望ましい電力市場と発送電分離の姿
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
今後、現在の主要9電力会社は、新しい全国パワープールという単一の土俵で各社の供給エリアを越え、発電・小売部門において相互に競争することになる。さらに、将来的には、燃料調達や発電部門を統合し、全国で2~3の電力グループへの再編も現実的な視野に入ってくる。他方、エリア毎の送配電は、従来通りの事業体制が継続される。こうした環境変化に対応する方策の一つとして、新たに持株会社を作り、各社の発電部門を統合しつつ、送配電を行う電力会社をそのまま継続する、という戦略が考えられる。もし将来的に発電部門の統合が進み、寡占の問題が顕在化する場合、全国での市場支配力を規制する必要が高まれば、市場取引価格を可変費(増分燃料費)ベースのコストプールとして規制対象とすることも可能だ。すでに紹介した米国のISOであるPJMなどで一般的に行われているように、電力会社や新電力会社が発電設備を自己保有したり、相対契約により確保することを許容し、長期相対契約によって電源に対する投資インセンティブが確保されやすい仕組みとするが、さらに容量市場などにより発電部門の固定費が適切に回収できる仕組みを別途設けることも必要となると考えられる。
自己保有や相対契約を行った電源の運転スケジュールは、バランスグループが自ら決めてもよいが(セルフスケジュール)、かならずそのスケジュールをISOに提出するとともに、需給ひっ迫時はISOの指令に基づいて、上限出力までの増出力を行うことを求められる。
原子力発電機能は、各電力会社から分離し、官民共同出資の原子力発電企業に集約する(図2)。その発電量は、先渡し相対契約や全国パワープール(リアルタイム市場や容量市場)へ卸売りされるが、その販売収入のみで廃炉などの事業費用が不足する場合は、不足分をストランデッドコスト(回収不能費用)として、託送料金に上乗せし全国の利用者の負担にするなど、長期の持続可能性に配慮した設計が必要である。
小売や需要家サイドでは、競争活性化のため、より多様な参加者の参加を促すことが重要となる。新電力などの小売会社は、相対取引や市場で確保した様々な電気を組み合わせ、ユーザーのニーズに応じた新しいサービス展開が可能になる。また既存の電力会社も、新たな小売会社を別に設立して、互いのエリアを跨いだ競争を行う。需要家のデマンドレスポンスも、その管理・集約を行うアグリゲータなど、新ビジネスを誘発し、それを通じて市場参加が容易になる。確定数量契約(あらかじめ受給する電気の量を確定させる契約)を有し、ISOに需給計画を提出できる大口需要家は、アグリゲータを介さずに市場に参加出来るようにする制度設計も可能である。
アンバンドリングで大きな課題となる、「電力会社の営業・配電(営配)分離」の問題も、米国ペンシルバニア州の事例などを参考に整理すれば、さほど大きな課題とはならない。現在の電気事業法では需要家の一般用電気工作物の調査義務を電気の供給者(小売事業者)に課している。例えば、全面自由化後はエリアの送配電事業者に課すことにすれば、現状の電力会社の営業・配電部門における現業業務の大半は、エリアの送配電事業者の業務として仕分けされ、問題は顕在化しない。
また、ユニバーサルサービスや需要家保護の要請には、送配電設備を保有する送配電事業者に需要家へのスタンダードオファー提供義務(予め届け出た標準約款による供給を行う義務)を課す。標準約款以外の条件で供給を行う場合には、別途、小売会社を設立することを求めることになる。その場合、新たに設立される別会社は、新電力会社と共に、おそらく全国区で競争しながら供給を行うことになるだろう。