第4回 大阪ガス株式会社 エンジニアリング部エネルギー・電力ソリューションチーム・マネジャー 松本将英氏
スマートエネルギーネットワークで切り拓くガスの可能性
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
実証事業から広がるガスの発展可能性
――都市ガス事業は、給湯や暖房、厨房のイメージが強かったですが、これからは発電分野にも広がりが出てきそうですね。
松本:我々が、お客さまに対してベストミックスの提案などができるかにかかっています。現在、国の電力システム改革の検討では、すべてのお客さまに電力の選択の自由を保証するという方向です。つまり電力の自由化・小売りの自由化がされるということです。現在は大手の電力会社だけが各家庭に電気をお届けできますが、各家庭で電力会社を選べるような制度に変わっていくと言われています。そうなると、電力、ガスに拘らずに、お客さまにとってよりよいご提案ができる事業者にならないといけないと思っています。
――いつ頃スマートエネルギーネットワーク社会は実現する見通しですか?
松本:これは難しい質問です。現在はいろんな実証がなされている段階です。具体的な実案件はまだ出てきていない状況です。より安い通信技術や、標準的な通信規格の導入の問題もありますし、何よりもエネルギー供給を融通する主体がどこなのかという問題があります。電線は電力会社、ガス管はガス会社と完全に棲み分けている状況ですので、地域としてネットワークでつながった全体を誰が供給するのかというと、エネルギー供給主体やサービス供給主体を決めたビジネスモデルを確立しなくてはなりません。
――たしかに供給主体をどこにするのかは、難しい問題ですね。その他に主だった新たな取り組みはありますか?
松本:将来的な事業の発展形のひとつとして弊社が取り組み始めたのが「デマンドレスポンス」です。節電の世の中になると、電気が足りないならば発電所を増設すればいいと、供給サイドの考え方として当然出てくるわけですが、電気が不足するのはそんなに長い時間ではありません。大型の発電所を1基作らなくても、ある時間帯のピークカットができたら、供給サイドで追加の大きな設備を持つことを回避できる可能性があります。使い方を変えていく、需要側でやり方を変えていくのです。
その一例として、コージェネを使ったデマンドレスポンスがあります。コージェネをお持ちのお客さまがいつもより少しコージェネを運転する量を増やします。そうすると、そのコージェネのお客さまは並行して普通に電力会社さんから受電されている量が少なくて済むわけです。つまり、世の中の電力需要がピークの時ならば、コージェネを少し多く運転することで、受けなければならない電力の量が減り、電力会社さんが送らなければならない電力の量が減るので、ピークの緩和に貢献できるのではないかと考えています。
具体的には、弊社は新電力のエネットと一緒に、エネットから電気を買っているお客さまで、かつコージェネをお持ちのお客さまとご一緒に、この取り組みを始めています。エネットから「今、電力需給が逼迫しています」という情報を私達大阪ガスが頂きます。私たちは仲介のポジション(アグリゲーター)として、その情報を複数のお客さまに「今需給が逼迫しています。コージェネの運転増加、追起動しませんか」と通信で募集をかけます。お客さまと同じシステムを共有して、システム上で行います。
我々はお客さまにメリットをお渡ししますので、お客さまは追加コストなども考慮され、それに見合うメリットを受け取ることができると判断された場合には、「わかりました、運転を増加します」と返してくれるわけです。その複数のお客さまのコージェネの運転増加分を私たちがまとめてエネットに返す。エネットはその分だけ送る電気の量が減りますので、需給の逼迫が緩和されるという仕組みです。
――お客さまにとってインセンティブを与えて、需給のバランスを取るわけですね。
松本:その通りです。その原資はどこから出てくるのかですが、需給逼迫の頃はおそらく高い値段がついている、けれども供給しなければならないので高い値段で電気を調達して、それをお届けする、ということになります。しかし、需要サイドで工夫してくれて、送らなければならない電気の量を減らせるとなると、追加で高い電気を調達することが不要になり、コスト負担を回避できるわけです。その回避できたところを原資としまして、お客さまにメリットをお渡し、私たちやエネットもメリットが出る、ということでWIN-WIN-WINの関係になるというわけです。このような実証を今年6月から始め、現在ある程度実績が出てきているところです。
――コージェネを核としたスマートなエネルギー社会を目指す上で、普及の課題は何ですか?
松本:導入促進と稼働促進という2つの側面があります。導入促進は、やはりイニシャルの時の工事費のようなものですが、技術開発、コストダウンです。もう一つは、やはり熱をうまく組み合わせて使えるか、という点です。熱があるところでその熱を使えると、他の燃料でボイラー炊くことが回避できますので、電気と併せて熱も出てくるのを需要といかにセットして、コージェネをご提案できるかです。
政策面でのご支援も期待したいです。例えば、デマンドレスポンスの仕組みは、お客さまは別に私達に言われなくても「今どうも節電の世の中だ、ならばこのコージェネをもうちょっと運転増加して、電気を世の中に出そう」という方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。一方現在すでに、分散型・グリーン市場が創設されておりますが、運用的には少し使いにくいところがあるように思います。そこで現状ある制度のさらなる拡大や、またある程度小さい単位、あるいは節電分(ネガワット)でも買ってくれるような新しい取引市場ができると、ずいぶん後押しになるかと思います。また、ドイツではコージェネの電気もFITのように買い取ってくれる制度があると聞いています。日本でもコージェネを2030年に向けて大きく導入する目標が掲げられているわけですから、その後押しとなるような市場や買取制度の創設をぜひお願いしたいと思っています。
【インタビュー後記】
スマートエネルギーネットワークの構想や現況のお話を伺うのは、ワクワクして楽しかったです。エネルギー自給率わずか4%に日本において、技術革新が著しい天然ガスの活用は、より高効率にエネルギーを使っていくためには、不可欠だと思っています。松本さんのストレートで飾らない言葉も心に残り、今後の取り組みにエールを送りたいと思います。コージェネレーションが核となるスマートエネルギーネットワークについて、その仕組みだけでなく、社会的意義をより多くの方に理解してもらえるようにと願います。