福島・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業のいま

2基の実証を1年間延長…導入に向けた環境づくりへ


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年3月号からの転載)

 東日本大震災に見舞われた福島の復興のシンボルとして注目されている「福島復興浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」(2011~18年度、)。最終年度を迎えるにあたり、3基のうち2基の実証期間を1年延長するとともに、1基を撤去する方針が打ち出されました。

図 福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業のイメージ 出所:経済産業省 資源エネルギー庁資料より

図 福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業のイメージ
出所:経済産業省 資源エネルギー庁資料より

総括委員会が実証成果を検証

浮体式洋上変電所「ふくしま絆」

浮体式洋上変電所「ふくしま絆」

 洋上風力発電には、風車などの発電設備を支える基礎部分を海底に固定する「着床式」と、海に浮かべる「浮体式」があります。浮体式は世界でもまだ実例が少ないものの、日本の場合、周辺海域の水深が深く、海底の地形も複雑なことから、浮体式も有望視されています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査によると、日本近海で洋上風力が導入可能な面積は、浮体式が着床式の約5倍あるそうです。
 同実証研究事業は、国から委託を受けた「福島洋上風力コンソーシアム」(東大と丸紅など企業9社)が実施しています。13年11月に、風力発電設備「ふくしま未来」(2MW風車)と浮体式洋上変電所「ふくしま絆」を実証海域に設置し、15年12月には風力発電設備「ふくしま新風」(7MW風車)、17年2月には同「ふくしま浜風」(5MW風車)を増設し、浮体式ウィンドファームの実証を行ってきました。
 実証期間が最終年度を迎えるにあたり、これまで得られた成果を客観的に総括する総括委員会が設置され、福島県沖での事業化を見据えて安全性、信頼性、経済性に関する検証を行うとともに、今後のあり方を検討しました。その結果が昨年8月に公表されました。

浮体式洋上風力発電設備「ふくしま浜風」(福島洋上風力コンソーシアム提供)

浮体式洋上風力発電設備「ふくしま浜風」
(福島洋上風力コンソーシアム提供)

 同委員会は、①世界初の複数基による浮体式洋上風力発電システムの実証であること、②世界最大級の風車を浮体構造物に搭載し実証海域に設置したこと、③浮体式の洋上変電所を設置したこと―を評価しています。また、世界最大級の風車組み立てを可能とする小名浜港(福島県いわき市)の地耐力(地盤の荷重に対する耐力)を強化し、地元企業による風車タワーやケーブル用ブイの製造、風力発電事業と漁業の共存について検証したことを「実績」としています。

3基の浮体風車の検証結果

 総括委員会は、2MW風車について、稼働率(稼働していた時間の割合)が94.1%、設備利用率(実際の発電量が、定格出力での発電量の何%かを示す数値)が32.9%(17年7月~18年6月)で、商用水準に達していると認めました。そのうえで、浮体式特有の高い維持管理費の低減に向けた取り組みや、長期の運転実績の積み重ねによる保険料の低減など、今後の導入に向けた環境づくりのため、2MW実証機は運転継続が必要と判断されました。
 5MW風車の稼働率は61.3%、設備利用率は18.5%(17年7月~18年6月)でした。初期の不具合により稼働率が一時低迷した期間もありましたが、運転時間の経過とともに改善しており、今後信頼性が高くなると見込んでいます。運転期間が1年5カ月と短く検証が不十分なため、引き続きデータを取得し、安全性・信頼性の実証を行っていくことが必要と判断されました。
 一方、7MW風車は、稼働率16.4%、設備利用率3.7%(17年7月~18年6月)と、油圧システムの初期の不具合などで稼働率は低い水準にとどまりました。この実証機の規模は、海面から最高到達点までの高さが189m、翼の回転軸までの高さ105m、翼長81.7m、重量1700トンで、規模、出力とも世界最大です。ただ、油圧システムの課題が残り、現時点で商用運転の実現は困難なうえ、維持管理費も高額であることから、同委員会は撤去の準備を進めるべきと判断しました。
 同委員会での検証結果と提言をもとに、国は、2MWと5MWの実証機について実証研究を19年度まで1年間延長し、発電システム全体の追加的なデータ取得や、さらなるコスト低減の促進、漁業共存策の検討などを行うことにしました。7MW実証機については、撤去工法の検討を行ったあと、21年度までに解体・撤去作業を終えることを見込んでいます。

浮体式の課題と期待

 国内で商用運転している浮体式洋上風力発電システムでは、16年3月に長崎・五島列島で運転を始めた「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所」が先駆けです。環境省が11年度から5年間にわたって実施した実証事業を経て、事業化しました。18年9月には、北九州市の響灘地区で、日立造船や丸紅などがNEDOと共同で開発した浮体式の実証機が試運転を始め、浮体式の発電コストを2030年に20円/kWhにすることを目指し技術実証を進めています。

浮体式洋上風力発電設備を乗せる浮体(福島洋上風力コンソーシアム提供)

浮体式洋上風力発電設備を乗せる浮体
(福島洋上風力コンソーシアム提供)

 浮体式を普及させるには、高い建設コストが大きな課題の1つです。福島県沖での実証でも、浮体の小型化やチェーンアンカーの軽量化、地元港の活用によりコストを下げる努力が続けられてきました。事業化に向けては、洋上風力用作業船の充実や、送電線へのアクセス確保、送電容量の強化を目的とした送電網の整備も必要です。また、巨額の資金調達も課題です。
 昨年11月、国会で「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が可決されました。同法では、再エネの固定価格買取制度(FIT)の認定を受けると、洋上風力発電事業で一般海域を最大30年間占用できるようになります。同法の具体的な運用方法については現在、関係省庁間で協議を進めています。
 日本の領海を含む排他的経済水域の面積は約450万km2と世界第6位で、洋上風力発電のポテンシャルは高いとみられています。
 福島県沖での2MWと5MWの実証機を組み合わせた運用方法開発やコスト構造の見直しにより、自律的な運用が将来可能となり、今後の洋上風力普及の礎となることを期待したいと思います。