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不思議の国のエネルギー論議


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 第3は競争力に関する議論が欧州の出席者からほとんど提起されなかったことだ。1月に発表された欧州委員会のエネルギー気候変動パッケージでは主要貿易パートナー(特に米国)とのエネルギー価格差の問題が強く認識されており、欧州のエネルギー政策当局者が直面するジレンマを色濃く反映したものになっている。本会合でもそれが議題になっていたのだが、むしろ欧州の環境系シンクタンクから「エネルギーコストが国際競争力に及ぼす影響は部分的。むしろ高いエネルギーコストで省エネや新技術の開発が進めば、欧州の競争力を増すことにつながる」という議論が展開されていた。欧州のエネルギー多消費産業やポーランド等の東欧諸国が参加していなかったことも大きいのだろう。

 第4に石炭火力に対する敵意である。石炭火力は一度建造されるとロックイン効果を持つため、CCSを伴うものでなければ認めるべきではないとの議論が複数の出席者から提起された。これに対して「石炭火力を好むと好まざるとにかかわらず、石炭は潤沢に存在する安価なエネルギー源であり、これからエネルギーアクセスを拡大していく中で石炭火力の利用が拡大することは不可避である。これを前提とすれば、超々臨界や超臨界といったより環境に優しい石炭火力技術を普及すべきである。世銀等の多国間開発金融機関がこうした技術への融資をとりやめたとしても、石炭火力はなくならず、むしろより低効率の技術が中国の資金で作られることになる」という反論があった。私も100%同感であったが、更なる議論の時間もなく、ブレークアップセッションに移った。そこで私は上記の発言を引用しながら、「政治的・経済的現実を考えれば原子力や石炭等の特定のエネルギー源をオプションから外すことは非現実的。石炭火力がガス火力や再生可能エネルギーに比して環境性能が低いことは事実だが、それを排除できない以上、次善の策を考えるべき」と問題提起したところ、「超々臨界も超臨界もクリーナー・コール・テクノロジーではあるが、クリーン・コール・テクノロジーではない。貴兄の言っていることは450ppmどころか850ppm、1000ppmを許容する議論だ。自分の子供たちのためにそんなことは認められない」という指弾にも近い反応が返ってきて、思わず相手の顔をまじまじと見てしまった。

 こうしたラウンドテーブルの議論がどの程度有益なものになるかどうかは、出席者の質とバックグラウンドの広がりに大きく左右される。残念ながら今回のハイレベル会合は出席者に偏りがあったように思われる。このシンクタンクは他の分野では評価が高いだけに惜しまれる。議論の中にはあたかも「不思議の国のエネルギー論議」を思わせるものがあった。再生可能エネルギー導入20%、温室効果ガス削減20%、エネルギー効率改善20%のいわゆる「20:20:20」目標をかかげた欧州委員会ですら、米国との価格差の拡大、ウクライナ問題等に直面し、軌道修正を余儀なくされているだけに、当日の議論の中身は驚くほど旧態依然たるものだった。一緒に参加した日本の研究者の方から「欧州は今でもこんな感じなんですかね」と聞かれた。私からは「外の世界はずいぶん変わりつつあるのですが、この会議を聞いているとギャップを感じますね。会議出席者の顔ぶれが原因ですかねえ」と答えた。「一度しみついた考え方から脱却することは容易ではない」と自戒をこめて感じた次第である。

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