手元に置きたいエネルギー辞典、ダニエル・ヤーギン著「探求」

書評


国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長

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生き生きと紹介される歴史的動きと関わった人達

 過去から今日に至る石油、天然ガスの開発に関わる記述ついては、まさに、著者の専門フィールドであるだけに、全て興味深く読める。イラクのクエート侵攻、サウジアラビアの状況など、生々しい。ホルムズ湾の海底に眠りイランとカタールに区分される巨大ガス田の開発で先んじて成功したカタールの状況も生き生きとしている。
 その他、特に、ロシアについての詳細な記述やカスピ海周辺地域からのパイプライン・ルート問題などの記述は、今日現在の動きを理解するのに、大変に役に立つ。 
 掘削技術の革新についても説明があるが、メキシコ湾での深い海底油田開発の難しさなどに触れつつ、BPの石油漏出事故の紹介をする。この部分は真に迫るところがある。
 また、ベネゼラのチャベス大統領を引き合いに出しつつ「石油国家」を説明する。中国、ブラジル、ベネゼラ等は、国営石油企業を中核に、地球上の資源開発を進めている「新興勢力」だ。
 著者がピューリッアー賞を受けたのは著作「石油の世紀」(1991年刊)だった。それだけに、各章に見られる石油ガス開発メジャーを書いた部分は、特に読み応えがある。また、石油枯渇論に対して、現実の動きと石油開発に関わった人物を登場させ、反論をしている。そして、エネルギー安全保障の重要性も幾つかの事例を引き合いに出しつつ訴えている。“エネルギー安全保障が国家安全保障につながっている”ことを忘れた日本の政治家や一部有識者に読ませたいところだ。

自然災害とエネルギー

 興味深いのは、自然災害が及ぼしたエネルギー供給への影響についても、将来への警告を込めて触れていることだ。巨大台風や巨大地震などが多い昨今だけに現実味を感じつつ読める。一つは、2005年夏にアメリカ東部・フロリダ周辺を襲った巨大ハリケーン:カトリーナのメキシコ湾石油関連設備に及ぼした災害である。エネルギーの「流通」における課題を指摘している。石油・電力の流通支障については日本も東日本大震災で直面したところだ。また、日本の2007年の新潟沖地震による影響にも触れている。東京電力柏崎刈羽原子力発電所が甚大な被害を受け、800万KWの電力が欠落した。欠落発電分を補ったのはLNG火力発電のフル稼働だった。ヤーギンが触れているのは、この代替措置が、LNG調達急増という形で国際市場へ与えた影響についてだ。同様の状況が2011年東日本大震災により福島第一原子力発電所を始めとする日本の原子力発電所に生じたのだが、この点に触れることも忘れてはいない。

専門家とは一味異なった視点で描かれる気候変動問題

 気候変動問題についても、環境専門家とは一味違う形で語っている。天然ガスの利用増加傾向や再生可能エネルギーの開発の復活が紹介される。再生可能エネルギーでは、カーター大統領に始まり、現在のオバマ大統領に至るまでを俯瞰して書く。見出しは、「再生可能エネルギーの再生」である。ところで、気候変動問題における気候状況の把握や想定には大きな地球モデルが使われている。このモデルの性能の精度が良くなったのは、言うまでもないが、コンピューターの驚異的性能向上である。その性能向上に大きく貢献したのは、物理学者でもあり数学者でもある“フォン・ノイマン”なのだが、著者は、この科学者の紹介に数ページを使っている。面白いところだ。勿論エネルギーの効率利用についても触れられている。
 その他、再生可能エネルギーについては、太陽光や風力発電、バイオ燃料から藻に至るまで等幅広く紹介される。風力発電に関連して、「“間欠性”という難問」を詳しく書いてもいる。
 勿論、効率向上についても的確に触れている。