電力システム改革論を斬る!
ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第11回
電力市場2.0をどう評価するか(ドイツ)
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
主張4:容量市場は、制度が複雑となり、市場支配力濫用の監視等も含めれば、コストがかさむ。
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- 電力量計で明確に計量できるkWhと違い、kWに対価を支払うには、「電気を供給できる状態にあること」を何らか定義し、監視する必要があり、制度はどうしても複雑になる。
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- ただし、市場支配力濫用の監視は、電力市場2.0でも必要である。
主張5:容量市場は、kWh市場の価格シグナルを弱める(=ボラティリティを抑制する)ので、より柔軟な電力システムへの革新を妨げる。
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- デマンドレスポンス(DR)は、より柔軟な電力システムの代表的な構成要素である。価格のボラティリティが大きければDRの導入が進むのであろうか。筆者は懐疑的である。
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- 筆者の知る限り、日本で市場を開拓しようとしているDRアグリゲーターは、価格のボラティリティよりも固定的な基本報酬を得ることを望んでいる。これは容量市場のkW価値に相当するものであるので、これらのDRアグリゲーターにとっては、容量市場を導入する方が望ましいことになる。
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- 当然ながら、柔軟な電源、蓄電システムについても、固定費は存在する。容量市場を通じて固定費の回収の予見性を高める方が、普及にプラスになることは十分に考えられる。
主張6:容量市場は、kW価値を支払う要件をあらかじめ定める必要があり、対象が硬直的になりがちである。
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- 主張4のコメントで述べたとおり、kWに対価を支払うには、「電気を供給できる状態にあること」を、あらかじめ定義する必要があるので、支払いの対象が硬直的になりやすい面はある。
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- 容量市場がこの課題を克服するには、新たな技術が市場に参入した際、速やかにそのkW価値を評価する体制を整備することが必要である。
主張7:容量市場は、再生可能エネルギーの導入を妨げ、火力発電設備を必要以上に保護するので、CO2の排出量が増加する。
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- 容量市場は、kW価値すなわち「電気を供給できる状態にあること」に対価を与えるものである。したがって、kW価値を提供する技術として、火力発電が優れているのであれば、火力発電設備により多くの対価が支払われるのは必然である。
主張8:隣国との輸出入の可能性も含め、当面は供給力は十分な状態である。
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- 2015年6月、ドイツは、フランス・スウェーデン等の欧州大陸の12カ国と共同で、「域内エネルギー市場の枠組みにおける電力供給保障に係る地域協力宣言」に調印している。その宣言では、「需給逼迫の際においても、国際間電力取引に係る制限は禁止する」ことを謳っている。
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- これに従うと、将来、欧州大陸全体で電力需給がひっ迫し、フランス(容量市場を導入)に貴重な供給力が残っていた場合、ドイツの小売電気事業者が、フランスの小売電気事業者よりも高い買い値を示せば、国際間電力取引を通じて、その供給力を奪うことができることになる。しかし、フランスのその供給力は、容量市場を通じてフランス国民の負担で維持されていたものである。
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- 上記は極端な例を示したが、隣国のフランスが必要な設備を維持するために、より確実な手段である容量市場を導入する一方で、ドイツがその成果にただ乗りする結果にならないだろうか。相互に依存する欧州市場内の大国として、ドイツの責任とは何かを議論する必要があると感じられる。
考察は以上である。ドイツの電力市場2.0は、日本への示唆に富む興味深い取り組みであり、今後も動向を注視していく。
- <参考文献>
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- ドイツ経済エネルギー省(2015) , “An electricity market for Germany’s energy transition White Paper by the Federal Ministry for Economic Affairs and Energy”
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- 電力改革研究会(2014) , “新電気事業法における供給能力確保義務を考える(続)インバランス料金議論に関する補論”
執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹