環境原理主義は人類を不幸にする


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 7月16日、環境活動家のグレタ・トウーンベリ他4名が連名でEUの政治リーダー及び世界のリーダーに対して公開書簡を発出した注1)日本の新聞でも報道されている注2)

 その趣旨は以下の通りである。

気候・環境クライシスをクライシスとして扱うことなしに解決できると偽ることを止めねばならない
気候・環境災害を避けるためになすべき最初の一歩は以下の通りである

  • ただちに全ての化石燃料開発・採掘投資をやめ、全ての化石燃料補助金を廃止し、化石燃料から完全に資本を引き上げよ
  • EU加盟国は環境破壊(ecocide)が国際刑事裁判所で国際犯罪として裁かれるよう提唱しなければならない
  • 消費指数、国際航空・海運を含めた排出総量を全ての数字、目標に盛り込め
  • 現在、利用可能な最新の科学と66%の確率で気温上昇を1.5度以内に抑制するIPCCの炭素予算に基き、拘束力を有する年間炭素予算を本日から設定せよ。炭素予算には衡平性、ティッピングポイント、フィードバックルループといったグローバルな視点を含め、将来のネガティブエミッション技術を想定したものであってはならない
  • 民主主義を守れ
  • 労働者と脆弱な人びとを守り、経済、人種、性別の不公平を引き下げる温暖化対策を講じろ
  • 気候・環境緊急事態を緊急事態として扱え

 公開書簡でグレタ等は「我々の求めることが容易ではないことは理解しているし、非現実的に思えるかもしれないが、現在のBAUのままで地球温暖化を生き抜くことができると信じることのほうがもっと非現実的だ。COVID-19の悲劇の中で世界のリーダーたちが社会のために立ち上がることを目にしてきた」とし、「EUの2050年ネットゼロエミッションは1.5度目標を50%の確率でしか達成できないので降伏に等しい」「気候行動をファイナンスするために、気候クライシスをもたらす経済システムの「回復」を目指すことは馬鹿げている」と述べている。

 筆者は従前からグレタ・トウーンベリらの環境原理主義に対して批判的であり、「気候警察の支配は経済を破壊する注3) 」で欧州の環境原理主義に警鐘を鳴らしたが、このレターは更に過激度を増し、もはや宗教、環境全体主義であると感ずる。環境破壊を国際刑事裁判所で裁くにいたっては中世の異端審問裁判所を思わせる。

 これは欧州のリーダーへの書簡という体裁をとっているが、その意図するところは世界中が自分たちの言うとおりにせよということである。化石燃料が温室効果ガスを発出する一方、安価で安定的なエネルギー供給を通じて世界の人びとの生活水準を向上させてきたことは厳然たる事実である。それがこのレターでは犯罪者扱いである。一体、どの法律、条約を根拠にどのような基準で刑罰を下そうというのか。「地球温暖化防止の遅れにいらだって若者たちが声をあげた」として称賛する向きがあるかもしれないが、彼女たちの言うとおりにすれば、世界は不幸になるだろう。センス・オブ・プロポーションというものを全く欠いた妄言にしか見えない。

 それ以上にショックなのがこの書簡に賛同する世界の活動家、科学者、セレブが数千人いるということだ。その中にはレオナルド・ディカプリオ、ベン・スティラー、ジュリエット・ピノシュ、ラッセル・クロウ等、名だたる俳優、アーティストが含まれている。自らはセレブとして安楽な暮らしをしながら、貧しい人の生活水準に必須のエネルギーを奪うかのような提言に名前を連ねるのは偽善でしかない。

 提言では「民主主義を守れ」「脆弱な人を守れ。経済の不公平を引き下げよ」と書かれている。しかしグレタ等の主張している化石燃料全廃は途上国の貧しい人の生活水準の向上を阻害し、不公平を永続化させるだろう。また民主主義が機能している国であれば、グレタ等の提言の結果必然的に生ずるエネルギー価格の上昇は忌避されるであろう。

注1)
https://climateemergencyeu.org/#letter
注2)
https://www.sankei.com/life/news/200717/lif2007170007-n1.html
注3)
http://ieei.or.jp/2020/06/opinion200622/