より良いシステム見据え提言

書評:西村陽、戸田直樹、穴山悌三 著『未来のための電力自由化史』


国際環境経済研究所理事・主席研究員

印刷用ページ

電気新聞より転載:2022年7月22日付)

 日本の電力供給がおかしい。閣議で「エアコンは一つの部屋に集まって」「テレビはみんなで一緒に見る」と議論したり、6月に猛烈な暑さで政府が節電要請を出したり。2023年の冬には大企業などを対象に「電気使用制限」を発令し、違反した企業には罰金が課される可能性もあるという。こうした度重なる報道を受けて「電力の安定供給もできないなんて、日本はもはや後進国なのか?」という悲痛な声が聞こえてくる。

 エネルギー政策が専門の筆者からすれば、化石燃料に恵まれなかった国で「電気はついて当たり前」などという恵まれた時代を謳歌できたのは、ひとえに先人たちの投資と努力、安定した世界秩序の下での資源取引のおかげだ。その状態が永続的ならエネルギー安定供給は「達成された政策目標」と考えても良かったかもしれないが、現実社会がそうではない。

 この電力供給の脆弱化をもたらした要因は複数指摘しうる。しばしば政府や事業者の対策の遅れや無策と評する論を見受けるが、筆者の認識は逆だ。むしろ同時にいろいろやり過ぎたことにある。原子力の安全規制を抜本的に変更しそれまで需要の3割を賄っていた原子力発電の停止を常態化させ、電力システム改革を進めて競争原理を導入するとともに、再生可能エネルギーは究極の総括原価方式というべきFITにより急速に普及させた。欧米諸国は、システム改革を先行させ、その後再エネの大量導入に対処したが、わが国はすべてを同時進行で進めようとしたことで、制度にきしみが生じていると見る方が妥当であろう。

 本書は電力システム改革について、各国が何を目的に進めようとしたかにさかのぼってひもとく。欧州と日本では出発点からして異なることは意外と知られていない。その上で、第一次安倍政権発足から第二次安倍政権発足までの6年間で6人の首相が誕生し、それぞれが温暖化対策への積極姿勢を示したことなどを踏まえ、経済性と環境性は追求するものの安定供給確保は旧大手電力の「善意」に頼らざるを得ない設計になったことを指摘する。しかし一方で旧大手電力の対応も厳しく指摘する。表題の「未来のための」が示す通り、犯人や間違いを探すことが本書の目的ではなく、ここからより良いシステムを構築するための提言としての自由化史なのだ。

 電力システムの未来を考える方々には、必携必読の書として強くお勧めしたい。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

『未来のための電力自由化史』
西村陽、戸田直樹、穴山悌三 著(出版社:日本電気協会新聞部
ISBN-13:78-4905217954