望ましい電力市場と発送電分離の姿


Policy study group for electric power industry reform

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2.電力システム改革のあるべき姿とは

 現在、焦眉で最重要な課題は、大震災以降顕著となりつつあるわが国のエネルギー需給構造の脆弱性を、いかに解消するかだ。安全確認が済まない原子力発電の再起動が見込めぬために、化石燃料への依存度が大幅に高まっており、従来以上に安価で安定的な燃料調達の重要度が高まっている。発電分野の競争促進目的で発電部門を細切れにすれば、価格交渉力を含めた燃料調達力は低下せざるを得ないだろう。資源に乏しい我が国において燃料調達力の維持の持つ重要性を考えれば、上流の燃料調達から下流の発電部門までを統合すべきと考えられる。
 もう一つの供給面での課題は、今後の原子力の位置づけである。仮に中長期的に原子力依存度を下げるシナリオを選択する場合でも、経済性や供給力の面で当面の間はベース電源として活用し続けることが現実的である。電力会社や新電力が民間事業として持続可能な形で原子力発電を活用するためには、原子力発電事業に伴うリスクに対し現在不透明な国の責任範囲を明確化することが不可欠だ。その方策の一つとして、官民共同で原子力発電・廃炉事業などを行う新会社を新設し、既存発電所の運営を統合することも考えられる。そうした上で、原子力発電による発電量をすべての小売事業者が平等に利用できるような仕組みの構築が望ましい。さらに、国際連系線を新設し、周辺諸国と原子力発電を相互融通するオプションも考えられるのではないか。
 今後、大幅増加する再生可能エネルギーを、どのように自由化システムで活用するかも、システム設計のポイントだ。風力発電など、再生可能エネルギーは季節・時間毎の出力変動が著しいため、その変動分を火力発電などによる需給調整力で吸収する必要がある。加えて、風力発電に条件のよい立地場所は、北海道・東北・九州などの地方に偏るため、現在の9電力会社の単位毎に需給や周波数を調整するのではなく、より広域的なプール運用により需給・周波数調整を行う方式に改めて吸収する方が工学的にも経済的にも効率的だ。

 一方、需要サイドでは、今後一層の省エネルギーやデマンドレスポンスが進み、また電気自動車等の普及により、新たに利用者側での蓄電能力の活用余地が生まれてくる。IT(情報技術)との融合によりスマート化する需給調整力を、全国大の電力市場でも需要側から入札(ネガワット取引市場)に活用することも重要だ。さらに、9電力会社の区割りを超えて全国展開する企業のサプライチェーン内で最適なエネルギーマネジメントができるよう、現在の地域割を跨ぐ自己託送ニーズも高まろう。例えば、A地方での節電分を、B地方の工場で利用すると、いった全国レベルでの省エネだ。

 こうした供給・需要両面からの新潮流を考えると、全国にある需給・周波数調整能力を一括して共同活用できる電力システムや、新電力や消費者などの系統利用者から見て9電力会社の区割りを意識しないネットワーク利用制度に移行する方向性が求められているのではないか。
 今秋に再開される電力システム改革専門委員会の検討では、欧米諸国の前例に倣い
 ① 機能分離型: ISOの設立による系統計画・運用の中立化
 ② 法的分離型:電力会社の送配電部門を持株会社のもとで分社化
の2者の間の選択が予定されている。しかし、単純な両モデルの二者択一に留まらず、わが国の環境とニーズに応えるため、さらに工夫を凝らした電気事業の再構築が必要であろう。