第8回 JX日鉱日石エネルギー株式会社 常務執行役員 新エネルギーシステム本部副本部長 山口益弘氏
“エネルギー変換企業”として、多様なエネルギーの供給に貢献
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
――ダブル発電は注目しています。
山口:燃料電池と太陽光のダブル発電を入れると相当大きな効果が出てきます。一つは、現在の約5000万世帯の1割に当たる500万世帯にダブル発電を設置していくと、原子力発電所8基分くらいが不要になります。私どもは、「ダブル発電の家を小さな発電所にしましょう」と言っています。
燃料電池はご家庭で電気を創るというだけでなく、発電所の発電能力を減らす可能性があります。燃料電池を一台設置することで、契約アンペアを10アンペアずつ下げられます。50アンペアを契約しているご家庭において、燃料電池1つで40アンペアに下げて契約電力量を減らせます。普及が進めば、電力会社は供給する電力のキャパシティを従来より多く持たなくてよくなります。
現在の電力会社の発電所稼働率は6割程度かと思いますが、稼働率やエネルギー効率が良くなり、燃料電池を入れただけでも相当なインパクトになるでしょう。今、汐見台(磯子区)で、集合住宅での実証を始めました。16戸の集合住宅にエネファームを6台と太陽光発電20kW、蓄電池を30kWh設置しています。これにより電力自給率80%、CO2排出量50%の削減を目標としていますが、なかなか面白いですよ。
――今後の燃料電池のコスト面の課題については、いかがでしょうか?
山口:燃料電池の課題として低コスト化をさらに図る必要があります。売価でだいたい1台80~90万円くらいまでにはなるのではないかと思います。屋外に取り付ける給湯器が約20万円と言われますので、仮に80万円だとすると、お客様は60万円ほど初期投資はアップしますが、燃料電池を設置すると光熱費が年間6万円くらいプラスになります。そうすると10年間で60万円のプラスですので、初期投資は回収できます。何とかそこまでいくように、メーカーもここ2~3年でコストダウンを実現しなければいけません。
――そこまでコストダウンできれば、燃料電池の理解が大きく広がりそうです。
山口:最終的に日本のエネルギーをどう考えていくのかという具体的なシナリオやロードマップを見せていかないと、国民は納得しないでしょう。その中に、中央の系統電力や分散型の供給システム、またエネルギーの多様化による選択の幅を広げておくことを盛り込む必要があります。シェールガスやシェールオイルが今、非常に注目を浴びていますし、価格を引き下げるインパクトにもなってきています。化石燃料を上手に使っていけば、エネルギー供給不安に陥ることはないと思います。
【インタビュー後記】
創エネ事業など、石油会社が今後どのような展開を図っていくのか、お話を伺う前から興味津々でしたが、山口さんはテンポよくユーモアも交えながらお話くださり、楽しくインタビューさせていただきました。創エネハウスも見学しましたが、太陽光発電と燃料電池のダブル発電やHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)、リチウムイオン蓄電池、ペレットストーブなどの創エネ機器や省エネ関連機器がたくさん揃っていて、暮らしのエネルギーがこれから確実に変わっていくことを実感しました。ガソリン、灯油、LPガス、太陽光発電、燃料電池、水素エネルギー・・・と、ユーザーの求めに柔軟に応え、トータルな提案ができる「エネルギー変換企業」として、これからの展開に期待しています。