庁間パートナーシップで行うことを想定しており、さらに共通役務庁、航空宇宙局、国立科学財団などが気候高等研究局(ARPA-C)から個別の予算によりそのプログラムを進めるということも想定している。
 
 これら予算要求は議会を舞台に今後本格的になってくる。米国議会は下院上院ともに与党民主、野党共和両党の議席は僅差だ。米国上院のフィリバスターと呼ばれる議事妨害に対抗するためには冒頭のブレッドソー氏の言うように共和党の巻き込みを図らないとバイデン政権の志向する政策は実現しない。しかし、共和党内に依然存在するトランプ氏の影響力を考慮すると両党コンセンサスを目指すのは難しいと言わざるを得ない。

出典:
6月2日付けニュークリアタウンホールニュースレター
国際技術貿易アソシエイツ