「電力緊急事態宣言」を出すべきだ

電力供給危機の原因とその背景を考える


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 昨年のクリスマス前から静かに進んでいた電力供給危機がいよいよ深刻化している。
 寒波による電力需要の急増や、積雪によって太陽光発電が戦力外になることによるkW不足と、LNG(液化天然ガス)不足によるkWh不足とが重なっている。しかしその背景には制度的な課題があると筆者は考えている。
 当面の電力供給危機について、その状況を解説したい。

電力緊急事態 理由その1 寒波による電力需要増大

 まず寒波により、電力需要が急増している。さらに、コロナによる在宅時間の増加も相まって家庭部門の需要が増加しており、需要予測も難しくなっている。あわせて、北海道・東北、それ以外でも日本海側は広く雪が積もり、太陽光の多くが何日間も(何週間も)戦力外になっている。

 下記は、明日1月12日の各地域の発電設備使用率予想である。


出所:電力広域運営推進機関

 軒並み95%を超えている。まだ数%余裕があるではないかと思われる方も多いだろうが、どこかの発電所が設備トラブルでダウンして5%の供給力が失われると、需給バランスが崩れて周波数が乱れ、場合によっては2018年9月に北海道で起きたような広域停電になる恐れがある。

 電力という財の特殊性は、需給バランスが崩れた場合、一部の人が使えなくなる(例えば年末年始など通信が込み合うことはしばしば起きるが、システムがダウンすることはなく、使える人と使えない人が出るだけだ)のではなく、全体が崩壊することにある。
 厳しい冷え込みで、火力発電所の燃料供給設備にトラブルが発生した事例もある(2012年2月九州電力の新大分発電所)ので、この数字の持つ意味は非常に深刻だ。
 大規模な工場など大口ユーザーに電力使用の抑制を依頼したり、自家発電設備を持つ需要家に最大能力での発電を依頼するなど、kW供給力をかき集めて対応しているが、12日未明から太平洋側も含めて降雪と全国的な強い冷え込みが予想されており、予断を許さない。

電力緊急事態 理由その2 燃料(液化天然ガス)不足

 今般の電力危機の本質は、LNG(液化天然ガス)の不足である。LNGは-162℃という超低温で液体にして輸送・貯蔵するので、長期保存に向かない。国内の備蓄は2週間分程度しかないことは、エネルギー政策関係者には周知の事実で、それだけに性急な脱石炭や脱原発で天然ガス依存を高めている現状にリスクがあることは、電力会社や関係者から繰り返し指摘されていた話だ。
 今般のLNG調達不足の原因は、事後によく分析と検証を行う必要があるが、中国での寒波や炭鉱事故、中国と豪州の政治問題から中国が豪州産石炭の輸入抑制措置を取り、その代替として天然ガス依存が高まったこと、韓国でも環境対策として石炭火力を16基停止させて天然ガスの利用が増えたなどの事象が重なり、東アジアのマーケットが影響を受けたこともあるのだろうと筆者は推測している。北半球全域が寒波に襲われていること、パナマ運河の大渋滞、豪州やカタールなど天然ガスの産地でトラブルがあったという情報もある。また、東日本大震災の後、「日本のLNG調達は長期契約で割高な買い物をしている」と批判を受け、長期契約を減らしたことが影響している可能性や、再生可能エネルギーの増加で火力発電の稼働が下がり在庫を抱えがちであった影響も否定できない。燃料調達や在庫状況については契約守秘義務や安全保障の観点から情報が限定出来であるので推測の域を出ないことも多いが、要因はさておき、目の前にはLNGが足りないという事実があるだけだ。

当面の対応について

 この状況を改善するには、長期的には、安全の確認された原子力の再稼働を進めることが有効になるが、足元数日から数週間においては、①LNG以外の発電能力を自家発含めてすべて活用する、②LNGの配船を早める・増やす、③需要を減らす、の3つしかない。
 自家発を含めた発電能力の徹底した活用はすでに取り組まれているので割愛するが、②はそれほど容易ではない。基本的にLNGの調達のリードタイムは通常2カ月程度を要する。また、LNG船から陸にLNGを荷揚げするときには、太さ数十センチのパイプを接続して行うが、冬の荒海でそのパイプを接続するのは至難の業で、荒れているときは荷揚げをできないことも当然ある。
 欧州のように、天然ガスをガスのままのパイプラインで輸出入できる国と日本は決定的に異なるのだ。地続きの国は安価に安定的に(とはいえ、欧州もロシア産の天然ガス依存度を高めて、痛い目を見たことはあるが)調達できるが、日本は液化して輸送してまた温度を上げてガスに戻すというプロセスを必要とする。コストも安定供給リスクも他国と同等に語れないにもかかわらず、再エネ比率や石炭比率など含めて、エネルギー政策を他国と比較して安易に語ることがわが国では多すぎたのだろう。
 結局は、早く国民にこの危機を周知して、電力の節約に努めてもらわねば、燃料が底をつくことになりかねない。しかし、コロナ緊急事態宣言との重複を気にしてか、政府の動きは徹底的に鈍かった。

構造的要因への考察

 今般の事象を、寒波などによる偶発的な事象と捉えることは適切ではなく、これまで進められてきた電力システム改革の負の影響が色濃く出ていると筆者は考えている。例えば、こうしたピーク時にkW供給力として期待される石油火力発電所だが、自由化以降、燃料調達のサプライチェーンが相当細ってしまっている。
 資源エネルギー庁の電力調査統計表によると、火力発電用B・C重油の消費は2016年度が4,613千klに対し、2019年度は1,982千klまで下がっている。同じく原油は2,788千klだったものが203千klと一桁減だ。また、年度末在庫は重油が11,748千klから823千kl,原油が18,220千klから312千klと二桁減だ。
 小売り全面自由化後急速に稼働が下がっており、在庫水準は相当に心細いものになってしまっている。
 購入が減れば販売側の体制も細る。日本の電力会社向けの供給を中心的に支えてきたのはENEOSと三菱商事だと言われているが、電力各社からの発注が急減したことを受け、両社とも基地のタンクを違う燃種に転換したり、在庫を縮小するなどの対応を行ったと仄聞している。
 もう一つの問題はこうした基地から発電所原油や重油運ぶ内航船の減少だ。容量市場によって、発電所の維持費用を回収できたとしても、こうした燃料調達に関わるインフラは燃料費の中で賄われるので、消費量(発注量)が減ると維持できなくなる。

 電力システム改革を進める中で、こうしたサプライチェーンの維持も含めて課題認識を本当にできていただろうか?
 電力供給システムはシステム・オブ・システムズと言われる。今般の電力供給危機が、結果として何事もなく乗り切れたとしても、喉元過ぎれば熱さを忘れるにしてはいけない。市場原理に委ねてよいところ、委ねてはいけないところ、規制機関の権限や責任のあり方を改めて見直すべきではないだろうか。

正確には、政府(規制機関)は「電力緊急事態宣言」ではなく「節電要請」あるいは「電力使用制限」を出すことができる。
kW(発電設備)の予備率については、各電力会社のウェブサイトの「でんき予報」で確認可能。また、その全国一覧が電力広域的運営推進機関(通称OCCTO)のウェブサイトに掲載されている。
http://occtonet.occto.or.jp/public/dfw/RP11/OCCTO/SD/LOGIN_login
(上記を開いて、左側の「需給関連情報」をクリックすると右にメニューが表示される。その一番右の「電力使用状況(でんき予報)」を開くと日本全国のエリアごとの使用率がわかる。)