住友化学のチャレンジ 「促進輸送膜による高効率な二酸化炭素分離」


SUMITOMO CHEMICAL COMPANY, LIMITED

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はじめに

 近年、世界的に持続可能な社会を目指す流れが加速し、その実現に向けて化学産業が果たすべき役割がより一層、大きくなっている。こうした中、当社は2018年4月にサステナビリティ推進委員会(委員長:社長)を発足し、翌2019年1月にはサステナビリティ推進基本原則を制定した。そしてサステナビリティの推進を「事業を通じて持続可能な社会の実現に貢献するとともに、自らの持続的な成長を実現する」と定義し、その達成を通じて企業価値の向上(図1)に取り組むこととした。7つのマテリアリティ(図2)は、「持続可能な社会の実現への貢献」を明示的に推進すべく、2019年3月に特定したもので、当社の事業と直接関係する「社会価値創出に関するマテリアリティ」と、将来を見据えた取り組み課題である「将来の価値創造に向けたマテリアリティ」の2つの観点から抽出している。社会価値創出に関しては、「環境負荷低減への貢献」を一番に掲げ、当社グループの環境への取組みの位置づけを明確にした。

図1
図2

 マテリアリティの一つである「環境負荷低減への貢献」に向けた具体的な取り組みとして、気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術を“Sumika Sustainable Solutions(SSS)”として認定している。これらの開発・普及を促進することで、持続可能な社会を構築するためのソリューションを提供に努めている。そして、SSS認定製品・技術の売上収益を2021年度までに5,600億円(2015年度の2倍)にすることを目指している。
 以下に紹介する二酸化炭素分離膜は、地球温暖化対策の分野に貢献できる製品として“Sumika Sustainable Solutions (SSS)”に認定されている。

促進輸送膜による高効率な二酸化炭素分離

 CO2は最も代表的な温室効果ガスであり、パリ協定で合意された世界の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えるという目標の実現に向けて、CCS (Carbon Capture & Storage)やCCU(Carbon Capture & Utilization)を含むCO2の排出量削減が、地球規模での大きな課題となっている。膜分離法によるCO2の分離は、膜の両面にCO2の分圧差があればエネルギーを追加することなく分離が行えることから、既存の吸収法や吸着法など他のCO2分離技術に比べて省エネプロセスが実現可能であり、今後のCCUやCCSの実現に貢献する技術になると大きく期待されている。
 現在、海外を中心に、ポリマーに対する各ガス成分の溶解度と拡散速度の差に基づいて分離する「溶解拡散膜」と呼ばれる製品が、主としてメタンとCO2の分離、例えば天然ガスの製造や有機物を嫌気性発酵させたバイオガスのメタン濃縮といった分野で適用が拡大しつつある。 
 これに対し住友化学では、吸水性のポリマーにCO2と選択的・可逆的に反応するキャリアを配した「促進輸送膜」と呼ばれる分離膜を開発している。スパイラル型の膜エレメント(長さ:約1m、直径:約0.2m)の開発にも成功しており、実プロセスに適用できるレベルに達している。

 促進輸送膜の特徴は、高いCO2透過性とともに非常に高いCO2選択率(水素に対して100以上、メタンや窒素に対しては400以上)を持つことである。
 特に、水素からのCO2分離については、溶解拡散膜では、CO2は溶解性が高い一方で水素は拡散速度が大きいため効率的な分離が困難であるのに対して、当社膜では高い選択率でCO2を透過分離できることに大きな特徴がある。例えば、炭化水素の水蒸気改質による水素製造プロセスや燃料電池システム、あるいは廃プラスチックのリサイクルプロセスなどにおいて、当社CO2分離膜を用いることで、副生CO2を効率的に分離することが可能であり、省エネルギーで高効率のシステムを実現できる。
 メタンとCO2の分離については、前述の通り溶解拡散膜の商業的利用が拡大しつつあるが、当社膜を適用すれば、CO2選択率が非常に高いことから、透過分離されたCO2ガス中のメタン濃度を格段に低くすることが可能である。天然ガスの場合など、CO2を圧縮液化して利用する場合にはCO2濃度が高いほどエネルギー効率が高くロスも小さくなる利点がある。また、バイオガス由来のCO2の場合は大気放出してもカーボンニュートラルとみなされるが、メタンは地球温暖化係数がCO2の25倍あり、CO2と一緒に残存メタンを大気放出すると問題が大きい。当社膜を適用すればこの点が大きく改善される。
 火力発電所などで化石燃料を燃焼した排ガスは、世界中で最も多くCO2を排出しており、その省エネで低コストなCO2分離プロセスの実用化が切望されている分野である。ただ、膜分離プロセスにとってはCO2分圧が低く、また不純物対策も必要など、技術的・経済的に解決すべき課題が多い。当社では、国内外のアカデミアの技術の導入・協業も視野に入れながら、その適用実現に向けて研究開発を続けている。
 住友化学は、CO2分離膜の実装化を通して持続可能な社会の実現に貢献すべく、精力的に研究開発・事業化を推進する。